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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1,三人の旅
9/11

ブルーテイルに雫を





 宝石は、遺跡の前に静かに留まっていた。

 紫の輝きは先ほどよりも穏やかで、まるで呼吸をするように淡く明滅している。


 ルーンは掌を開き、ブルーテイルをそっと前へ差し出した。

 宝石に近付いた瞬間、ブルーテイルはゆっくりと顔を上げ、小さく鳴き声をあげる。それに応えるように、ブルーテイルの身体が淡く光りはじめた。

 青から紫へ、紫から白へ。

 グラデーションのような光が、小さな身体を包み込む。


「……はぁ」


 ルーンは小さく息を吸い、宝石へと手を伸ばした。


 指先が触れた瞬間、ひやりとした感触が掌に伝わる。

 それと同時に、胸の奥がざわりと揺れた。


 ――宝石(カラー)から今まで以上の"怖い"という感情が流れ込んでくる。


「(…大丈夫。なにも怖いことはないわ)」


 まるで、泣いている子供に言い聞かせるようにルーンは宝石に思いを伝えた。

 この先にあるのが、失敗か、成功か。そのどちらかしかないことを、ルーンはよく理解していた。


「……大丈夫」


 今度は自分に言い聞かせるように、そしてブルーテイルを安心させるように、静かに告げる。


「ルーン…」


 フィルが呟く。

 ルーンは目を閉じた。


 次の瞬間、彼女と宝石を囲むように魔法陣が展開される。

 幾重にも重なった円と紋様が淡い光を放ち、空気が震えた。


「……っ」


 シオンとフィルは息を呑み、その光景を見守ることしかできなかった。


 宝石が、光に包まれる。


 ルーンは眉をひそめ、意識を一点に集中させた。


 ――引き出すのは、ほんの一滴の雫。

 それだけでいい。


[…!]


 そして。


 宝石の表面を伝い、

 一滴の雫が、静かに零れ落ちた。


[…………]


 ブルーテイルが顔を近付け、その雫を口に含む。


 瞬間。

 紫色の光が弾けるように広がった。


 ブルーテイルの身体が光に包まれ、輪郭がぼやける。

 けれどすぐにその光は収束し、次の瞬間には。


[きゅいっ!]


 元気な鳴き声が周囲に響いた。


 ブルーテイルは先ほどまでの弱々しさが嘘のように、ルーンの掌の上でくるくると回り始める。


「……ブルーテイル!」

[きゅうっ]

「…よかった」


 ルーンの口から、安堵の息が漏れた。


 宝石の光がゆっくりと消え、魔法陣も霧散する。

 そして、宝石は再び形を変えた。

 魔獣の姿へと戻るが、その姿は先ほどとは違う。

 狂気も、威圧もない。

 ただの、どこにでもいる魔獣と変わらない存在だった。


 魔獣は一度、ルーンを見上げる。


「ありがとう。もう、大丈夫よ」


 そう告げると、魔獣は小さく鳴き、背を向ける。

 やがて遺跡の奥へと、静かに姿を消していった。


 ブルーテイルは、ぴょんと跳ねてルーンの肩へと移る。

 その瞬間、全身の力が抜け、ルーンはその場にへたり込んだ。


「ルーン!」


 慌ててシオンとフィルが駆け寄る。


「大丈夫か?」


 ルーンは小さく頷き、フィルの差し出した手を借りて立ち上がった。

 少しふらつきながらも、彼女は二人の方へ顔を向ける。


「逃がしてしまってもよかったのか?」

「…ええ。平気よ。私たちの目的はあくまで雫ですもの。ブルーテイルが雫を飲んだことであの子も落ち着いたはず。パープルの歪みはすぐに治まるわ」

「ルーン。少し顔色が悪いけど、ほんとに大丈夫?」

「心配ないわ。……それより、お礼を言わないとね」

「お礼?」

「ええ」


 ルーンは頷き、髪をかきあげる。

 そして、静かに、はっきりと。


「ありがとう。貴方たちがいなかったら、ここまで来られなかったわ。……この子も、感謝してる」

[きゅうっ!]


 そう言って、口元を緩ませて微笑んだ。

 彼女の肩の上で、ブルーテイルも元気よく鳴き声をあげる。


 その笑顔に、フィルは思わず顔を赤くし、照れくさそうに頭をかいた。


「い、いや……その……とっ、当然だよ!困ってる女の子を助けるのは、探求者の義務だからね!!」


 シオンは何も言わず、ただ小さく頷く。


 こうして三人は、最初のカラー・パープルの雫をブルーテイルに飲ませることに成功した。

 そして彼女たちは遺跡を後にし、紫の風に背を押されながら町へと戻っていった。




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