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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1,三人の旅
7/10

シオンとフィル




 その夜、遺跡へ向かう道の途中、三人は開けた場所で野営をしていた。

 帳が下り、周囲は虫の音と焚き火の爆ぜる音だけに包まれている。


 焚き火を囲むように腰を下ろし、簡単な食事を終えたあと、ルーンたちの間にはしばしの沈黙が流れていた。


 炎を見つめていたルーンが、ふと顔を上げて、シオンたちの方に顔を向ける。


「ねぇ」

「ん?」

「二人は、いつから一緒にいるの?」


 唐突な問いだった。


 フィルは一瞬きょとんとしたあと、眉尻を下げてシオンの方を見る。


「…それ、重要か?」

「重要…っていうほどでもないけど、少し気になって。話したくないのなら、これ以上は聞かないわ」

「別に言いたくないわけじゃないよ。でも、えと、…じゃあ、それは…シオンからどうぞ」


 シオンは横目でフィルを見つめた。いいのか、と視線で言葉を送ると、彼は苦い表情を浮かべるも渋々頷く。


「……、三年前だ」


 それを見て、仕方ない、とでも言うようにシオンは息を吐いた。


「その頃、俺はまだD級の探求者で、フィルは探求者ですらなかった」


 シオンは焚き火に小枝をくべながら、淡々と語り始める。



+


 三年前。


 ギルドの依頼で、シオンがとある森を探索していた日のこと。

 魔獣の討伐と地形調査を兼ねた、ごくありふれた仕事だった。

 だが、森の奥へ進むにつれ、彼は妙な違和感を覚えた。


「………?」


 魔獣の気配が濃い。

 それも、倒された痕跡がやけに多い。


 警戒しながら進み、森の最奥、ひらけた空間の中心。

 シオンは、そこでひとりの少年を見つけた。


 傷だらけの身体で、今にも倒れそうになりながら、身の丈よりも大きな盾を支えている少年。


 それが、フィルだった。


 彼の格好は、今のような動きやすい服装ではなかった。

 王族が着るような、豪華な装飾が施された服。

 森には明らかに不釣り合いな姿だった。


「(……何だ、あれは)」


 遠くから様子を窺っていると、フィルがこちらの存在に気付いた。


「だ、誰だ……っ!」


 次の瞬間、盾がこちらに向けられる。


「まさか、追手がもうここまで…!」


 完全な警戒。


 だが、敵意は感じられない。

 必死に何かを守ろうとするような構えで、フィルはシオンをただ見つめていた。


「…………」


 剣を抜くのはよそう。

 そう判断したシオンは、剣から手を離し、敵意がないことを示しながら、ゆっくりと近付いた。


「安心しろ。俺は敵じゃない」


 言葉と態度で示す。


 近付くにつれ、状況がはっきりと見えてくる。


 小柄な身体には明らかに大きすぎる盾。

 無数の切り傷と打撲。

 そして、周囲には倒れた魔獣の痕跡。


 やがて、フィルはシオンが敵ではないと悟ったのか、盾を下ろし――ほっと肩を落として、その場に座り込んだ。


「はあぁ。なんだよ…。追手が来たのかと思ってそわそわしたじゃん」

「ここにいた魔獣は、お前がやったのか?」

「……ああ。いきなり襲い掛かってきて吃驚したけど、盾があってよかったよ」

「……ここらでは見ない身なりをしているが、どこから来た?北の大陸か?」

「えっ…!?あ、ええっとぉ…」


 聞くと、フィルは言いにくそうにシオンから視線を逸らす。

 視線を泳がせて、あきらかに動揺していた。


 そして


「……た、頼む」


 酷く小さな声だった。


「その、会ったばかりのやつにこんなこと言うのはおかしいとは思うけど……オレを、助けてほしいんだ」


 フィルは言い、その言葉を聞いたシオンは眉をひそめる。


「何?」

「オレ、ここに来たのは初めてで、今凄く困ってるんだ!…慌てて出てきたからお金もそんな持ってないし、だから…!」

「…………」


 正直、気乗りはしなかった。

 関われば、面倒なことになる。

 そんな予感があった。


 だが――


「なっ!この通り!人助けだと思って!!」

「………、はぁ」


 このまま放っていくわけにもいかなかった。


「お前、名前は?」

「なま…、え、えと……フィル、です」

「……仕方ない。このままここで野垂れ死なれても困るからな。町まで連れてこう」

「! ほ、本当か!?やった!さんきゅ…っ、あ、いや、ありがとう!命の恩人キタコレ!」


 そうしてシオンは、フィルの手を取った。


 それが、彼らの始まりだった。



+



「そこからは、まあ……流れだ」


 シオンは回想を終え、焚き火に視線を戻す。


「風の向くまま、っていうほどでもないが……、気付いたら俺たちは一緒に行動するのが当たり前になっていたんだ」

「あの時、シオンに会わなかったら、オレはたぶん今ここにいない。シオンが見つけてくれてよかったよ。ほんと」


 話す前は渋い顔をしていたフィルが口を開き、シオンに言った。


「…………」


 ルーンはしばらく黙り込み、二人を見つめる。

 なるほど。だから彼らは一緒にいるのか。


「? …ねぇ、フィル」


 そこで、ふと彼女の脳裏に疑問が浮かぶ。


「貴方、王族なの?」


 シオンと出会ったとき、フィルは王族のような格好をしていたと言っていた。ならば、フィルはどこかにある国の王家の人なのではないだろうか。

 そう思ってルーンが聞くと、フィルの肩が一瞬ピクリと震える。


「え!?ま、まさか!オレは違うよ…!そんな、大した身分じゃないから、オレは……!」

「…………」

「えと、あー…。パ、パン食べたら眠くなってきたなぁ!じ、じゃあ、オレ、もう寝るね!おやすみ!」


 そう言いながらフィルは立ち上がり、シオンたちに背を向けて離れていく。

 あからさまに動揺し、あからさまに誤魔化され、呆気に取られたルーンは目を瞬かせた。


「フィル…?」


 地面に敷いた布の上に横になったフィルを確認し、シオンが口を開く。


「……探求者の中には、複雑な事情を抱えた奴が数多くもいる。あいつも、そのひとりだ」

「……複雑な事情。…貴方も?」

「………、どうだろうな」


 曖昧な返答。

 それ以上、彼は何も言わなかった。



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