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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
68/78

ごめんなさい





 魔獣の巨体が崩れ落ちて間もなく。

 廊下の向こうから、複数の足音が駆け込んできた。


「シオン!なんかすげぇ音したけど、なんか……、うわ」


 先頭に現れたジェイクが、部屋に足を踏み入れた瞬間――床に広がる血溜まりを見て目を見開いた。

 その背後にいたリジーとウェイズは、部屋の隅で蹲っているオルカの姿を見つけるや否や、顔色を変えて駆け寄る。


「姉御!」

「大丈夫か!?」


 二人は慌てて彼女の肩に手を伸ばした。

 オルカの服は血で濡れ、呼吸も浅い。

 心配する二人を見つめ、痛みに眉を寄せながらオルカは小さく息を吐く。


「……騒ぐほどじゃないよ。平気だ」


 強がるように言い、リジーの手を借りてゆっくりと立ち上がる。

 足取りは重いが、意識ははっきりしていた。


 そして、オルカは一歩一歩、シオンの方へ歩み寄る。


「助かったよ」


 素直な礼だった。

 シオンは淡々と視線を返す。


「俺は、フィラーラを助けただけだ」


 その答えに、オルカは一瞬きょとんと目を丸くし――ふっと笑った。


「あんた、愛されてるね」


 ぽつりとそばにいたフィラーラに向けて呟く。

 フィラーラは目を瞬かせ、少しだけ頬を赤くした。


 その時、オルカの表情がふと曇る。

 ライアスの姿がない。


「……なぁ、あいつは?」


 リジーに問いかける。


 首を傾げるオルカに対し、リジーとウェイズは顔を見合わせ、言葉を詰まらせた。


 嫌な沈黙。


 オルカの瞳が鋭く細まる。


「……まさか」


 次の瞬間、彼女は傷の痛みも忘れたように走り出していた。


「姉御!」


 呼び止める声も聞かず、部屋を飛び出す。



+



 先ほどまでシオンたちがいた部屋。

 そこへ戻るなり、オルカは叫んだ。


「ライアス!」


 視線を走らせる。


「ライアス!どこだ!いたら返事をしろ!」


 周囲をくまなく探し、

 そして――彼女は見つけた。


 部屋の奥。

 血溜まりの中に倒れた、白髪の男の姿を。


「……っ!」


 オルカの目が大きく見開かれる。

 すぐさま駆け寄り、膝をついて体を抱き起こした。


「ライアス!おい、起きろ!」


 何度も名前を呼び、肩を揺さぶる。


 だが――反応はない。


「ライアス!演技なんていいから!起きろよ!冗談じゃねえぞ!」


 触れた頬は、もう冷たかった。

 オルカの瞳に、みるみる涙が溜まっていく。


「……っ、くそ……」


 震える声が漏れた。


 やがて彼女はライアスの体を強く抱き寄せ、押し殺した嗚咽をこぼした。


 その様子を、シオンたちは入口付近で黙って見つめていた。



+



 それからしばらくして。

 シオンたちは屋敷の外へ出た。

 夜気が、血と埃の匂いを少しだけ薄める。


 オルカ、リジー、ウェイズも後に続く。

 三人とも疲労の色が濃い。


「あんたらには迷惑をかけたね」


 オルカがぽつりと言った。

 シオンは静かに問い返す。


「……なぜフィラーラを攫った」


 オルカは少しだけ視線を伏せ、懐から一枚の紙を取り出した。


 ギルドの依頼書。

 そこに記されているのは――人魚の涙。

 ジェイクは腕を組み、ふっと息を吐く。


「なるほどな。仕事ってわけか」

「そういうこと」


 オルカは肩を竦めた。


「けど、その子じゃ作れないってさ。無駄足だったよ」


 軽く笑う。


「やっぱこういうのは、地道にやらないと駄目だね」


 そう言ったものの、その表情はどこか硬かった。

 フィラーラが、そっと一歩近付く。


「……ごめんなさい」


 小さな声。


 オルカは一瞬目を瞬かせ、それから優しくフィラーラの頭に手を置いた。


「謝ることじゃないよ」


 ぽん、と軽く撫でる。


「あんたが無事でよかった」


 そしてそのまま、視線をシオンへ向けた。


「この子を大事にするんだよ」


 不意の言葉に、シオンは眉をひそめる。

 意味を測りかねたまま、何も返さない。


 オルカは小さく笑い、踵を返した。


「今回の迷惑の償いは、必ずする」


 そう言い残し、リジーとウェイズを連れて歩き出す。


「それじゃあな」


 そして、三人の背中は夜の闇へと溶けていった。



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