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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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男たちを追って





 男たちの気配を追い、シオンとジェイクは街外れの廃れた屋敷へと辿り着いた。


 蔦に覆われた外壁。割れた窓。

 風が吹くたび、どこかが軋む。


「……ここか?」


 ジェイクが低く呟く。


「ああ」


 シオンは頷き、慎重に扉へ手をかけた。

 重い音を立てて扉が開き、二人は警戒しながら中へ足を踏み入れる。


「うわ、中も結構ボロいな」


 懐から取り出したライトの光が、暗闇を切り裂く。

 宙には細かな埃が舞い、光の筋の中でゆらゆらと揺れている。


 どこかで小さな物音がした。

 ネズミでも住み着いているのかもしれない。


「おーい!フィラーラ!」


 ジェイクが名を叫ぶ。

 だが、返事はない。


 二人は視線を交わし、手分けすることにした。

 一階の部屋をひとつずつ確かめていく。崩れた家具、破れたカーテン、踏み抜きそうな床板。


 しかし、どこにもフィラーラの姿はなかった。


「シオン!そっちはどうだった?」

「いや。いなかった」

「…となると、やっぱ二階か」


 再び合流した二人は、屋敷奥にある階段へ向かった。

 今にも崩れ落ちそうな木製の階段だ。


「慎重にな」


 ジェイクが囁く。


 一段一段、慎重にのぼる。

 そして、二階へ足を踏み入れた、その瞬間。


「うぎゃあああっ!」


 鋭い悲鳴が廊下の奥から響いた。

 シオンとジェイクは顔を見合わせ、同時に駆け出す。


 近づくにつれ、悲鳴のほかに何かが壊れる音、そして低く唸るような吠え声が混じって聞こえてきた。


 魔獣の声だ――。

 壊れた扉の前に辿り着く。中から衝撃音が響く。


「うらぁ!」


 ジェイクが足蹴にして扉を蹴破った。


 室内の光景が、ライトに照らし出される。


「ガアアアッ!ウラアアアッ!!」

「ひいいっ!!もう駄目っスううう!!」

「オレたちの人生もここで終わりか…っ!」


 巨大な影が暴れ回り、その周囲では男たちが結界に守られながら必死に耐えていた。

 半透明の光の膜が、鋭い爪や牙を弾いている。


「…………」


 だが、部屋の中にフィラーラの姿はない。


「! た、助けてくれ!」


 男の一人が、シオンたちに気付き叫んだ。


 ジェイクは拳を握る。

 シオンに一瞬視線を送り、


「ここは任せろ」


 そう言って、魔獣へと飛び出した。


「どりゃあ!」


 激しい衝突音が響く。

 床板が砕け、天井の梁が軋む。


「ガアアアッ!!」


 魔獣の咆哮とジェイクの気合がぶつかり合い、やがて――重い音とともに巨体が崩れ落ちた。


 静寂。


 結界の光がふっと消える。

 守られていた男たちは、その場にへたり込み、荒く息を吐いた。


「た、助かった……!」

「し、死ぬかと思った…」


 ジェイクは腕を組み、彼らを見下ろす。


「……てめぇら、何者だ。何でここにいる?」


 低く、鋭い声。


 男たちは顔を見合わせ、次の瞬間、揃って姿勢を正し――勢いよく頭を下げた。


「すんまっせんした!」

「あ?」


 突然の行動に、ジェイクは目を見開く。


「俺たち、リジーとウェイズってんだ」


 名乗った二人は、まだ震えている。


「あんたらから、あの人魚を攫ったのは……俺たちだ」

「あん?」


 ジェイクの眉がぴくりと動いた。

 視線を落とし、二人と目線を合わせる。


 ジェイクとリジーたちが話しているその間、シオンは部屋を見渡していた。

 広くはない空間。天井にはいくつも穴が開いていて、おそらく魔獣はあのどれかから侵入したのだろう。


「…………」


 視線を巡らせた先――椅子と、背もたれに垂れ下がった縄。


 誰かが拘束されていた痕跡。


「フィラーラはどこだ」


 椅子に視線を向けたまま、シオンが問う。


「フィラーラ?」

「あの人魚じゃねえのか?」


 首を傾げるウェイズにリジーが小声で言った。


 話を聞けば、魔獣が現れた直後、オルカという女がフィラーラの拘束を解き、別の場所へ逃げたのだという。


「…………」


 シオンの脳裏に、昼間見かけた男女の姿が浮かぶ。


「他にも男がいただろう」


 そう続けると、リジーは眉尻を下げ、部屋の奥へ視線を向けた。


 シオンはライトを向ける。


 白い光の先。

 血溜まりの中に、白髪の男が倒れていた。


 ぴくりとも動かない。


「……」


 リジーが唇を噛む。


「ライアスだ。あいつは俺たちを守るために、ひとりで魔獣と戦って……」


 結界は、あの男の力だったのだろう。


「くそっ。あいつは、こんなところで終わっていい奴じゃなかったのに……っ!」


 重い空気が落ちる。

 シオンは眉をひそめて、踵を返した。


「フィラーラを探すぞ」


 言うと、ジェイクは短く頷き、立ち上がってシオンのあとに続く。


 二人は部屋を出ていく。

 その背を見送り、リジーとウェイズは顔を見合わせた。


「……リジー、オレ…もう帰りたいっス」

「馬鹿言うな。オレたちも行くぞ。ライアスを弔ってやりたいが、まずは姉御だ。助けねぇと」


 弱々しくも、互いに頷き合う。


 ふらつきながら立ち上がり、彼らも慌ててシオンたちの後を追った。



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