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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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人魚の涙は





 襲撃してきた男たちに担がれ、フィラーラは夜の街を抜けていく。


 人気のない路地をいくつも曲がり、やがて辿り着いたのは街の外れに建つ廃れた屋敷だった。

 窓は割れ、蔦が壁を這い、長く人の気配を失っていることがひと目でわかる。


「あー、…他になかったか?」

「最適な場所がここしかなかったんだ。許せ」

「……まぁ、いいか」


 軋む扉が開き、彼女は中へと運び込まれる。


 埃の匂いが漂う一室。

 フィラーラは椅子に座らされ、縄で体を縛られた。

 逃げ出せないように手首も足首もきつく固定され、さらに口元には布が巻かれて声も封じられる。


「ん…、」


 目の前には、彼女を攫った男たち。

 にやにやと笑いながら、まるで珍しい品でも眺めるように彼女を見つめている。


 その中のひとり――白髪の男が一歩前に出た。

 細い指先でフィラーラの頬に触れ、まじまじと顔を覗き込む。


「!」

「案外、楽勝だったな」


 低く、愉快そうな声だった。


「閃光弾なんて、一体どこで手に入れたんだ?」

「へっへ。こないだこの辺歩いてたドワーフのジジイからかっぱらったんっス!まさかこんなところで役に立つとは!」

「…おまえ、老人は対象から外せよ。可哀想だろ」

「とにかくだ」


 これで、捕まえることには成功した。

 だが問題はここからだ。


 ――どうやって“人魚の涙”を手に入れるか。


 男たちは部屋の隅に集まり、ああでもないこうでもないと小声で話し合う。


 脅すか、痛めつけるか、縛り上げるか――。

 どの案も決定打に欠けた。


「なかなか思いつかないもんスね」

「オレら、揃ってアホだもんな」

「アホなのはお前らだけだ」


 うーん。と、揃って頭を抱え始める。

 そこへ。


「……あんたたち、少し落ち着きなよ」


 背後から、静かな声が響いた。


 男たちの後ろに立っていた女が、ゆっくりと前に出る。オレンジが混じった黒髪の、鋭い目をした女だ。


「っ、」


 フィラーラは怯えた瞳で彼女を見上げた。


「こういうのはまず、信頼を得ないと始まらないだろ?」


 女は穏やかな声音で言い、フィラーラの前にしゃがみ込む。


「手荒な真似をしてすまなかったね。あたしはオルカ。で、あっちの白いのがライアス。あの小柄なのがリジーで、背の高いのがウェイズだ」


 順に顎で示しながら紹介する。


「あたしたちは怪しい者じゃない。ギルドの依頼で動いているだけだ」


 そう言って、オルカは一枚の紙を取り出した。

 依頼書だ。

 フィラーラの前に広げ、彼女はそれを見る。


「……?」


 人間の文字は、ルーンたちに教わって少しだけ読める。

 フィラーラは必死に目を凝らし、女の顔と依頼書を交互に見た。


 そこに書かれていた文字を読み取った瞬間、彼女はきょとんと目を瞬かせる。


 ――人魚の涙。


 その言葉を見た彼女は、くぐもった声で何かを訴えた。


「んん、」

「ん?何だ?」


 布越しでは聞き取れない。

 オルカは小さく息を吐き、口元の布を外した。


 それを見て、ライアスが眉をひそめる。


「おい、大丈夫かよ」

「大丈夫。縛ってるんだから」


 フィラーラは小さく息を吸い込んだ。


「あなたたち……人魚の涙、ほしいの?」


 その問いに、オルカたちは頷く。

 だがフィラーラは、困ったように首を横に振った。


「わたし、作れない」

「……は?」


 ライアスの声が低くなる。


「人魚の涙、子供を生んだことがある人魚にしか作れない。わたし、まだ子供だから……」


 言い淀む。

 フィラーラはまだ子供だ。

 あと一年ほどで大人と認められ、子を宿せる体にはなるが、今は違う。


 彼女の言葉を聞いて、部屋の空気が一瞬で変わった。


「……マジっスか」


 ウェイズが呟く。


「そんな話、聞いてないぞ」


 リジーが顔を青くする。

 オルカも目を見開き、依頼書とフィラーラを見比べた。


「つまり……あんたには無理だってことか?」


 フィラーラは小さく頷く。


 沈黙。


 やがてライアスが舌打ちし、乱暴に頭を掻いた。


「んだよ、それ!連れ去り損じゃねえか!」

「一年も待てるわけないっス……」


 落胆が広がる。


 ライアスたちは顔を見合わせ、ため息を吐いた。

 その時だった。


 ギ……ギギギギ……。


 どこからともなく、不快な音が響く。


「……ん?何の音だ?」


 リジーが周囲を見渡す。


 ライアスたちも辺りを見回し、音の出どころを探した。

 床か、壁か、それとも廊下か。


 ギギ……ギ……。


 今度は、より近くから聞こえる。

 オルカはふと違和感を覚え、ゆっくりと頭上を見上げた。


 天井の梁の影。


 暗くてはっきりとは見えない。

 だが――そこに、赤い光が二つ、ぎらりと瞬いた。


「……っ、上だよ!」


 それが何かを理解した瞬間には、もう遅かった。


 影が弾けるように落下する。


 咆哮。

 鋭い爪。


 魔獣だ。


「ぎゃあああっ!」


 リジーとウェイズの悲鳴が、廃屋に響き渡った。



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