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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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やはりすべて完璧は無理





 夜も更け、宿屋の一室には橙色の灯りが揺れていた。


 扉が開き、鉱山から戻ったジェイクたちが部屋へ入る。外套には薄く粉塵がつき、疲労の色は隠せないが、その表情には確かな手応えがあった。


「ほら、戦利品だ」


 ジェイクがテーブルの上に置いたのは、三つの赤い鉱石。

 いずれもガルシアの持つ鉱石とほぼ同じ大きさ。しかし形は三つ三様で、角ばったもの、やや丸みを帯びたもの、歪に尖ったものと統一感はなかった。


「……やっぱり、まったく同じ形のものは見つからなかったみたいだな」

「さすがにな。だから、俺たちは考えたんよ」


 数時間に及ぶ採掘の末に出した結論は単純だった。

 同じ大きさと色のものをある程度揃え、あとは加工で近づける。


「オレがなんとかするよ。少しずつ削って、整えて……この鉱石と寸分違わぬものを作る」


 懐から赤い鉱石を取り出し、ガルシアは言った。

 ドワーフの血が騒ぐのか、彼の目は静かに燃えていた。鍛冶職人や装飾職人を数多く輩出してきた種族にとって、精密な加工は得意分野だ。


「できるのか?」

「まぁ、多少の時間は掛かるけど、やってみる!」


 彼は自前の道具を取り出し、作業に取りかかる。


「3つあるから、2回失敗できるな」

「余計な事は言うな」


 カン、カン、カン――。


 小気味よい音が部屋に響く。

 赤い石の表面を少しずつ削り、形を整えていく。

 火花が小さく散り、削り粉が机に落ちた。


 その間、シオンたちは特にやることもないので、椅子に腰かけて他愛のない会話をしていた。

 鉱山の様子、雪原へ向かう準備のこと、街の料理の味。

 ジェイクが大袈裟に語る採掘中の出来事に、フィラーラがくすりと笑った。


「…………」


 シオンはそんなやり取りを聞きながらも、どこか落ち着かない感覚を拭えずにいた。

 昼間、雑貨屋で出会ったあの男女。彼らから感じた気配が、昨日の夜に感じた気配と同じだったのが気になる。


 まさか、彼らが自分たちを見張っていた?

 何のために――?


「ん?どうした、シオン?」

「……いや」


 カン、カン、カン――。


 心地よい音が続く。

 ガルシアが加工を始めてから、およそ一時間が過ぎた頃だった。


 バリンッ!


 突如、窓ガラスが軋む音と共に、何かが室内へ投げ込まれる。


 それは床に転がった。


 次の瞬間――眩い閃光が、部屋を白く塗り潰す。


「っ……!」


 視界が焼きつくように白く弾け、シオンは思わず目を覆う。ジェイクも呻き声をあげ、椅子を蹴倒す音が響いた。


「ちょ、何これ!手元が狂うんだけど!!」


 ガルシアの怒声。

 その直後、鋭い悲鳴が部屋を裂いた。


「きゃあっ――!」

「っ、フィラーラ!」


 フィラーラの悲鳴。

 声を聞いて、シオンは叫んだ。

 視界はまだ霞んでいる。


「助けて!」


 窓の方から、助けを呼ぶ必死な声。

 続いて足音が遠ざかる。


 ぼやけた視界の端に、男がフィラーラを肩に担ぎ、窓から飛び出す姿が微かに映った。


「っ、待て――!」


 やがて光が収まる。


 シオンは迷わず窓へ駆け寄り、身を乗り出した。夜の街路を見渡すと、街の出入り口の方へ走っていく影がひとつ。


「くそっ…」


 舌打ちをし、シオンは眉をひそめた。


「ん?」


 そこで、ジェイクは床に転がった小さな筒状の物を拾い上げる。


「何だこれ……?」

「それ、閃光弾だ!」

「せんこう……?」


 ガルシアが言う。


「ドワーフ族がよく使う道具だよ。普通は魔獣と遭遇した時に使うものなんだけど、…まさかこんな形で使うやつがいるなんて。失明したらどうするのさ、まったく!」


 聞き慣れない名に、シオンとジェイクは顔を見合わせる。


「これ、どう思うよ?」

「…………」


 シオンは顎に手を添えて考える。

 脳裏に、昼間の二人組の姿がよぎった。


「…ガルシア、加工を続けられるか?」


 シオンは振り返らずに問う。


「う、うん。大丈夫」

「頼む」


 短く言い残し、シオンは剣を掴んだ。

 ジェイクはすでに扉へ向かっている。


「行くぞ」

「ああ…!」


 低く呟き、二人は部屋を飛び出した。



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