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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
62/91

怪しすぎる





 翌朝。


 宿の前でジェイクたちと別れたシオンとフィラーラは、市場通りを抜け、防具屋へと足を運んだ。


 ホワイトのある雪原地帯へ向かうには、通常の装備では心許ない。

 厚手の外套、毛皮の手袋、耳当て付きの帽子――店主に勧められるまま、一つひとつ手に取り、確かめていく。


「これで、全員分は揃ったな」


 代金を払い、包みを受け取ったシオンは小さく息を吐いた。

 隣ではフィラーラが、ふわふわとした白い手袋を嬉しそうに撫でている。


「雪原、そんなに寒いの?」

「ああ。油断すると命に関わる」


 そう答えると、彼女は少しだけ背筋を伸ばした。


「あっ」


 防具屋を出てしばらく歩くと、フィラーラが足を止める。

 視線の先には、色とりどりの品が並ぶ小さな雑貨屋。


「…少しだけ、寄ってもいい?」


 シオンは一瞬考え、頷いた。


 店内に入ると、香木や小瓶、刺繍入りの布、小さな飾り物が棚いっぱいに並んでいた。

 フィラーラは目を輝かせ、あれもこれもと手に取っては、楽しそうに見つめる。


 そんな彼女を横目に、シオンはふと店頭近くの台に目を留めた。


 小さな花を模した銀のペンダント。

 その中心には、淡く光を宿す緑色の宝石が埋め込まれている。


「…………」


 ――ふと、幼馴染の顔が脳裏に浮かんだ。


 最近、昔の夢をまた見るようになった。と、彼女は言っていた。

 あの時の声は、どこか頼るようで、助けを求めているようにも聞こえた。


 だがシオンは、ただ彼女の頭を撫でることしかできなかった。


「…………」


 無意識のうちに、そのペンダントを手に取る。


 もし、あの時。

 頭を撫でる以外の行為をしていたら、彼女はどんな顔をしただろう。


「………」


 後悔しても仕方がない。分かっている。

 それでも、彼女と共にいると決めたあの日から、シオンの胸の奥にはひとつの想いがあった。


 ――彼女には、寂しい思いをさせたくない。


「シオン!」

「…!」


 弾む声に顔を上げると、フィラーラが戻ってきていた。

 手には、可愛らしいドット柄の小袋。


「何か買ったのか?」

「うん!シオンには、秘密!」


 嬉しそうに笑うその顔に、シオンは思わず目を細めた。


 ――その時。


「こんにちは」


 背後から声が掛かる。


 振り向くと、二人組の男女が立っていた。

 一人は白髪の男。

 もう一人は、オレンジが混じった黒髪の女。


 シオンは無意識に眉をひそめ、フィラーラを背に庇うように一歩前へ出た。


「……誰だ」

「そんなに警戒しないでくれよ。俺たちは怪しいもんじゃない」


 男は柔らかく笑うが、その目は笑っていない。


 当たり障りのない世間話が続く。

 へぇ、これから北の大陸の雪原へ向かうのか。あそこは危険な場所だ。気をつけろよ。――そんな言葉の端々に、どこか探るような響きがあった。


 途中、黒髪の女の視線がフィラーラへと向けられる。


「まあ、可愛い子」

「っ、…」


 手が伸びかけた瞬間、フィラーラはびくりと肩を震わせ、シオンの背に隠れた。

 眉尻を下げ、不安そうに服の裾を握る。


 シオンの視線が鋭くなる。


「あまり構わないでくれ」


 短い一言に、女はくすりと笑って手を引いた。


「あら、ごめんなさい。あまりにも可愛かったから。つい」


 それからも二人は他愛のない会話を続け、やがて何事もなかったかのように離れていった。


「……………」


 去っていく背を、シオンは黙って見つめる。


 ――昨日の夜に感じた気配と同じ気配を、彼らから感じた。


 言葉にできない違和感が、胸の奥でざらつく。


「シオン……?」


 不安げに見上げるフィラーラに、シオンは表情を緩めた。


「何でもない」


 本当は、何でもなくはない。

 だが、今ここで不安を広げる必要はない。


「戻ろう」

「……うん」


 そして、二人は宿屋へと戻っていった。



+


 シオンたちと別れてしばらく、白髪の男と黒髪の女は、人通りのない静かな裏道を歩いていた。


「間違いないね。人魚の番は、あの紺色の髪の男だよ」

「あの守り方、隠す気もないみたいだな。ほんと、うらやま」


 女は唇の端を吊り上げる。


「さて、次はどうやって引き離すかだけど」

「焦るな。機会はいくらでもある。戻って、あいつらと作戦を練るぜ」


 二人は互いに、にやりと笑い合った。



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