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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
61/76

フィラーラの想い





 宿屋の一室。

 丸いテーブルを囲み、シオンたちは明日の予定を立てていた。


「で、鉱山ってどこにあるんだ?」


 ジェイクが腕を組みながら尋ねる。

 シオンは無言で荷物袋から地図を取り出し、テーブルの上に広げた。

 油染みのついた簡素な地図。街の外れ、山沿いの道が細く描かれている。


 ガルシアが身を乗り出し、指を差した。


「ここだよ。小さな鉱山だけど、昔はたくさん掘れてたって聞いたことがある」


 示された場所は街から半日ほどの距離だった。

 鉱山へ向かうことは、すでに決定事項だ。


 だが――


「でも、ルーンたち、待たなきゃ」


 フィラーラがぽつりと呟く。


「ルーンって?」


 ガルシアが首を傾げる。


「仲間だ。今は別行動をしている」


 シオンが簡潔に答える。


 彼らには、ホワイトのもとへ向かうための準備と、そしてルーンたちを待つという目的がある。

 全員で鉱山へ向かうわけにはいかなかった。


 しばしの沈黙の後、結論が出る。


「よし。んじゃあ、鉱山へは俺とガルシアが行く」


 ジェイクが言う。


「で、シオンとフィラーラは街に残って、準備と、ルーンたちを待つ」


 ガルシアが不安げにシオンを見る。


「わかった」


 シオンは頷いた。


「何も起こらないとは思うが、気を付けて行け」

「任せろ」


 短い返答。

 そして彼らは話し合いを終え、灯りを落とす。


 明日に備え、各自、眠ることにした。



+


 夜。


 部屋の窓辺に、シオンはひとり立っていた。

 夜だというのに街はまだ明るい。

 通りには人影が残り、酒場帰りの笑い声が遠くから聞こえる。


 夕刻よりは減っているが、街道を歩く者も少なくない。

 シオンはただ、その光景を見つめていた。

 何かを考えているわけではなく、ただ、静かに。


「ん、…」

「?」


 その時、背後で小さな物音がする。

 振り向くと、フィラーラがベッドの上で起き上がり、目をこすっていた。


「……しおん?ねないの?」


 寝ぼけ眼のまま、舌足らずに問いかける。


「すぐに眠る」


 そう答え、シオンは再び外へ視線を戻した。


「…………」


 フィラーラはしばらく彼の背を見つめる。

 胸の奥が、とくとくと音を立てた。


 月明かりが窓から差し込み、シオンの横顔を淡く照らす。

 それだけで、彼女の瞳には熱が宿った。


 ベッドの端に腰掛け、フィラーラはシオンに声をかける。


「外、何かある?」

「いや。何もない」

「……何か考えてる?」

「いや。何も」


 短い返答。


 少し間を置き、フィラーラは言った。


「……明日、ルーンたち、来るかな?」

「さあな。それはあいつら次第だ。俺たちは待つしかない」


 淡々とした声。

 だがフィラーラにとっては、それだけで十分だった。

 彼女にとって、シオンとの会話はすべて特別だ。


「………」


 あの時――


 南の大陸の海岸で、初めて彼と顔を合わせた瞬間。

 彼女の世界は“恋”という色に満たされた。


 海岸の魔獣を追い払ってくれた礼として同行している、というのは表向きの理由。

 本当は違う。

 ただ、彼のそばにいたかった。


 フィラーラは静かに立ち上がると、シオンの背後へ歩み寄って、並んで窓の外を見る。

 人間の世界は、人魚である彼女にとって新鮮だった。

 海だけがすべてだった日々は、もう遠い。

 シオンたちと共にいることで、彼女の見ている世界は広がった。


「……シオン」


 名を呼ぶ。

 彼は振り向かずに返す。


「何だ」

「私、役に立ってる?」


 首を傾げ、不安げに問いかける。


「急にどうした」

「私、シオンたちと一緒にいる。でも、戦えるわけじゃない。……もしかしたら、足手まとい、かな?」


 眉尻が下がる。

 その様子に、シオンはようやく顔を向けた。


「そんな事はない」


 きっぱりとした声。


「お前は十分に役に立っている。お前がいなければ、今も南の大陸で立ち往生していたかもしれない」


 事実を述べるだけの口調。

 だがフィラーラの胸は、とくりと強く鳴った。


「本当に?私、シオンの役に立ってる?」


 シオンは迷わず頷く。

 その瞬間、フィラーラの顔にぱっと笑みが広がった。


 心から嬉しそうな笑顔。

 それを見て、シオンは小さく息を吐いた。


「…もう寝ろ。留守番組だと言っても、明日はやることがある」

「うん!おやすみ、シオン!」


 ジェイクたちが眠っていることも気にせず、声を弾ませ、フィラーラはベッドへ戻る。

 毛布に体がすっぽりと収まったのを確認し、シオンは再び窓へ視線を向けた。


「…………」


 ――先程から感じる妙な気配。


 微かに感じる視線。

 誰かがこちらを見ている。

 それは確かだったが、それが誰かまでは分からない。


「(……一応、警戒だけはしておくか)」


 シオンは静かに腰を下ろす。

 完全には気を抜かず、いつでも動けるようにしながら目を閉じ、彼も眠りについた。



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