騎士団から守る方法
街道での戦闘から半日後。
シオンたちは少年を伴い、目的の街へとやって来た。
時刻は夕方。
石造りの建物が赤く染まり、通りには仕事終わりの人々が行き交っている。
「とりあえず、話せる場所だな」
ジェイクの提案で、四人は通り沿いの酒場へ入った。
木の扉を押し開けると、肉の焼ける匂いと酒の香りが広がる。
奥の席へ腰を下ろし、料理と飲み物を頼む。
少年はまだ落ち着かない様子で、椅子に座った。
「……名前を聞いてなかったな」
シオンが静かに言う。
少年は一瞬ためらい、それから答える。
「ガルシア」
「俺はシオン。こっちはジェイクとフィラーラだ」
「よろしくね」
フィラーラがにこりと微笑む。
「お待たせしましたー」
しばらくすると、料理が運ばれてくる。
パンをちぎり、スープに浸しながら、ジェイクが話を切り出した。
「そんじゃ、話してもらおうじゃねぇの」
ガルシアの表情が強張る。
スープを飲む手を止め、懐からあの包みを取り出した。
布を少し開くと、赤い鉱石が鈍く光る。
それは炎の芯のように、内側から淡い光を帯びていた。
「……これは、俺の村の宝なんだ」
酒場の喧騒が遠くなる。
「オレの住んでる村は、山の奥にある小さな村で…、この鉱石は代々守られてきたものなんだ。だから、一度も村の外には出したことはなかった」
ガルシアは拳を握る。
「ある日、王都から騎士団が来たんだよ。調査だとか言って、村中を荒らし回った。それで、やつらはこの鉱石が祀られてる社を見つけたんだ」
「騎士団?…あいつら王都のやつらだったのか」
「…………」
騎士団。
シオンの目がわずかに細まる。
「鉱石を見つけると、やつらは"これも調査だ"って言って、鉱石を奪っていこうとした。でもそれは村の宝だから、それだけは持っていかないでくれって、村長たちは止めようとした。だけど、やつらは聞く耳を持たなくて……止めてきた村の人たちを…」
言葉が詰まる。
「殺したのか」
ジェイクが静かに続きを促す。
ガルシアは、小さく頷いた。
「ひどい…」
フィラーラが息を呑む。
「俺は何もできなかった。…これは、あとから聞いた話だけど、やつらは最初からあの鉱石が目的で、村の調査なんて口実に過ぎなかった。王都の王様が、どこから聞きつけたのか、あの鉱石の事を知ったみたいで、それでやつらに奪ってこいって命令したらしくて…。オレ、その時はまだ子供で…隠れてる事しかできなかった。大人たちは諦めろって言ってたけど、でも諦められなくて。だから、取り返すと決めたんだ」
それからの話は短く、しかし重くガルシアは語る。
鉱石を取り返すと決めてからの彼の行動は早かった。
王都へ向かい、城へ潜入し、警備の隙を突き、宝物庫から赤い鉱石を奪還。
「……そこまではよかった」
ガルシアの目に怒りが宿る。
「だけど、脱出する途中でダリスって人間に会って…、騎士団のひとりなんだけど、あいつは最初、騎士団を抜けたいから脱出するのに協力してやるって言って、オレに付いてきたんだ」
ダリスはガルシアの信用を得るために城の兵士に見つからないように脱出ルートを確保してくれて、それでも兵士に見つかった場合には一緒に戦ってくれて。
そうしていくうちにガルシアはいつの間にかダリスを信用していた。彼は憎き騎士団のひとりだが信用できる。彼になら、これからも背中を預けられる。
しかし、そう思っていたのも少しの間だけ。
「でも、あいつは…あと少しで城を出られるって時に…オレから鉱石を奪ったんだ。最後の最後で裏切られたんだよ…!」
信用てきると思っていた人間の裏切り。
罠。捕縛。
そして――
「そして、オレは処刑地に送られた」
「れぐす?」
「罪を犯したやつらが騎士団に連れてかれる処刑場のことだ。難攻不落の牢獄で、一度入れられたら二度と出てはこられないって噂がある」
フィラーラが首を傾げると、ジェイクが説明した。
酒場の灯りが揺れる。
「そんなところから、どうやって逃げてきた……?」
ガルシアは一瞬、視線を落とす。
「……ある人の協力のおかげだよ」
「ある人?」
「同じ牢屋にいた人だよ。名前は知らない。黒いフードを被ってたから、顔もわからない」
「………」
それ以上は追及せず、シオンは沈黙のあとパンを一口かじった。
「…話はわかった。それだと、おそらく追手はまた来るな」
言うと、ガルシアは苦い顔を浮かべた。
「つ、次またあいつらに襲われたら、オレはまた処刑地に逆戻りだ。…あいつらに追われたままじゃ、村に帰れない」
「騎士団か…。相当厄介だぜ、こりゃ」
ジェイクが腕を組む。
フィラーラはガルシアを見て、眉尻を下げた。
「どうすんだ、シオン?」
「シオン。放っておくの、だめ」
視線が自然とシオンに集まる。
「…………」
しばし考え、シオンは口を開いた。
「……仕方ない。首を突っ込んだのはこっちだからな」
「?」
「…鉱石を騎士団に渡す」
「え!?」
「ただし、渡すのはこれじゃなく、別のやつだ」
「………え?」
「べつの?」
「似たやつを探すって事か?」
眉をひそめたジェイクに、シオンは頷く。
「まぁ、確かに赤い鉱石なんて、その辺の鉱山漁ればゴロゴロ出てくるとは思うが……」
「それ、うまくいく?」
「色、形、大きさ。その三つが完全に一致したやつが見つかれば、うまくいけば騙せるだろうな」
「…オレを、助けてくれるのか?」
「ああ」
「っ、……ありがとう!兄ちゃん!」
ガルシアは深く頭を下げる。
シオンの言葉を聞いたジェイクとフィラーラは顔を見合わせた。
鉱石を探す。と言っても、ガルシアの持つ鉱石と完全に似たものを探すのは簡単ではないだろう。
だが、騎士団から彼を守るためには、この方法がシオンにとって最適解だった。
「…………」
シオンは、赤い鉱石を見る。
懐に隠し持つ"宝石"は、未だにそれに反応するように脈打っていた。




