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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
58/76

ドワーフの少年





 ──時は少し遡る。


 ルーンとフィルが集落へ辿り着く前――

 港町を離れ、街道を歩いていたシオン、ジェイク、フィラーラは、道中の他愛ない会話を交わしながら穏やかな時間を過ごしていた。


「地図によると、街まではここからまっすぐだよな」

「ああ」

「どんなところなんだろう。わたし、楽しみ!」


 シオンたちの前を歩きながら、フィラーラは口元を緩ませる。


「あっ」


 すると、突然彼女は足を止めた。

 勢いよく背中にぶつかりそうになり、シオンたちも慌てて立ち止まる。


「ちょ、急に止まるな!」

「どうした?」

「あれ」


 指を差す。

 彼女の視線の先。

 街道脇に、うつ伏せで倒れている少年の姿があった。


 三人は素早く駆け寄る。


「なんだこいつ?」

「だいじょうぶ?」


 近くでしゃがみ込み、フィラーラが少年の肩を揺する。


「うぅ……」


 微かな呻き声。指が動いた。


「み、水を……」

「みず!シオン!」


 シオンは迷わず、荷物袋から水筒を取り出す。


「ほら。ゆっくり飲め」


 少年を支えながら、慎重に水を与えた。

 最初はわずかに口を湿らせるだけだったが、やがて喉を鳴らし始める。


「……こいつ、ドワーフだな」


 まじまじと観察し、ジェイクが言う。


 確かに、がっしりとした体格と独特の耳飾りはドワーフの特徴だった。


「旅支度に失敗して生き倒れってパターンだな、こりゃ」

「? …ねぇ。おと、する」

「あ?音?」

「どこからだ」

「あっち」


 フィラーラが言い、耳を澄ませる。

 次の瞬間、遠くから複数の足音が響いた。


 鎧の擦れる音。

 武装した男たちが馬に乗って街道を駆けてくる。


「!?」


 その音を聞いた少年は、パッと顔を上げた。


「ヤバい!や、やつらだ……!」

「やつら?」

「こんなとこで倒れてる場合じゃない!逃げないと!」

「! おい、待て!」


 水筒を持ったまま、走り去ろうとする少年をジェイクが止める。


 シオンは、すぐさま状況を確認した。


 近付いてくる数は、五。

 装備は統一されている。

 おそらく、戦闘に慣れた一団だろう。


 そして、彼らから漂ってくる殺気めいた気配。


「────」


 シオンは眉をひそめて、剣の柄に手を添えた。


「ジェイク、いつでも動けるように構えておけ」

「は?」

「フィラーラはそいつを連れて後ろに下がれ」


 低く、迷いのない指示。

 真剣な表情のシオンを見て、二人は即座に動いた。

 距離を詰め、先頭の白い馬に乗った銀鎧の男が声を張り上げる。


「おい、そこの者たち!そのドワーフを渡せ!」


 シオンは、一歩前に出る。


「こいつに何の用だ」


 静かな声音。

 男は舌打ちする。


「そいつは我々の国から大事な宝である宝石を盗み出した罪人だ!大人しく渡してくれれば貴殿らに手出しはしないと約束しよう!」

「う、嘘言うな!これは元々オレたちの宝だ!盗んだのはそっちだろ!」


 少年は震えながらも、口を開いて反論する。


「なんだと罪人が!!」


 男たちが一斉に抜剣する。


「今度は"処刑地(レグス)"送りだけじゃ済まないぞ!お前ら、奴を捕まえろ!!」


 その言葉を合図に、男たちは手綱を引く。

 馬が地面を蹴り、更に距離を詰めてきた。


 シオンは動かず、じっと彼らが近付いてくるのを見つめる。


「先に行くぜ、シオン!」


 拳を構え、ジェイクが飛び出す。

 勢いよく迫る男たちのひとりを、上空からの攻撃で馬から強引に引きずりおろした。


「怯むな!まずその男から黙らせろ!」

「おお、いいぜ!どっからでも掛かってこいよ、雑魚ども!この拳で全員もれなく蹴散らしてやらぁ!」


 男たちの敵意がジェイクに集中する。

 男たちとジェイクの戦いをしばらく見つめ、シオンは剣の柄を握り、意識を集中させた。


「───」


 腰を落とし、短く息を吐く。

 視線をまっすぐ男たちの方へ向け、そして、駆け出すと同時に素早い動きで剣を振り抜いた。


 剣を抜く動作は最小限。

 無駄のない一閃。

 蛇のように男たちの間をすり抜け、彼らの武器だけを正確に弾き飛ばす。


「なっ!?」


 金属音が連続して鳴る。

 突然、持っていた武器がひとりでに飛び、男たちは驚いた。


「くっ……!」


 男の一人が体勢を立て直し、シオンへ向かって突進する。

 シオンの目が鋭く細まり、身体を滑り込ませ、剣の腹で男を攻撃した。


 衝撃で、男が馬から落ちる。


「な、なんだこいつら!強すぎる!」

「クソっ!…一時撤退する!態勢を立て直して出直すぞ!命拾いしたな、ドワーフの罪人!」


 白い馬に乗った銀鎧の男が、左手をあげる。

 その瞬間、男たちの足元に魔法陣が展開され、青い光が周囲を包み込むと共に彼らはその場から姿を消した。


 光に目が眩み、その後、静寂が戻る。


 男たちが消えたのを見ると、シオンたちはゆっくりと武器をおさめた。


「逃げやがった。何だったんだ、あいつら?」


 ジェイクが小さく舌打ちをする。


「……大丈夫か」


 少年に視線を向ける。

 少年は震えながら頷いた。


「…さ、さんきゅー。助かったよ。…強いんだな、兄ちゃんたち」


 でも、どうして助けてくれたんだ?

 聞くと、シオンは淡々と答える。


「理由はどうであれ、子供を無理やり連れて行こうとするのは感心しないからな」


 ジェイクが少年に近付く。


「お前、何で奴らに狙われてたんだ?罪人とか言われてたが…」

「それは……」

「さっき言ってた。…宝石?とかなんとか…」


 フィラーラが頭を捻らせて、思い出すように言う。


 少年は一瞬ためらい、服の内側から小さな包みを取り出した。

 布の隙間から、鈍い光が漏れる。

 そこにあったのは、赤い宝石だった。


「……!」


 その宝石を見た瞬間、シオンが懐に隠し持つ"宝石"が呼吸するように静かに脈打つ。


「───、」


 ただの鉱石ではない。

 シオンは眉をひそめて、少年の持つ宝石を見つめた。



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