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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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会わせたい人





「それで、本当は何があったんだ?」


 集落へ戻る道すがら。

 長は、隣を歩くルーンに静かに問いかけた。


 突然の言葉に、ルーンは瞬きをして顔を向ける。


「……何が、とは?」


 聞くと、長は目を細める。


「お前さんが、魔獣ごときでああなるわけがあるまい」


 その一言で、ルーンは息を呑んだ。


「…………、」


 図星だった。

 長は歩みを緩めず、もう一度言う。


「何があった?」


 しばしの沈黙。

 やがて、ルーンは小さく息を吐いた。


「……長には隠し事はできませんね」


 眉尻を下げ、前を歩くフィルを見る。

 まだ本調子ではない足取り。

 その肩には、ブルーテイルが乗っていた。


「あの、この事は兄さんには内緒にしてください」


 そして、ルーンは長にすべてを話す。


 フィルの掌に浮かんだ刻印のこと。

 その刻印が暴走したこと。

 フィルを狙う灰色の髪の女性と、女性が従えていた魔獣。

 ブルーテイルが不思議な力で暴走を止めたことまで、包み隠さず。


「これが、先程まで…あの地で起こっていた出来事です」


 ルーンは、一言も嘘偽りなく伝えた。

 話を聞き終え、長は小さく唸る。


「ううむ……」


 視線が、フィルへ向けられる。


「そうか。あの刻印が、あの少年にも……」

「あの時……彼が暴走した瞬間、怖くなってしまったんです」


 ルーンの手が震え、声が小さくなる。


「あの時の光景が、頭に浮かんで……それで……」


 重ねた両手に、力が入る。

 長は横目でそれを見た。


「……あの少年に刻印が現れて、どれくらいだ?」

「話によると……三年くらい前からだと」

「三年……」


 長は、ゆっくりと息を吐く。


「ここまで、さぞ苦労したろうな」


 前を歩くフィルを、静かに見つめる。


 ブルーテイルが肩の上で尻尾を揺らし、何度もルーンたちを振り返っていた。


「……ルーンよ。明日、彼を連れてわしの所に来なさい」


 やがて、長は言う。


「え?」

「お前さんたちに、紹介したい者たちがいるでの」


 そう言って、長は口元を緩ませて笑った。



+



「ここよ」


 翌日。

 ルーンはフィルを連れて、長の家を訪れた。


 長の家には初めて来る。

 フィルは外観を見上げ、背筋を伸ばした。


「な、なんか緊張するな…」

「大丈夫よ。行きましょう」


 足を動かし、扉を開け、室内へ入る。

 廊下を歩いて辿り着いた広い部屋には、長の姿しかなかった。


「こんにちは、長様」

「おお。来たか。待っておったよ」

「……兄さんは?」

「リースレッドには席を外してもらったから、安心せい」


 淡々と答える。

 ルーンとフィルは、長の前に立った。


「少年よ、体調はどうだ?」

「え?」


 長の問いに、フィルは一瞬戸惑う。

 その視線が、ルーンの方へ向いた。


「……長には全部話したわ。だから知っているの、刻印のこともね」


 小さく言うと、フィルは目を見開く。

 息を呑み、彼はゆっくりながらも頷いた。


「……大丈夫です」


 そう答えると、長は口元を緩める。


「それで、長様。私たちに紹介したいと言う人たちは……?」


 ルーンは、部屋全体に視線を巡らせる。

 見たところ、この部屋には自分たち以外に誰もいない。


 視線を戻して再び長に聞こうとした、その時だった。


「こいつか。刻印を持ってるってヤツは」


 背後から、低い声。

 ルーンとフィルは同時に振り向く。


 先程、ルーンが視線を向けた時には確かに誰もいなかったはずだが、いつの間にかそこには赤い髪の青年が立っていた。


 切れ長の目。黒の羽織り。

 少し遊ばせた髪には、わずかに白が混じっている。


 青年は、値踏みするようにフィルを観察していた。


「来たか。相変わらずタイミングがいいのぉ」


 青年を見つめ、長が笑う。


「…? お前さんひとりなのか?」

「もうすぐ来るぜ」


 そう言って、青年は天井を見上げた。


「……ほら、来た」


 小声で呟くと、聞こえてきたのは微かな音。

 バサバサと、羽ばたきのような音が近づいてくる。


「?」


 ルーンとフィルも、天井を見上げた。

 そして音が止み、直後――眩い光が、部屋を包む。


「!?」


 思わず目を細める。

 光は一瞬。収まると、長のすぐそばにはひとりの女性が浮かんでいた。


 白い羽根を背に持つ、朱色の髪の女性。

 純白のドレスを身に纏い、その姿はまるで花嫁のよう。


 女性はふわりと床に着地し、静かに目を開けた。

 その肩には猫が乗っており、「にゃー」と小さく鳴く。


「ごめんなさい、長様。少し遅れてしまいました」


 女性は長へと顔を向ける。

 耳元のイヤリングが、きらりと光った。


「謝らんでもよい。あやつらも今来たところだからな」


 長の言葉に、女性はほっと息を吐き、ルーンたちを見る。


 突然現れた、この人たちは誰だ。


「あの……長様。この人たちは?」


 ルーンが問う。

 長は頷き、女性と青年を彼女たちに紹介した。


「紹介する。彼女たちは“天族”と呼ばれている方々だ」


 静かな重みのある声。


「天族の(ルール)で名は明かせぬが、許してくれ」

「はじめまして。よろしくね」


 女性は柔らかく微笑む。

 赤髪の青年も女性の隣へ歩み寄り、片手をあげて「よろしく」と短く告げた。


 ルーンとフィルは顔を見合わせる。


 そして、女性が一歩前へ出た。


「長様、早速ですが、本題に移っても?」

「うむ」


 長が頷く。


 ドレスから覗く純白のヒールが床を鳴らし、女性はフィルの前で立ち止まった。


 彼女は、そっとフィルの右手に触れる。


「……!」


 女性の指が、掌の刻印をなぞる。

 冷たい感触に、フィルの肩がぴくりと震えた。


「…………」


 目を閉じる。

 静かな気配が、部屋全体に広がった。



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