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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
51/76

不穏な気配





 夕刻。


 集落の木々が、橙色の光に染まり始める頃。部屋の中では、ベッドに腰掛けたままフィルが眠っていた。

 刻印の話をしている途中、緊張と疲労が一気に出たのだろう。それに加えて、ルーンの兄の来訪。彼の負担は膨れ上がったはずだ。

 気がつけば、彼はリースレッドが家を出て行った直後、そのまま倒れるように静かに寝息を立てた。


「(……少し疲れたわね)」


 小さく息を吐いたルーンは、フィルを起こさないように部屋を離れ、自分の家をそっと出る。


 彼女が向かったのは、集落の近くにある湖だった。湖は、夕焼けを映して静かに揺れている。

 水面に近づくと、涼しい空気が肌を撫でる。ルーンは周囲に誰もいないことを確認してから、服を脱いで水の中へ足を踏み入れた。


「……ふぅ」


 冷たい水が、疲れを洗い流していく。

 彼女は岩に腰を下ろし、腕や顔に水をかけた。


 今日一日だけで、凄く疲れた。


「……(シオンたちは、今頃何をしているのかしら)」


 考えるのは、ここにはいないシオンたちのこと。

 フィルの右手に浮かんだ刻印のこと。そして、兄・リースレッドのフィルに対する態度。

 あの態度は本当に失礼だったと、思い出した途端、ルーンは眉をひそめた。


「(兄さんも、もう少しだけ人間を信用してもいいのに……)」


 パシャンと音を立てて、もう一度ルーンは顔に水をかける。


「(ホワイトのことも考えないといけないし、これじゃ、頭の方は休まらないわね。…この先、大丈夫かしら)」


 その時に水面に映った自分の顔は、思っていたよりも不安そうだった。



+


 一方、その頃。


 ルーンの家の中では、フィルがひとり、浅い眠りから目を覚ましていた。


「……ん……?」


 薄暗い部屋。

 外は、もう夕方の色だ。


「……ルーン?」


 返事はない。


 ベッドから起き上がり、部屋を見回す。

 テーブルの上には、本が閉じられたまま置いてあった。


「(……出かけたのかな?)」


 そう思って、フィルは彼女を探しに行こうと体を動かした。


 床に足を付けたその時、


「っ、」


 ――ぞくり


 背中を、冷たい何かが撫でる。


「……?」


 胸の奥が、嫌な音を立てる。

 静かなはずの部屋なのに、まるでそこに自分以外の何かがいるみたいな妙な気配が襲う。


「……なんだ?」


 そう呟いた瞬間だった。


 ――コツ


 部屋の向こうで、微かな足音がした。

 カチャ、と扉がゆっくりと開かれる。


「っ、」


 フィルは息を止めた。


「(……ルーン?帰ってきたのか?)」


 扉の方を見る。

 半分ほど扉が開かれれば、そこに立っている人物の姿がはっきりと目に映った。


 そこにいたのは、ルーンではなく、杖を持った女性だった。


 部屋の中に足を踏み入れ、その女性は、長い灰色の髪を揺らし、薄く笑みを浮かべたままフィルを見つめている。


「……こんばんは、フィル」


 低く、柔らかい声。


 フィルの全身が、強張った。

 喉が、ひくりと鳴る。


「……なんで、ここに……」


 絞り出した声は、自分でも驚くほどに震えていた。


「言ったでしょ?"今度は二人きりで会いましょう"って」


 一歩、また一歩と女性は近付いてくる。


「っ、」


 刻印のある右手が、じわりと熱を持つ。

 フィルは、思わずその手を胸に引き寄せた。


「……どうして、ここにいるって……」

「さあ?」


 女性…シエルは首を傾げる。


「貴方が凄く目立つからとか?…特に…そこが、ね」


 その瞳が、フィルの掌を捉える。

 不穏な空気が、部屋を満たしていく。


 外では、夕焼けがすっかり沈みかけていた。



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