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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
50/79

"見ている者"





 ルーンの家を出たリースレッドは、集落の中を静かに歩いていた。


 木々の間を縫う小道を抜け、やがて広場へと足を踏み入れる。

 昼下がりのはずなのに、どこか空気が重い。

 リースレッドは立ち止まり、周囲を見回した。


「(……妙だ)」


 耳が、肌が、僅かな違和感を拾っている。

 風の匂いが、いつもと違う。


「……何だ、この感じは」


 そう呟き、次に視線を上げる。


 空――集落の上空。

 一羽の鳥が旋回していた。


 ただの鳥に見える。だが、目を凝らした瞬間、リースレッドの表情が変わった。


「(……!)」


 鳥の体に、黒く淀んだ気配が絡みついている。

 生き物に自然と宿るものとは、明らかに違う。


「……あれは、まさか」


 背筋に冷たいものが走る。


 ――まずい。


 そう直感した瞬間、リースレッドは走り出した。


「っ、!」


 広場を横切り、集落の奥へと駆ける。

 その背中を、空の上の“目”が、静かに追っていた。



+



 同じ頃。


 集落から遥か離れた場所。

 岩陰に腰を下ろした女性が、灰色の長い髪を風で揺らしていた。


 彼女の視線は虚空を見つめているが、その“意識”は別の場所にある。


 ――鳥の目。


 彼女は鳥の視点から、ダークエルフの集落を上空から見下ろしていた。


「……ふぅん」


 女――シエルは、口元を緩める。


「まさか、こんなところにダークエルフの集落があるなんて。吃驚だわ」


 視界の端に映る、木造の家々。

 その中の一つ――ルーンの家で、意識が止まっていた。


「それに、あの子……ルーンって言ったかしら」


 シエルはくすっと笑う。


「前にも見たけど……なるほどね。フィルが好きになるのもわかるわ」


 唇に指を当てて、楽しげに目を細める。


「女の私でも、可愛らしいって思うもの。……食べちゃいたいくらい」


 くすくすと笑った、その時だった。


 ――“シエル”


 頭の奥に、直接声が響く。

 その瞬間、シエルは笑うのをやめた。


「……わかってるわ」


 視線を空に向けたまま、淡々と答える。


「目的は、あくまで“あの子”でしょ?」


 ――“余計な感情は持つな”


「はいはい」


 シエルは肩をすくめる。


「でもね、私、吃驚しちゃったのよ。フィルがダークエルフと知り合ってたなんて、ちょっと予想外で」


 ――“関係ない。頃合いを見て接触しろ”


「わかってるって」


 少し投げやりに返す。


「心配しなくても、ちゃんとやるわよ。へーき、へーき」


 しばらくして、頭の中の声は消えた。

 シエルは小さく息を吐き、肩を落とす。


「……まったく」


 ぽつりと呟く。


「うちのボスは、せっかちなんだから」


 そう言って、再び口元に笑みを浮かべた。


 その瞳は――

 遠くの集落と、そこにいる“少年”を、はっきりと捉えていた。



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