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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1,三人の旅
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旅の準備・2





 フィリックはしばらく無言のままそれを見つめ、やがてゆっくりと息を吐く。


「……シオン」


 低い声だった。


「お前、これが何か分かって持ってきたのか?」


 シオンは、その質問に正直に答えた。


「伝説の秘宝だというのはわかる。だが、それくらいだ」

「お前が見つけたのか?」

「いや。フィルが見つけた。あいつは、これが何なのかわかってなかったが」


 その言葉を聞いた瞬間、フィリックは眉間に深い皺を刻んだ。

 二人の会話を聞いて、リリアは首を傾げて鉱石に触れようと手を伸ばした。


「綺麗…。師匠、何なんですかこれ?」

「おおっ、無闇に触ろうとすんじゃねぇ!」


 しかし、触れる直前でフィリックに止められる。


「これはオリハナイトだ」

「おりは…?」


 その名に、シオンは特に反応を示さない。


「世界に数個と存在しない鉱石だ」


 フィリックが淡々と続ける。


「世界三大鉱石のひとつ。加工できる職人も限られ、流通すれば国家が動くほどの代物だが、三大鉱石の中でも、これは特に見つけにくいと噂されてるものでな。幻の鉱石とも呼ばれてる」


 シオンは一瞬だけ鉱石を見下ろす。

 説明を受けて、リリアは鉱石をまじまじと眺めた。


「へぇ。そんな貴重なものなんですね」

「お前、仮にも鍛冶職人だろ。これくらいわかんねぇでどうすんだ。知らなかった、で済む話じゃないぞ」

「……勉強不足ですみません」


 フィリックは鋭く言い切る。


「これを、どこで拾った?」

「それは言えない」


 即答だった。


 一瞬、店内の空気が張り詰める。

 だが次の瞬間、シオンは続けた。


「だが、あんたになら預けられる」


 真っ直ぐな視線だった。


「俺が知ってる鍛冶師の中で、これを預けても売らず、黙っていてくれるのはあんただけだ」


 フィリックは、しばらく黙っていた。

 やがて、深く息を吐く。


「……信頼してくれんのはありがたいが、だいぶ厄介だな」


 鉱石を布で包み、丁寧に箱へ納める。


「加工してくれてもいいと言ったが、これは大事に取っておくよ。さすがの俺も、これには手を出す勇気はねぇからな。……預かる期間は?」

「"刻が来るまで"と言っていた」

「とき?…誰に言われたんだ?」

「…………」


 それ以上、シオンは何も言わなかった。

 フィリックは箱の蓋を閉じ、シオンを見る。


「まあいい。確かにこれは預かった。誰にも見られない場所で保管しとくから、その"刻"っつうやつがきたら教えてくれ」

「ああ」


 短い返事だったが、それで十分だった。



+



 一方その頃。


 市場の通りを歩きながらフィルは荷物袋を肩にかけ、隣を歩くルーンをちらりと見た。


「なあ」

「何?」

「ルーンの好きな食べ物って、何だ?」


 唐突な質問だった。


「どうして?」

「食料を買うのに、参考にさ。買ったものの中に嫌いなものがあったら嫌だろ?」

「………」


 ルーンは一瞬考え込むように視線を宙に向ける。


「……そうね。食べられるものはあるけれど、食べられないものの方が圧倒的に多いわ」

「あ、圧倒的?」

「ええ」


 フィルは腕を組み、露店を見回す。


「えっと、干し肉は?」

「無理」


 即答だった。


「塩が強すぎるわ」


 聞いて、フィルは再び露店を見回す。


「じゃあ燻製魚」

「匂いが駄目」

「果物のジャムは?」

「酸味が合わない」

「煮込みスープ」

「油分が多い」


 次々と指を差して食べられるかの確認を取るも、ルーンの答えはすべてNO。

 フィルは足を止めた。


「……ちょっと待って。何なら食べられるの?いまんとこ全滅なんだけど!」


 頭を抱えて唸る。

 今度は彼女が露店を見回して、食べられるものはないかと探し始めた。


「………」


 眉をひそめる。

 そして、ひとつの店の前で視線を止め、指を差した。


「あれなら大丈夫よ」


 ルーンが指差したのは、パン屋だった。


「小麦は平気だから」

「おっ」


 少し希望が見えたフィル。

 すぐにパン屋へと移動し、彼は目の前のパンを手に取った。焼き立てなのか少しだけ温かい。


「じゃあ、食料はパンで決まりだね。えっと…これはどうかな?中に肉入ってるけど?」

「無理」

「野菜が入ったのは?」

「味付け次第」

「辛い系は?」

「絶対駄目」


 ここでも、ことごとく首を振るルーン。

 パンは食べられるものの、その中にも彼女には食べられないものがあるようだ。

 フィルは頭を抱えた。

 これは相当に厄介だ。


「……好き嫌いが激しすぎる」


 そのとき、ルーンの視線が一つの籠に止まる。

 中には、小さなパンが並んでいた。


「これは何かしら?」


 聞くと、店主が笑顔で答える。


「チョコレート入りのパンだよ」

「チョコレート…、甘さは?」

「ほんのり甘い程度だよ」

「…………」

「……ルーン?食べられるの見つけた?」


 再び、眉をひそめる。

 フィルが半信半疑で見ると、しばらくしてルーンは一度だけ頷いた。


「じゃあ、これをいただくわ」

「お。買ってくれるのかい?いくつ?」

「そうね。…長旅になるから…8個ほどいただこうかしら」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 店主は笑い、チョコレート入りのパンを紙袋に詰めていく。

 テキパキとした作業音を聞きながら他のものを眺めていると、フィルがホッと息を吐く。


「……チョコレートのパン、好きなんだね」

「ええ。甘すぎるものは駄目だけど。…貴方も何か選んだら?」

「え?あ、えと…そうだね。じゃあオレは、スパイスパン3個とホットドッグ2つください。……あと、シオンには」


 そう言って、フィルもパンを選び、店主に金貨を払う。

 パンが大量に詰められた紙袋を両手に抱え、彼らはパン屋を離れて歩き出した。


「…これ、途中で飽きないか?」

「多分、大丈夫」


 即答だった。

 フィルは空を仰ぐ。


「シオンが聞いたら、絶対驚くな……」


 パンの袋を抱えるルーンを見つめ、フィルはため息を吐いた。



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