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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1,三人の旅
4/11

旅の準備





「まずは、どのカラーから探すんだ?」


 フィルの問いにルーンは小さく頷き、荷物袋の中から一枚の地図を取り出した。テーブルの上に広げられたそれは、世界樹を中心に描かれた大陸図だった。


「ここに行くわ」


 彼女は今いる港町を指先で示し、そこからゆっくりと北へと指を滑らせる。やがて、古びた印が刻まれた場所で指が止まった。


「ここは、遺跡か……?」

「最初のカラーは、おそらくここにあるわ」


 ルーンの言葉にシオンは腕を組み、眉をひそめる。


「根拠は?」

「探すのは、パープル」


 ルーンはそう前置きしてから続けた。


「カラーは世界中を移動する存在だけれど、一度移動したあとは、しばらくその場所に留まる習性があるの。その停滞期を狙えば、見つけるのは比較的容易よ」


 彼女は二人の顔を順に見た。


 シオンとフィルは視線を交わす。

 カラーは“見つけるのが極めて困難”――それが一般的な認識だ。


「その情報……信じていいんだな?」


 シオンが問いかけると、ルーンは迷いなく頷いた。


「ええ」


 短く、確かな声だった。


 それ以上の議論は不要だった。

 三人はギルドを後にし、遺跡へ向かうための準備に取りかかる。

 港町から遺跡までは相当な距離があり、軽装で向かうのは自殺行為に等しい。

 そのため、十分な装備と食料が必要だった。


「二時間後、町の入り口で合流しよう」


 役割分担はすぐに決まった。

 シオンが装備の調達、フィルとルーンが食料の調達。


 三人は、それぞれ別方向へと歩き出した。



+


 フィルたちと別れたシオンが向かったのは、町の外れにある武器屋だった。


 扉を開けると、軽やかなドアベルの音が響く。

 その音に反応して、店の奥から一人の女性が顔を出した。灰色のエプロンを身につけた、緑髪の女性だ。


「!」


 シオンの姿を認めた瞬間、彼女は一瞬目を見開き、すぐに柔らかな笑顔を浮かべる。


「いらっしゃいませ、シオン」

「ああ。フィリックはいるか?」

「ちょっと待ってね」


 彼女の名はリリア。

 この鍛冶屋で住み込みで働く鍛冶職人見習いであり、シオンの幼馴染だ。


「師匠ー!」


 リリアは勢いよく奥へ向かって声を張り上げる。


 その呼び声に応えるように、再び店の奥から人影が現れた。大柄な体躯の、灰色の髪をした男性だ。手には使い込まれたハンマーを握っている。


「なんだ、シオンじゃねーか。お前がここに来るなんて珍しいな」


 彼――フィリック=スミスは、ギルドから派遣された特S級専属の鍛冶職人だった。

 ハンマーをカウンターの上に置き、シオンを見る。


「武具を新調しに来た」


 その一言で十分だった。

 フィリックは二つ返事で背後の棚から一冊のカタログを取り出し、カウンターに広げる。


 表紙をめくると、空中にホログラムが展開され、剣や盾、防具の一覧が立体的に表示された。


「さあ、好きなのを選びな」


 フィリックは言う。

 だが、今のシオンに高価な武具を揃える余裕はない。

 彼は正直にその旨を伝え、ホログラムの最下段に表示された剣と盾、そしてブレスレットを指差した。


「これとこれ。それと、このブレスレットもくれ」

「あいよ。ちょっと待ってな」


 フィリックは一瞬だけシオンの顔を見たが、それ以上は何も言わなかった。


「すぐ用意する」


 そう言ってカタログを閉じ、奥の部屋へと姿を消す。

 待ち時間の間、シオンは店内に飾られた武具を眺めながらリリアの話に耳を傾けていた。


「久しぶりね、シオンがここに来るの。元気だった?」

「ああ。…お前は、変わらずか?」

「…うん。相変わらず怒られてばっかり。でも、この間ね。初めてひとりで武器を作らせてもらったの。ちょっとだけ失敗しちゃったけど」

「そうか」

「あっ。そうそう。シオンにね、見てもらいたいものがあって…」


 ほとんど一方的に話す彼女にシオンは相槌を打つだけだったが、二人の間に流れる空気は穏やかだった。


 やがて、フィリックが戻ってくる。

 剣、盾、ブレスレット。

 三つの武具がカウンターの上に置かれ、シオンは腰の袋から金貨を取り出した。


「500、ちょうどだな。毎度あり」


 金貨を受け取ったのを確認すると、シオンは武具を荷物袋へと納める。


「それと、一ついいか?」

「ん?」

「預かってほしいものがある」


 そう言って、シオンは袋の中からとある鉱石を取り出し、カウンターの上に置いた。


「加工しても構わない」

「なんだこりゃ。鉱石か?………っ!」


 その瞬間、フィリックの目が大きく見開かれる。


 鉱石は、まるで内側から光を放つかのように水色に輝いていた。

 眩いほどの光が、店内を静かに照らす。


「……これは」


 フィリックの声が、わずかに低く震えた。




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