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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
39/81

食後





 食事を終えて部屋へ戻ると、すでにシオンが帰ってきていた。

 扉を開けたフィルが真っ先にそれに気づき、ぱたぱたと彼の方へ近づく。


「シオン。帰ってたんだな。随分と遅かったね」


 そう声をかけると、シオンが答えるより先にジェイクが口を挟んだ。


「女のとこにでも行ってたんじゃねえの?」

「……シオンはそんなタイプじゃないわ」


 ルーンが即座に切り捨てる。


「ひとつだけ、依頼をこなしてきた」


 ぽつりと、シオンはそう言った。


「依頼?」


 フィルが首を傾げる。

 けれど、シオンはそれ以上は何も語らなかった。

 立ち上がり、「シャワーを浴びてくる」とだけ告げて部屋を出ていく。


「え、シオン!」

「なるほど。俺たちには内緒の依頼ってわけね」


 何も言わずに部屋を出て行ったシオンにフィルは目を見開き、ジェイクは肩を竦める。


 そして、彼が出て行ったその後もフィラーラの勉強会は続いた。

 言葉辞典を広げ、フィラーラはベッドの端に腰掛け、ルーンの言葉に耳を澄ませている。


 覚えるには反復が一番――というジェイクの助言で、フィラーラはルーンの発した単語や文章をそのまま真似していった。


 噛んだところ、間違えたところは、うまく言えるまで何度も繰り返す。


 そして、二時間ほど経った頃。

 突然、フィラーラの声が途切れた。


「……?」

「すー…」


 見れば、彼女はルーンの隣で、こくりと頭を揺らし――そのまま眠ってしまっていた。


「辞典持ったまま寝てる」

「……そんじゃ、俺らも寝るか」


 ジェイクが言う。

 そうね。と、ルーンは小さく頷き、眠ったフィラーラを抱きかかえた。


「おやすみなさい」


 そう言って、彼女は部屋を出ていく。

 自分たちの部屋に戻り、ルーンはフィラーラをそっとベッドに寝かせた。

 一息ついてから自分も隣のベッドに腰をおろし、腹部に手を当てる。


 ――結局、カナメが用意してくれた食事には、ほとんど手をつけなかった。


「…………」


 悪いことをしたかしら、と思いながらも、目の前にあったのは彼女が苦手な食べ物、どうしても体が受け付けなかったのだ。


 ぐう、と小さくお腹が鳴る。


「……このまま何も食べないのは、さすがに駄目ね」


 少し考え、ルーンは立ち上がった。



+


 一階へと降りて、食事部屋へ。

 そこを通り抜け、その奥のキッチンへ向かう。


「!」


 扉を開けて中に入ると――そこには、先客がいた。

 音に気づいて顔を向けたその人物を見て、ルーンは目を瞬かせる。


「……シオン?」


 キッチンの前に立ち、彼は何かを手にしたまま、ルーンを見ていた。


「お前か」

「何してるの?」

「飯、作ってる」


 シオンの前には、小さな丸い木の桶が置かれていた。

 中には、ルーンの知らない白い食材のようなものが入っていて、近づくと、ほんのりと良い香りが鼻をくすぐる。


 湯気も微かに立っていて、肩に乗っていたブルーテイルも桶に近付いた。鼻をひくひくとさせて匂いを嗅いでいる。


「……これ、何?」

「米だ」

「……こめ?」


 それは主に東の大陸で食べられている穀物だと、シオンは簡単に説明した。

 しゃもじと呼ばれる道具で掬い、お皿に乗せて食べるらしい。


 彼は手を止め、掌に乗せた米を器用に三角形にまとめた。

 それを見て、ルーンは首を傾げる。


「……それは?」

「おにぎりだ。……食ってみるか?」

「え?」


 そう言って、シオンは一つ、桶のそばに置いてあったラップに包まれたそれをルーンに差し出した。

 綺麗な三角形。中には何も入っておらず、塩だけだという。


「…………」


 ルーンは、食べられないものが多いといっても食わず嫌いはしない。

 両手いっぱいに乗せられたそれを見つめ、ルーンは慎重にラップを外した。三角形の頂点から、そっと口に運び、もぐもぐと噛む。


 一回、二回、三回と咀嚼を続けていくと、ほんのり甘い味が口いっぱいに広がった。

 ルーンは、思わず目を見開く。


「……おいしい……」


 ぽつりと呟いて、もう一口。

 さらにもう一口と食べ進めるうちに、あっという間になくなってしまった。


「早食いだな」


 その見事な食べっぷりに、シオンが言う。

 ルーンは肩を震わせ、頬を赤く染めた。


「こ、これは、お腹が空いてたからで…」

「もっと食べたいなら、作り方教えるから自分でやれ」


 そう言って、シオンはラップに包んだおにぎりを桶のそばに置き、しゃもじで新たな米を掬う。

 彼の動きを見て、ルーンも見様見真似でしゃもじを取り、米を掌に乗せた。


「こうやって、手を動かして回す。何回かやれば……できる」

「……簡単そうね」


 シオンの掌には、また綺麗な三角形が出来上がる。

 けれど、ルーンがやると――できたのは、丸いおにぎりだった。


「……難しいわね」

「最初はそんなもんだ。俺もここまで来るのに時間かかった」


 納得がいかず、ルーンはもう一度しゃもじを持ち、米を掬い直した。



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