表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
38/78

フィラーラの勉強





 シオンがショウソウの鉱山で宝石探しをしている頃。

 宿屋の二階の一室では、ルーンとフィルがフィラーラに人間の言葉を教えていた。


 テーブルの上には、ルーンお手製の簡単な言葉辞典が広げられている。

 紙いっぱいに書かれた単語を指でなぞりながら、フィラーラは拙い発音でそれを口にしていた。


「……る、ルーン。……フィル……」

「そうそう。今のは上手だよ」


 フィルがにっこりして親指を立てる。


 まずは名前をちゃんと言えるようにしよう。ということになり、フィルは紙にそれぞれの名前を書いていった。

 発音と文字をひとつずつ教えられ、フィラーラは最初こそ頭を抱えて唸っていたが――

 一時間ほど経った頃には。


「……ルーン、フィル、ジェイク……」


 不安そうに言いながらも、指差しで三人を当てていく。


「おお……!」


 フィルは思わず拍手した。


「全部合ってる!」


 その後、シオンの名前も彼女はすんなり言え――


「やった!」


 フィラーラは小さくガッツポーズをして、フィルとハイタッチした。


「よく出来たわ、フィラーラ」


 ルーンが口元を緩めて言うと、フィラーラは頬を赤くして、にこっと笑う。


「じゃあ、次は簡単な会話ね」


 ルーンは淡々とそう告げ、辞典をぱたんと閉じる。

 フィラーラは、ぴしっと背筋を伸ばした。


「……貴女の名前を、教えてくれるかしら」


 ルーンの問いかけに、フィラーラは少し考えてから、ゆっくり口を開く。


「……わ、わたし、フィラーラ。にんぎょ…です。うみの、ふかく、すんでる…。…ねんれい、じゅ、じゅうごさい……です。……よろしく、おねす…」


 言い終えて、ぺこりと頭を下げる。


「……おねす」


 フィルが小さく呟く。


「“おねがいします”、よ」


 ルーンがすぐに訂正した。


「……あっ……!よ、よろしく、おねがいします……!」


 フィラーラは慌てて言い直す。

 そして今度は、彼女の方から尋ねた。


「……えと……あなたの、なまえは、なに……?」


 その質問に、ルーンは答えた。


「私はルーン。ダークエルフよ。西の大陸の山奥にある集落で育ったわ。年は、16よ」

「えっ!ルーンって年下だったの!?」


 フィルが大きな声を出す。


「……何か問題かしら?」

「いや、あの……、大人びてるから、年上だと思ってた…」


 ルーンが聞くと、フィルは眉尻を下げた。


「貴方が子供っぽいだけよ」

「うっ……」


 フィルが肩を落とすと、フィラーラが心配そうに彼の顔を覗く。


「ルーン…。フィル…いじめる、だめ」

「別にいじめてるわけではないわ」


 そのとき、部屋の扉が開いた。

 顔を向けると、そこにはカナメがいた。


「……あ」

「どうしたの?」


 ルーンが聞くと、カナメは少し息を弾ませて言う。


「ご飯、できたから。呼びに来た」

「飯か!」


 ジェイクがベッドから起き上がる。

 気づけば、もう夕方だった。


「そういえば、シオン、まだ帰ってこないな」


 フィルが言う。


「もうすぐ戻るわよ」


 そう言って、ルーンは立ち上がった。



+



 カナメに連れられて、一階の食事部屋へ向かう。


 扉を開けた瞬間、焼きたてのパンとスープの匂いが鼻をくすぐった。

 楕円形のテーブルの上には、色とりどりの料理が並んでいる。


 今日の夕食は、野菜たっぷりのコンソメスープとパン、そしてデザートのプリン。


「……おいしそう……」


 フィラーラの目がきらきら輝く。

 今日の夕飯はカナメが用意したんだ。とセシルに教えられた。

 料理出来るみたい。と、カナメは恥ずかしそうに頷く。


「いただきます!」


 席につくとフィルが手を合わせ、皆もそれにならった。

 フィルはスープ、ジェイクはパン、フィラーラは真っ先にプリン。

 それぞれが好きなものから手をつける。


 しかし、その中で――


「……………」


 ルーンだけは、皿を前にして動かなかった。

 隣の席のカナメが気づいて、声をかける。


「どうしたの、姉ちゃん。お腹空いてないの?」

「そういうわけじゃないわ」


 向かいに座るフィルも、手を止めた。


 ルーンは、食べられないものが多い。

 ここにある中では、かろうじてパンだけが大丈夫なはずだが――そのパンにも手を伸ばしていなかった。


 フィルは中央のバスケットからパンを一つ取る。手に伝わったのは、ざらざらとした感触。


「これ何パン?」

「砂糖パンだよ」


 カナメが言う。


「大量の砂糖をパン生地に練り込んで焼き上げた、おれ特製のパン!」

「え……砂糖?」


 フィルは顎に手を添える。

 口に入れると、とてつもなく甘い味が口いっぱいに広がった。


「っ、…これっ、全部そうなの?」

「あとはスープに使った野菜を入れたやつとか、唐辛子パウダーを大量にふりかけたやつとか。どれも美味しく出来たんだ!」

「…そ、そう」


 その会話を聞いて、ルーンは小さく息を吐いた。


「ルーン……すききらい、だめ……」


 フィラーラが言う。


「別に嫌いとかではないわ。味が合わないだけ」

「それを好き嫌いって言うんだよ」

「そんなの駄目だよ、姉ちゃん! 大きくなれないよ!」

「大きくならなくても問題ないわ」

「ルーン……おおきく、なる……。わたし、すききらい、ない。だから……こんなに、おおきくなった」

「……どこを見て言っているのかしら?」


 そのやり取りをしたあと、カナメが突然立ち上がった。


「よし! 決めた!」

「……何を?」

「姉ちゃんの好き嫌いをなくす特訓をする!」

「特訓?」


 全員が首を傾げる。


「そうすれば、姉ちゃんもみんなと一緒にご飯食べられるでしょ?」

「それ、いい、ていあん!」


 フィラーラが勢いよく賛同する。


「余計なお世話なんだけど」

「もう決めたから! 明日から特訓!」


 カナメは拳を突き上げる。


「わたしも……てつだう!」


 フィラーラも真似して拳を上げた。


「…………」


 両側で盛り上がる二人に、ルーンは面倒くさそうに息を吐く。


 その様子を見てフィルは困ったように眉を下げ、ジェイクは我関せずといった顔でパンをちぎって口に放り込んだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ