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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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再び、ラ=パープルへ





 船を手に入れたルーンたちは、フィラーラの操縦で海原を進み、ラ=パープルへと帰路についた。

 長い船旅の末、ようやく見えてきた港町の景色にルーンとフィルはほっと息をつく。


「んーっ。やっと着いたー!」


 港に着き、タラップを降りた彼女たちはそのまま馴染みの宿屋へ向かおうと足を動かした。

 しかしそこで、付近にいた船員に呼び止められる。


「ちょっと!ちょっと!困るよ!こんな所に無断で船を停めちゃ!許可は取ってあるの?」

「許可?」

「そんなもの取ってないわ。駄目なの?」

「駄目駄目!船着き場に船を停められるのは、特別に許可を貰った船だけだよ!わかったら、この船を近くの海岸かどこかへ移動させて!」


 それだけ言うと、船員はルーンたちから離れていく。

 船を停めるのに許可がいるなんて知らなかったと、彼女たちは顔を見合わせた。


「近くの海岸って、どこにあんだ?」


 ジェイクが聞く。


「ここから北にだいぶ行ったところだな」

「ここからだと、かなり遠いよね」


 シオンとフィルが答える。

 今から船に乗り、北の海岸に行くには結構な時間を必要とする。

 ルーンたちは再び顔を見合わせて、どうしようかと頭を悩ませた。


 するとそこでフィラーラが片手をあげ、「わたし、かいけつ、する!」と口を開く。


「フィラーラ、何とかできるの?」

「うん。まかせて。ふね、つくる、ときみたいに、うた、うたう」


 口元を緩ませて言い、フィラーラは船の方に身体を向ける。

 何をするのだろうかと見ていると、彼女は足元に魔法陣を展開させ、船を作った時のように歌を歌い始めた。


「────」


 船着き場に響く、フィラーラの歌声。

 彼女の歌声が船全体を包み込むと、船はみるみるうちに小さくなっていった。

 手のひらサイズの模型のような見た目となったそれを、フィラーラは大事そうに抱えて振り返る。


「ふね、ちいさくなった。これでかいけつ?」

「……お前、万能すぎねぇ?」


 口をあんぐりと開けたまま何も喋らないルーンたちの代わりに、ジェイクがぽつりと呟いた。



+



 宿屋の扉を開けると、店主のセシルが顔を上げた。


「……あ、おかえり。随分遅かったね」

「ただいま、セシルさん」

「? なんか見ない顔もいるね」

「紹介します。ジェイクさんとフィラーラ。二人とも、オレたちの仲間になったんだ」

「よろしく、おねす」


 フィラーラが頭を下げる。

 ジェイクの方はセシルと知り合いだったようで、軽い挨拶で済ませた。


「おーい!帰ってきたよー!」


 セシルはカウンターの奥に向かって声を張り上げる。

 その直後、どこからともなくダダダダッと足音が響き、階段横の扉が勢いよく開いた。


 そこから飛び出してきたのは、赤い髪の少年。


「おかえり!姉ちゃんたち!」


 彼は、南の大陸へ向かう前に見た時とは、まるで別人のようになっていた。

 ぼさぼさだった髪は整えられ、ボロボロだった服はきれいなものに替えられている。


「わっ、綺麗になってる!」


 フィルが声を上げる。


「あんたたちが宿を出たあと頑張ったんだよ。なかなかの暴れん坊で苦労した」


 眉尻を下げて言うセシルに、少年はむっとして言い返す。


「セシルのやり方が乱暴だからだ!」

「セシル“さん”な!」


 即座に訂正され、少年は口を尖らせた。

 セシルは一歩近づき、少年の頭に手を置く。


「それと、名前を考えたよ。いつまでも"少年"のままじゃね。……ほら、自分で言いな」


 ぽん。と背中を叩かれ、少年は背筋を伸ばし、少し緊張した様子で頭を下げる。


「えっと……おれの名前、カナメになりました!これからは、カナメって呼んでください!」

「記憶が戻るまでは、この名前でいくことにしたよ。よろしくな」


 セシルの言葉に、ルーンは少年…カナメに微笑みかけた。


「良かったわね」

「………うん!ありがとう!」


 カナメは頬を赤くしながら、嬉しそうに笑った。



+



 その後、ルーンたちは階段をのぼり、部屋へと向かう。


「あっ、シオン!ちょっと!」


 けれどそこで、シオンがセシルに呼び止められた。

 階段に足をかけてルーンたちのあとに続こうとしたシオンは彼女の方に顔を向ける。


「あんたに、ギルドから呼び出しだよ。帰ったら顔を出してほしいってさ」

「……わかった」


 それだけ答え、シオンは階段をのぼる。


 部屋では、ルーンが地図を広げてカラー・ブルーの場所を確認していた。

 近くにはフィルとジェイク、ベッドにはフィラーラが仰向けで眠っている。長時間の操縦と船を小さくするので体力を消耗したため、回復のために眠りについていた。


「少しギルドへ行ってくる」


 そう言い残し、シオンはひとり部屋を出る。


「きゅうっ」


 ブルーテイルが地図の上に乗り、シオンとフィラーラを除いた三人がブルーについて会議を始めた。


「ブルーがいるのは、西の大陸近くの海の上よ。そこまで行けば、ブルーテイルが反応するはずだから、すぐに見つかると思うわ」

「これまでの感じだと、たぶん戦闘になるよね」

「ええ。だから、準備は怠らずにね」

「うっし。腕が鳴るぜ!」


 そして、ルーンたちは、武器の点検と食料の調達を、シオンが戻るまでに済ませようと話し合った。



+


 ルーンたちと別れ、宿屋を離れたシオンはギルドへと足を運ぶ。

 扉を開けると、カウンターにいた受付の女性が気づき、口元を緩ませて微笑んだ。


「こんにちは、シオンさん」

「セシルに聞いて来た」

「お待ちしていました」


 そう言うと、彼女は立ち上がって奥の棚へ向かう。

 色とりどりのファイルが収められている棚の中から、黒いファイルが並ぶ棚の前に立ち、そこから一冊を取り出して戻ってきた。

 中にある依頼書の束から見せられたのは、「極秘」と書かれた一枚。


 内容は、ある場所での宝石探し。

 依頼主の名前は伏せられていた。

 シオンのご指名で、その依頼はすでに受理されている。


「期限は?」

「設けられておりません」


 それ以上は聞かず、シオンは「わかった」とだけ言って依頼書を受け取った。



+



「あ」


 いってらっしゃい。と女性に見送られながらギルドを出ると、シオンはその後、幼馴染であるリリアと鉢合わせた。

 シオンの姿を見ると、彼女は吃驚した表情を浮かべて目を見開く。


「シオン。…帰ってたんだね。おかえり」

「さっき戻った」

「ひとり?」


 シオンは無言で頷く。

 そこで、リリアはシオンの手に握られている依頼書に目を向ける。


「依頼、受けたの?」

「ああ」

「どんな依頼?」

「物探しだ」

「危なくないやつ?」

「そんなに危険はない」


 二人は、短いながらも会話を続ける。

 そんな風にやり取りを続けていると、途端に、リリアがふと表情を曇らせた。

 どうした。とシオンが聞くと、彼女は顔を伏せて、静かに口を開く。


「……えと、大した事じゃないんだけど、…最近ね、また、あの夢を見るようになったの」

「…………」


 シオンは眉をひそめる。


「久しぶりに見たから……ちょっと怖くなっちゃって……」


 リリアは笑うが、その表情は強張っていた。


 十数年前、シオンとリリア、ふたりの故郷であった村は野盗団に襲われ、家々は焼かれ、両親たちは命を奪われた。

 その時の夢を、最近になって彼女はまた見るようになったのだという。


「…もう、平気になったと思ったのにな。まだまだ駄目みたい」

「…………」


 震える肩を見つめたシオンは黙って手を伸ばし、彼女の頭にそっと触れる。


「!」


 小さな子をあやすような仕草に、リリアは顔を上げて笑った。


「私、もう子供じゃないよ?」

「……俺には、これくらいしかできない」


 手を離すと、リリアは小さく「ありがとう」と言った。


「それじゃ、私、行くね。買い物の途中なんだ」


 そして、シオンに手を振り、彼女は走り去っていく。

 その背を見送り、シオンもまた歩き出した。


 彼がこれから向かうのは、ラ=パープルの東にある――“ショウソウの鉱山”と呼ばれている場所だ。



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