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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
35/79

船を直す





 フィラーラが「船を直せる」と言ったその一言で、シオンたちは再び西の海岸へと足を運んだ。


 潮風に吹かれながら歩く道すがら、ルーンは何度もフィラーラの横顔を盗み見ていた。

 本当に、あの船をどうにかできるのだろうか――半信半疑のまま、彼らは彼女がいた船のもとへ向かう。


 やがて視界に現れたのは、打ち捨てられたように砂浜に横たわる大きな木造船だった。

 初めてその姿を目にしたフィルとジェイクは、思わず足を止める。


「……でっか」


 ジェイクがぽつりと呟く。


 今よりもずっと昔に使われていた船だと、シオンが言っていた。

 フィルはそっと船体に手を伸ばす。指先に伝わってきたのは、ざらざらとした乾いた感触だった。


「こんな大きなものを、どうやって直すの?」


 ルーンは言う。

 問いかけられて、フィラーラは両手を胸の前で広げた。


「わたし、このふね、なおす……ちいさい、ふね、つくる」


 小さい船。

 四人は顔を見合わせた。


「船の一部を剥ぎ取って、新しい小さな船を作るってこと?」


 フィルがそう聞くと、フィラーラは彼の方を見て、こくこくと大きく頷いた。


「ふね、ちいさい、つくる。そして、わたし……うた、おおきく、する」


 意味はよくわからない。けれど、ここまで来た以上、彼女の言葉を信じるしかなかった。

 シオンたちは再び視線を交わし合い、無言のうちにうなずき合う。


 まずは、船体から板を剥ぎ取るところからだ。

 四人は手分けをして作業を始めた。

 古びた釘を外し、使えそうな板を選びながら、一枚一枚運び出していく。


「がんばれー」


 少し離れた場所から、フィラーラが小さな声で応援していた。


「よいしょ…っ」


 作業を始めてから一時間あまり。

 使えそうなものだけを厳選しながらの重労働だったが、なんとか小さな船を作れるだけの板を集めることができた。


「はー。結構な重労働だったな……」


 ジェイクは腰を叩きながら、そうぼやく。

 積み上げられた板の前に立ち、ルーンがフィラーラに問いかけた。


「これで船が作れるの?」


 フィラーラは、こくこくと頷いた。

 そして、板の前に立つと足元に淡く光る魔法陣を浮かび上がらせる。

 魔法陣から光の粒子が舞い上がり、彼女の周囲を包み込んだ。


「…………」


 シオンたちは少し距離を取り、その様子を見守る。

 フィラーラは両手を胸の前で組み、小さく息を吸った。


「───」


 そして――静かに、声を漏らす。


 海岸に響いたのは、波音ではなく、澄んだ歌声だった。


「………」


 ルーンの耳に届いたその声は、どこか懐かしくて、優しくて――思わず息を呑むほどに綺麗だった。


「(何かしら、この歌声…。凄く落ち着く)」


 見ると、シオンもジェイクもフィルも、皆その歌に聴き入っていた。

 しばらくすると、積み上がっていた板が、かたかたと音を立てて動き出した。ふわりと宙に浮き、ばらばらに回転を始める。

 フィラーラの歌声に合わせて、板たちは意思を持つかのように動き、少しずつ形を成していく。


 船体、甲板、帆――船に必要なものが、次々と組み上がっていった。

 やがて、ひとつの船の形が出来上がり、フィラーラは歌を止めた。

 彼女の足元には、小さな船がぷかりと浮かんでいる。


「……ふね、つくった」


 そう言って、フィラーラは口元を緩ませ、四人に顔を向けた。

 ルーンはその光景を見つめたまま、しばらく言葉を失っていた。

 一体、何がどうなっているのか、理解が追いつかない。


「あと、これ、おおきくする」


 そう言って、フィラーラは再び魔法陣を展開し、もう一度歌い始める。

 すると、今度は船体がみるみるうちに大きくなっていった。


 港に停まっている船ほどではないが、四人が乗るには十分な大きさだ。


「かんせい!」


 歌を止め、フィラーラはそう言った。


「ふね、できた!」

「ひゅー。なんとも立派な船が出来たもんだな」


 ジェイクは口笛を鳴らしながら、船へと近づく。

 ルーンとフィルも続いて、まじまじとそれを見つめた。


「これ、ふね、おれい、おれい」


 フィラーラはシオンの方を見て言う。

 シオンは腰に手を当て、ひとつ息を吐いた。


 やがて四人は船に乗り込み、周囲を見渡す。

 これが、さっきまでただの板だったとは思えない。

 手すりに手をかけ、ルーンは海の向こうを見つめた。


「わたし、おれい、きにいった?」


 フィラーラが尋ねてくる。

 彼女の方に顔を向けて、ルーンは頷いた。

 フィラーラは無邪気に笑う。


 ――これで、この大陸を離れられる。


 そう思った矢先、フィルが首を傾げた。


「でも、どうやってこれ動かすの?」


 もっともな疑問だった。

 シオン、ルーン、ジェイクは顔を見合わせ、そろって肩を竦める。

 彼らの中に、船を操縦できる者はいない。


 どうしよう、と相談していると、フィラーラがシオンの肩をとんと叩いた。


「わたし…できる…ちから、できる」


 そう言いながら、彼女は舵を取る仕草をする。

 シオンは少し首を傾げたが、その仕草を見て察し、問い返した。


「操縦できるのか?」


 フィラーラは、こくこくと頷いた。


「そうじゅ…、わたし、できる。やる、やらせて」


 それも、お礼だと――そう言うように、フィラーラはにこりと笑った。



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