今日はもういい
古びた建物を後にしてからしばらくして、ジェイクとフィルは宿屋へ戻ってきた。
扉を開けると、先に戻っていたシオンとルーンが出迎える。
「戻ったか」
シオンがそう言って顔を上げ、その隣でルーンが立ち上がった。
「フィル……」
近付いてきたルーンは、すぐに、フィルの左手小指に巻かれている白い包帯に気づく。
「その指、どうしたの?確かそこには指輪が嵌められていたわよね?」
ルーンの声は、僅かに心配が滲んでいた。
返答に困ったフィルは、一瞬だけ言葉に詰まり、眉尻を下げる。
「……えーと、」
はっきり答えられずにいると、横からジェイクが口を挟み、
「気持ち悪いって言って、俺が無理やり外させたんだよ」
そう、さらりとした口調で言った。
「強引に外させたせいか、そん時に少し怪我しちまってな。そんで、この状態ってわけ」
そのままジェイクは、適当に話を繕いながら説明する。
もちろん、本当のことは一切言わない。フィルの気持ちを考えての、ジェイクなりの配慮だった。
「じゃあ、この包帯は貴方のせいなの?」
「まぁ、そうなる」
悪気もなく言ってのけたジェイクに、ルーンは眉をひそめる。
そんな彼女の表情を特に気にもせず肩を竦め、彼はギルドから持ち帰った依頼書をシオンに見せた。
「で、ギルドでこれ取ってきた」
依頼書を受け取り、シオンはそれに目を通す。
「……西の海岸での魔獣退治、か」
「報酬もそこそこだから、船のチケットを買う足しにはなるだろ。今すぐやるか?」
「…………」
シオンは一瞬だけ考え、視線をフィルの方へ向けて小さく首を振った。
「……いや、これは明日でいいだろう。時間はあるからな。急いてやるものでもない」
「そうか。それは俺も賛成だ。今日は色々あったからな」
その言葉にジェイクも同意する。
そのとき――
ルーンの肩に乗っていたブルーテイルが、小さく「きゅう」と鳴いて、ふわりとフィルの肩の上に飛び移った。
「……あ」
驚いて、フィルは顔を向ける。
ブルーテイルは彼の肩にちょこんと座り、顔を覗き込むようにして鳴いた。心配しているみたいだ。
「ブルーテイルも心配しているわ。今日は休めって」
「………、」
その様子に、フィルは思わず口元を緩めた。
「……ありがとう」
小さく呟いて、そっとブルーテイルの頭を撫でる。
ブルーテイルは満足そうに、もう一度「きゅう」と鳴いた。
「…………」
その光景を見て、ルーンは少しだけ安心したように息を吐く。
今日は休む。
フィルだけではなく、それは今の四人にとって、いちばん必要なことだった。




