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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
28/81

指輪





 港町の船着き場には、まだ数名の清掃員たちが忙しなく行き交っていた。


 壊れた桟橋の修繕、散らばった瓦礫の撤去、魔獣の爪痕が残る柱の補強――。

 船着き場は少しずつ元の姿を取り戻しつつあったが、完全に落ち着くにはまだ時間がかかりそうだった。


 ルーンたちは桟橋の端に立ち、作業の様子を眺める。


「少しいいか?」

「はい?」

「船は、いつ頃出せる?」


 シオンが近くを走っていた清掃員の女性に声をかけると、彼女は足を止めて振り返る。


「そうですね……たぶん明後日くらいには、全部片付いて船も出せると思います」

「明後日……」


 頭を下げて、女性は走っていく。


 四人は顔を見合わせた。

 本当なら今すぐにでもラ=パープルへ戻りたいところだが、しかし船が出ない以上、どうしようもない。


「……待つしかないわね」


 ルーンが眉をひそめて言うと、シオンは小さく頷いた。

 そのやり取りを見て、ジェイクは肩を竦める。


「んじゃあ、今日は解散か?そんじゃあ、俺たちはギルドで依頼でも見てくるか」


 そう言って、フィルの肩を軽く叩く。


「え、オレも行くんですか?」

「ひとりて行くのは寂しいからよ。…お前らはどうすんだ?」

「俺たちは宿に戻る」

「そうか。…なんかいい依頼見っけたら受けとくからよ。そん時ぁ、手伝ってくれよな」


 そして、ジェイクとフィルはシオンたちから離れ、ギルドへと向かった。

 二人を見送ったあと、ルーンは周囲を見回す。


「…………」


 船が停まっている桟橋を見つめて、彼女は顎に手を添えた。


「宿に戻るぞ、ルーン。……どうした?」


 歩き出そうと足を動かしたシオンは、ルーンの様子を見て首を傾げる。


「……ねぇ。思ったのだけど」

「?」

「船を買うことってできないのかしら」

「………。…できないことはないが、船を買うには莫大な金貨が必要になる。今の俺たちじゃ、手も足も出ない」

「莫大…。それって、どれくらい?」

「魔獣退治の依頼を一生分やっても足らないくらいだ」

「一生分、…。でもそれって、魔獣退治だけをやっていればって話よね?」

「………、何が言いたい?」

「…報酬金額の高い依頼をやれば、もしかしたらすぐにでも船を買うことってできるんじゃないの?特S級の依頼なら、探せば報酬金額の高いものがあるはずでしょ?」

「……………」


 ルーンの言葉に、シオンは言葉を失った。

 探求者を舐めているのか。そんな表情を浮かべて、彼は彼女を見つめる。


「……馬鹿なことを言うな。特S級の依頼でも、報酬金額の最高は3000。船を買うのに数十年は掛かる。…そこまでお気楽な旅だったならやってもいい話なんだろうが、お前の旅で、そこまで待ってはいられないだろ」

「…………」

「ほら、宿に戻るぞ。ここにいたら清掃員の邪魔だ」


 そう言って、シオンはルーンに背を向けて歩き出す。


「(………本気だったのだけど)」


 眉をひそめて、ルーンは再び船を見つめた。

 もし本当に船が買えたのなら、こうして待ち時間なくすぐに行動ができるのに。


 そう思いながら、ルーンは短く息を吐き、シオンを追っていった。



+


 ギルドの中は、相変わらず人の出入りで賑わっていた。

 ジェイクとフィルは依頼表の前に立ち、ずらりと貼られた依頼書を眺める。


「さて、どれにするか……」


 ジェイクは適当に一枚剥ぎ取り、内容に目を通した。


「西の海岸で魔獣退治……これなら楽だし報酬も悪くないな」


 口元を緩めるジェイクの横で、フィルは彼の横顔をじっと見ていた。


「…………」


 ――どうしてジェイクさんは、オレを連れてきたんだろう。


「っ、」


 考えている最中でも左手の小指には鋭い痛みが走って、思考を遮る。

 指輪から伸びた刃が、肉に食い込んでいるのだ。


「………」


 フィルは眉をひそめ、痛みを誤魔化すように拳を握った。

 その様子を、ジェイクは横目で見つめる。


「……これでいいな。行くぞ」

「…あ、はい」


 そう言って依頼書を持ち、ジェイクはカウンターへ向かった。


「西の海岸での魔獣退治ですね。手続きいたしますので、少々お待ちください」


 受け付けの男性に依頼書を渡して、しばらく待つ。

 依頼はすぐに受理され、そのまま二人はギルドをあとにした。



+


 宿屋へ戻る道中、石畳の上を歩きながらジェイクが口を開く。


「フィル。あの野郎と、何を話した」

「あの野郎……?」


 突然問われたジェイクの質問に、フィルは首を傾げる。

 だが、すぐにフィルの脳裏にはあの清掃員の男性の顔が浮かび上がり、眉をひそめた。


「…えと、…言いましたよね?ただ質問されただけだって」


 そう答えると、ジェイクは大きく息を吐く。


「……俺には隠さなくていい」


 その言葉に、フィルは肩を震わせてジェイクを見る。

 ジェイクの視線は、フィルの小指に嵌った黒い指輪に向いていた。


「その指輪……吸血の指輪だろ」


 フィルは目を見開く。


「嵌めた相手の血を媒体にして動く、拷問道具のひとつだ」

「…ジェイクさん、これ、知ってるんですか?」

「ああ。俺もな、一度だけ嵌められたことがある」


 ジェイクはそう言って、自分の小指を見せた。

 そこには、刃が食い込んだ痕が、今も消えずに残っていた。


「……あの男の名前はダリアンだ」


 ジェイクの声が低くなる。


「表では優しい兄さんを演じてはいるが、裏じゃ、常人が思いつかねぇことを平気でやるとんでもねぇ野郎だ。今まで、何度あいつの手に落ちてきた奴を見てきたことか」


 フィルは息を呑んだ。


「……この指輪、外せないんですか?」

「本来なら、身の潔白が証明されれば自然に外れるんだが…」


 顎に手を添えて、ジェイクはフィルを見る。


「お前が白だって事ぁ、すでにあいつはわかってるはず。なのに何でまだそんなものを…」

「…………」

「……もしかして、まだなんか疑われてんのか?」


 聞くと、フィルはゆっくりと頷いた。


「……くそっ、あの野郎!」


 足を止め、ジェイクは腰に手を当てて深く息を吐く。

 フィルも立ち止まり、小指の指輪を見つめる。


「……あの、ジェイクさんは、どうやってこれを外したんですか?」

「無理やりだ」

「無理やり……?」

「拷問道具に詳しい知り合いがいてな。そいつに相談して外してもらった」

「……オレのも、外せますか?」

「ああ。たぶんな。案内する」


 そう言って、ジェイクは再び歩き出した。

 フィルはその背中を見つめてから、後を追う。


 そうしている間も、指輪は少しずつ血を吸い、痛みを与え続けていた。



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