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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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次のカラーは





 フィルが白い衣服の男性に連れて行かれてから、もう一時間近くが経っていた。

 それでも、ギルドのカウンター奥の扉は一向に開く気配を見せない。


「……遅ぇな」


 ジェイクが腕を組んだまま、小さく呟く。その声には、明らかに苛立ちが滲んでいた。


「…………」


 ルーンは、フィルが連れて行かれた方向――カウンター奥の扉から、ずっと視線を外していなかった。

 あの中で、フィルは何を聞かれているのか。何を言わされているのか。


「時間、かかってるな」


 シオンがルーンの隣に歩み寄って言う。

 ルーンは彼の方を見ずに、静かに頷いた。


「……ええ」


 そのとき。ギィ、と音を立てて、カウンター奥の扉が開く。

 そこから、白い衣服の男性が現れた。その後ろにはフィルの姿もある。


 男性は相変わらず、にこにこと愛想のいい笑顔を浮かべていたが、一方のフィルは、どこか疲れたような、力の抜けた表情をしていた。

 二人はそのままシオンたちの方へ歩いてくる。


「ご協力、ありがとうございました」


 男性は丁寧に頭を下げる。


「聴取した結果、フィルくんへの疑いは晴れました」


 そう言ってから、今度はフィルの方を見て続けた。


「お疲れさまでした。頑張ったご褒美です」


 男性はポケットから飴を一つ取り出し、フィルの手に乗せる。


「……どうも」


 フィルは小さく頷いた。


「その指輪は差し上げます」


 男性はにこやかなままそう言い、今度はシオンたちの方にも軽く頭を下げる。


「では、これで失礼します」


 そう言って、背を向けた。


 すれ違いざま。男性はフィルの耳元に口を寄せ、誰にも聞こえないほどの小さな声で、何かを囁く。

 それを聞いた瞬間、フィルの肩がぴくりと震え、表情が強張った。


 やがて、男の姿はギルドの入口の向こうに消えていった。


 静寂が戻る。

 ルーンはすぐにフィルの前に立った。


「……部屋の中で、何をしてたの?」

「え?…えっと…」


 フィルは一瞬、言葉に詰まったように視線を泳がせる。


「大したことじゃないよ」


 そう言って、無理に口元を緩めた。


「ただ、色々質問されただけ」


 眉尻を下げてそう答えるフィルを見て、ルーンは何も言わずに彼を見つめ続けた。


 ――明らかに、何かを隠された。


 男性が去ったあと、しばらく誰も言葉を発さなかったが、しばらくして最初にジェイクが口を開く。


「……なぁ。本当に質問されただけか?」


 フィルは肩をすくめるようにして笑う。


「うん。……色々聞かれて、参っちゃったよ」

「それにしちゃ、顔色悪すぎだろ」


 ジェイクの指摘に、フィルは一瞬だけ言葉に詰まる。


「……ちょっと疲れただけ」


 そう言って視線を逸らした。


「……………」


 ルーンはフィルの様子をじっと見つめていた。

 さっき、男性が耳元で何かを囁いたときの、あの一瞬の震え。とても“質問されただけ”で済む反応じゃなかった。


「……本当に、それだけ?」


 ルーンが静かに問いかける。

 フィルは一度だけ彼女を見て、すぐに目を伏せた。


「……うん」


 それ以上、何も言わなかった。

 その空気を切るように、シオンが口を開く。


「宿に戻るぞ。ここに長居する理由はない」

「…ま、それもそうだな」


 ジェイクも頷く。

 四人はそのままギルドを出て、港町の通りを歩き出した。



+


 人通りの多い道を抜け、宿屋へと向かう。

 カウンターのエルフ族の男性がちらりと彼らを見て、軽く会釈した。

 部屋に入ると、フィルはベッドに腰を下ろし、はぁ、と盛大に息を吐く。


「……あー。どっと疲れた」

「お疲れ様」


 ルーンがそう言いながら、荷物を降ろす。

 ブルーテイルがブローチの中から出て、ルーンの肩の上で小さく「きゅう」と鳴いた。


「オレ、もうこのまま寝たい」

「そうだな。…だが、その前に」


 シオンは壁際に寄りかかり、腕を組む。


「……ええ。次のカラーの話をしましょう」


 ルーンは視線を三人に向けて、荷物袋から地図を取り出した。


「パープルとレッドは回収できた。残りは……ブルーとグリーン、それからホワイトね」

「あと3つか。確か、全部集めるって話だったな」


 ジェイクが腕を組んで地図を覗き込む。


「あとの3つは、どこにある?」

「ブルーは西の大陸に近い海の上。グリーンは東の大陸の森の奥地、ホワイトは……」


 ルーンは指をすべらせながら言った。


「北の大陸の雪が多い高地にいる可能性が高いわ」

「どれも、ろくな場所じゃねぇな」


 ジェイクが苦笑する。


「だけど、この中でホワイトだけ、もうすぐ動き出す可能性があるの」

「何で、んな事わかんだ?」

「教えてくれるのよ。ブルーテイルから。テレパシーでね」


 胸のブローチに触れ、ルーンは言う。


「ふーん。…で、その3つのうち、次はどれなんだ」

「次はブルーよ」

「ブルー…ってこたぁ、海の上か」

「ええ。でもまずは、ラ=パープルに戻るわ。"すぐに戻る"って約束しているしね」

「…だが、船はどうする。しばらくは乗れないみたいだが?」


 三人の会話は続く。

 その横で、フィルは黙ったまま、自分の小指をじっと見つめていた。

 そこには、あの男性に嵌められた黒い指輪が、静かに光を吸い込むように存在している。


 ルーンはそれに気づき、眉をひそめた。


「……フィル」


 名前を呼ばれて、フィルははっと顔を上げる。


「な、何?」

「話、聞いていたかしら?」

「え、あ、うん。……あ、…ごめん。聞いてなかった、かも」


 眉尻を下げて答えたフィルに、ルーンは息を吐いた。


「…その指輪、差し上げると言っていたが、見た感じ…お礼ってわけじゃなさそうだな。何だそれは?」

「……えっと、……オレにも、わかんない」


 フィルは一瞬迷ってから、小さく言った。


「………」


 眉尻を下げながら言うフィルを、ジェイクはただ何も言わず見つめた。



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