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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
2、カラーを求めて
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カラー・レッド





 鬱蒼とした森の中は、昼間だというのに薄暗かった。高く伸びた木々が空を覆い、差し込む光は葉に遮られて地面に斑点のように落ちている。

 シオン、ルーン、フィル、ジェイクの四人は、足元に気をつけながら、周囲をきょろきょろと見渡して進んでいた。


「……やけに静かだな」


 ジェイクが小さく呟き、周囲の気配を探るように目を細める。


 ルーンは胸元のブローチに指先を当てながら、意識を森全体へ向けていた。


「レッドは、きっとこの森のどこかにいるはず……」


 少し歩いたところで、ジェイクがふと思い出したようにルーンを振り返った。


「そういやさ、てめぇらが探してるっつーカラーってのは結局なんなんだ?俺が知ってるのとは違うってなさっき聞いたが」

「…ええ。貴方が今まで見てきたカラーはすべて偽物よ」


 ルーンは即座に答えた。


「私たちが探してる本物のカラーは、世界を巡って移動する存在で……五つあるの。その五つそれぞれが世界のバランスを保っていて、何らかの事情で歪みが生じると、世界に異変が起きる」

「……は?」


 ジェイクは思わず立ち止まり、腕を組んだ。


「カラーが、世界を保ってる?」

「ええ。その歪みを正すためにいるのが、ブルーテイルなの。私たちは、ブルーテイルにカラーの雫を飲ませて、世界を崩壊から救うために旅をしているのよ」


 ルーンの言葉に、ジェイクは目を丸くしたまましばらく黙り込んでいたが、やがて大きく息を吐いた。


「……なんかすげぇことしてんだな、お前ら」

「後悔したかしら?」

「…いや。後悔なんてとんでもねぇ。むしろ、こんなやりがいのあるもんに参加できて嬉しいくらいだ。久しぶりに大暴れできそうだぜ」


 にやりと笑い、ジェイクは言った。


 そして、そのまま四人は歩き続け、やがて森の奥で視界が開ける。

 木々の間を抜けると、そこには大きな湖が広がっていた。

 澄んだ水面が空を映し、周囲には水を求めて鹿や小動物たちが集まっている。


「ここにも……いなさそうだな」


 シオンが低く呟く。


「もっと奥地にいるのかもな」


 ジェイクは辺りを見渡しながら答えた。


 その時。

 ――ドン、と足元の地面が揺れる。


 同時に、腹の底に響くような魔獣の咆哮が、森全体を震わせた。

 動物たちは悲鳴のような鳴き声をあげ、一斉にその場から駆け出す。


 ルーンは息を呑み、顔をしかめた。


「……この声……」


 船着き場で聞いたものと同じだ。


「レッドか……!」


 四人は顔を見合わせ、同時に走り出した。



+


 湖のほとりを抜け、枝をかき分け、しばらく走った先――

 そこで、彼らはそれを見た。


 最初に遭遇したカラー・パープルと同じように、額に宝石を埋め込んだ巨大な魔獣。


 二本の足で地面に立ち、だらりと下がった両腕の先には鋭い爪。

 口から覗く牙は長く、額の赤い宝石は不気味に光を放っていた。


「……こいつが、レッドか」


 ジェイクは思わず口笛を鳴らした。


「これまた、派手なのが出てきたな……」


 赤い宝石を額に埋め込んだ魔獣――カラー・レッドは、低く唸り声を上げながら、四人を見下ろしていた。


 レッドが低く唸り声をあげ、足を動かす。

 その一歩で、地面が震えた。


「レッド、凄く怒っているわ」

「これも、歪みの影響?」

「ええ」

「……来るぞ」


 シオンが剣を構えた瞬間、レッドは地面を蹴り、突進してきた。


 ――ドンッ!!


 木々をなぎ倒す勢いで突っ込んでくる巨体。

 シオンとジェイクは左右に跳び、ルーンは後方へ距離を取る。


「みんな、散開して!」


 ルーンの声と同時に、レッドの爪が地面を抉る。

 土砂と木片が飛び散り、視界が一瞬遮られた。


「ちっ、動きが速ぇな……!」


 ジェイクが低く舌打ちし、横から拳を叩き込む。

 だが、レッドはその攻撃を片腕で弾き返した。


「なっ……」

「ジェイク!」


 シオンがすかさず斬り込む。

 刃は確かに当たったが、赤い宝石から光が広がり、衝撃が吸収された。


 ――グォオオオッ!!


 レッドは怒りの咆哮をあげ、腕を振り回す。

 ジェイクは間一髪で後退し、シオンも距離を取った。


「物理が通りにきぃな、めんどくせぇ!」

「なら、私が削るわ!」


 ルーンは詠唱を始める。

 足元に複数の魔法陣が浮かび上がり、光の矢がレッドへと放たれる。


 ――バシュッ、バシュッ!!


 魔法は命中するが、レッドは怯まず、今度はルーンの方へ顔を向けた。


「グオオオオッ!!」

「……っ!」


 レッドが地面を蹴り、一直線に突っ込んでくる。


「ルーン、避けろ!」


 シオンが叫ぶが――

 レッドの咆哮とともに衝撃波が走り、ルーンの身体が弾き飛ばされた。


「……きゃあっ!」


 木の根元に叩きつけられ、息が詰まる。


 視界の端で、巨大な影が迫る。

 レッドは爪を振り上げ、ルーンにとどめを刺そうとしていた。


「ルーン!!」


 シオンが再び叫ぶ。


 次の瞬間――

 彼女の前に、盾が滑り込んだ。


 ――ガァンッ!!


 金属と爪がぶつかる重い音。

 フィルが、盾を構えて立っていた。


「…やらせはしない……!」


 爪による強撃が盾に思い切り叩き込まれ、フィルの顔が苦痛に歪む。

 だが、足は一歩も引かなかった。


「フィル…!」

「ルーン……!魔法を!」


 ルーンは歯を食いしばり、すぐさま魔法陣を展開する。


「ジェイク!」

「おう!」


 シオンが横から斬り込み、ジェイクが逆側から深く踏み込む。


 ――グォオオオオオッ!!


 ルーンの魔法が直撃し、レッドは大きく仰け反り、地面に膝をついた。


「――終わりだ!」


 シオンの剣が、レッドの胴体を正面から斬り裂く。


 閃光。


 次の瞬間、レッドの身体は霧のように消え――

 そこには、赤い宝石だけが残った。


「……っ、終わった…わね」


 ルーンは小さく呟き、ゆっくりと宝石へ近づく。

 足元に魔法陣を展開し、胸元のブローチに触れた。


「ブルーテイル……出てきて」


 光とともに、青い小さな身体が現れる。

 ルーンは腕を伸ばし、赤い宝石にそっと触れた。


「赤の精霊よ──」


 呪文を唱えると、宝石は強く光り――

 やがて、雫を一滴、ぽとりと垂らした。


「!」


 ブルーテイルが、それを口に含む。

 その瞬間、身体の色がパープルの時と同じように次々と変化していった。


 やがて光が収まり、ブルーテイルはルーンの掌の上で元気よく「きゅうっ」と鳴く。


 宝石は形を変え――

 赤い獣の姿となった。


「グルルル…」


 ルーンより少しだけ背の高い魔獣は、じっと彼女を見つめ、小さく唸ったあと、くるりと背を向けて、のそのそと森の奥へと歩いていく。


「…………」


 その姿を見送ると、ルーンの身体がふらりと揺れた。


「ルーン!」


 崩れ落ちそうになった彼女を、フィルが咄嗟に抱きとめる。

 細い身体が、腕の中にすっぽり収まった。


「……大丈夫?」


 フィルの声は、いつもより少しだけ震えていた。


「ええ……ありがとう、フィル」


 ルーンは一瞬きょとんとして、それから小さく笑った。



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