出会い 中編
「随分と早かったな」
シオンの言葉に、金色の髪の小柄な男性は笑いながら答えた。
背負っていた大盾を軽々と構え、素早く前へ突き出す。
「シールドアタックで体当たりしたら一発だった」
その言い方は、まるで散歩の途中で小石を蹴飛ばした程度の軽さだった。
「それで、今どんな状況これ?」
彼は盾を下ろし、私たちの方へ顔を向ける。
「絡まれてた」
シオンが端的に答えると、煽り屋さんがすかさず反応した。
「おいおい、チビ盾。お前も混ざるか?」
彼にも喧嘩腰。
まったく。喧嘩を売る相手を増やして、何が楽しいのか。
「…そういやお前ら、こないだ伝説の秘宝を手に入れたらしいな」
その言葉に、私は思わず首を傾げた。
伝説の秘宝?
「たまたま見つけただけだ」
シオンは表情一つ変えずにそう言い切った。
その態度が気に入らなかったのか。煽り屋さんは舌打ちをする。
「はっ。さすがの余裕。いい気になるなよてめぇ」
低く吐き捨てるように言った、その直後だった。
「ギルドで喧嘩はやめてください!」
カウンターの奥から、女性が飛び出してきた。普段のにこやかな表情は影を潜め、必死さが滲んでいる。
煽り屋さんは一瞬だけ彼女を睨みつけて再び舌打ちをすると、仲間を引き連れて背を向けた。
やがて扉が閉まり、ようやく騒がしさが遠のく。
……やっと行った。
胸の奥で溜まっていた息を、静かに吐き出す。
「大丈夫か?」
煽り屋さんたちが完全に出て行ったのを確認してから、シオンが私の方へ近づいてきた。
助けられたのは事実。お礼を言わなくては。
「ええ。ありがとう」
そう口にすると、彼は小さく頷いた。
そこへ、カウンターの女性もやってくる。彼女は一枚の紙を私に差し出した。
「依頼表ができました。内容の確認をお願いします」
受け取り、ざっと目を通す。問題はない。
「大丈夫よ」
そう告げると、女性はほっとしたように口元を緩め、その紙を依頼ボードの一番上へと貼り付けた。
貼り終えると、そのまま元の場所へ戻っていく。
特S級の依頼。
金色の髪の男性――シオンの相棒さん――が、それを見つめた。
「特S級が張り出されるのって、久しぶりだな」
どんな内容なのかと覗き込んだ彼は、次の瞬間、目を見開いた。
「……ん!?」
慌てて紙を剥がし、間近でまじまじと眺め始める。
「どうした?」
「こ、こ、こここ、これっ、これ…っ!」
その様子に首を傾げたシオンが、紙を取り上げた。
「どれ……」
そして、淡々と読み上げる。
「依頼内容。依頼人と共に世界を巡り、各国を移動している五つのカラーから雫を抽出すること。報酬金額、五千」
読み終えたシオンの視線が、真っ直ぐに私へ向けられた。
――本気なのか。
言葉はなくとも、そう訴えかけてくる目だった。
「………」
そういえば、さっき煽り屋さんが言っていた。
この人は、天下の特S級様だと。
……護衛役として、これ以上の適任はいない。
そう思った瞬間、私はもう口を開いていた。
「ねぇ。少し、話さない?」
「なに?」
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近くのテーブルへ移動し、三人で向かい合って座る。
依頼表を彼らの前に置き、ひと息吐いた。
赤いファイルも、その横に置く。
「単刀直入に言うわ」
顔を上げる。
「その依頼、引き受けてほしいの」
言うと、シオンと相棒さんは視線を交わした。
「貴方は特S級なんでしょう?さっきの人がそう言ってたわ。貴方なら、この依頼を受けられるはず」
少しの沈黙のあと、シオンは再び依頼表へ目を落とした。
「いきなり言われてもな」
心臓が、小さく跳ねる。
「――まず先に、お前のことを教えろ。依頼を受けるか決めるのはそれからだ」
「………」
低い声で、シオンは言った。
やっぱり、そう簡単にはいかないわね。
相棒さんの視線が、じっと私の身体を観察するように向けられた。
「君は……エルフ?それとも、ハーフエルフかな?」
顎に手を添えて呟く彼に、私は首を振った。
「いいえ。そのどちらでもないわ」
小柄な体格。色白の肌。私の容姿はエルフ族の特徴と酷似している。
でも、エルフやハーフエルフなら、長く尖った耳を持っている。
私は髪をかき上げ、彼らに耳を見せた。
先端が少しだけ尖り、黒く染まったそれ。
「私は、ダークエルフよ」
その言葉が、テーブルの上に静かに落ちた。




