南の大陸へ
翌日、朝の光が港町を照らし始める頃。
セシルのもとで宿屋の従業員として働き始めた少年に「すぐに戻る」と約束したシオンたちは、依頼で稼いだお金で南の大陸行きの船のチケットを購入し、旅に出た。
港を出た船は、ゆっくりと陸地を離れていく。
甲板に立つルーンは、手すりに肘をつき、進行方向をまっすぐ見つめていた。彼女の視線の先には、まだ見えない南の大陸がある。
そして、その地には――カラー・レッドがあった。
早く見つけなければ。
ブルーテイルに雫を飲ませなければならない。
そう思いながら、ルーンはそっと手を伸ばし、肩に乗った小さな生き物に触れた。
ブルーテイルは「きゅ」と小さく鳴き、安心したように身体を震わせる。
「ルーン」
そのとき、背後から声がかかる。
振り返ると、シオンが立っていた。
「南の大陸までは、まだまだ時間がある。部屋で休んだらどうだ?」
ルーンは一瞬だけ迷うように視線を揺らし、それから静かに首を振る。
「……いいえ。ここにいるわ。…フィルは?」
「船酔い。部屋のベッドで倒れてる」
「船酔い…。それは大変ね。大丈夫なの?」
「あの様子だと、4〜5回は吐くだろうな」
シオンは小さく息を吐き、ルーンの隣に立った。
手すりに背を預け、腕を組む。
紺色の髪が潮風に揺れ、陽の光を受けてきらりと光った。
ルーンは、そんなシオンの横顔をじっと見つめていた。
その視線に気づき、シオンが首を傾げる。
「……どうかしたか?」
「…別に」
短くそう答え、ルーンは視線を海へ戻す。
それきり、二人の間に会話はなくなった。
波の音と、空を舞うカモメの鳴き声だけが、静かに二人の間を通り抜けていく。
「…………」
しばらくして、今度はシオンがルーンを見る番だった。
紫色の長い髪が風に揺れ、肩に乗るブルーテイルは、落ち着きなく周囲を見回している。
ルーンが髪をかき上げたとき、ふとシオンの視線に気づいた。
「……何?」
その問いに、シオンは少しだけ言葉を選ぶように間を置いてから口を開く。
「前から、気になってたことがある」
ルーンは無言で、続きを促す。
「ダークエルフは、人里離れた山奥で一生を過ごす種族だって聞いてる。生まれてから死ぬまで、ほとんど外に出ない……そういう連中だって」
ルーンの表情は変わらない。
「それなのに、お前は集落を離れて、こうして外の世界にいる。……なぜだ?」
シオンは視線を逸らさず、続けた。
「ブルーテイルのため、って言うのは分かってる。そいつに雫を飲ませなきゃ、世界が崩壊する……それも聞いた」
一度、息を吸ってから、さらに言葉を重ねる。
「でも、なんで“ダークエルフのお前”が、それを背負ってるんだ?…ブルーテイルとは、どこで出会った?」
ルーンはその問いを聞き終えると、静かに息を吐いた。
潮風が紫の髪を揺らす。
「……そうね。貴方には知る権利があるわ。ここにフィルがいないのが残念だけど、話さないとね」
そして、少しの沈黙のあと――
彼女は、静かに口を開いた。




