放っておけない
旧灯台をあとにした三人と少年は、夜の道を歩き、港町へと戻っていった。
すっかり夜も更け、潮の匂いを含んだ風が街路を抜けていく。
ギルドの建物が見えてきたころ、扉の前に立つひとりの影があった。
ランタンの淡い灯りに照らされて、緑色の髪が揺れる。
「……!」
旧灯台の方角から歩いてくる人影に気付き、リリアはぱっと顔を上げた。
「シオン!」
それがシオンたちだと分かると、彼女は胸に手を当て、ほっと息を吐く。
「よかった……無事だった」
そう言って駆け寄り、口元を緩ませる。
「待っていたのか」
「うん。依頼をしたのは私だし、…それに、なんだか落ち着かなくて。…って」
その視線が、彼らの後ろにいる見知らぬ少年へと移った。
「……その子は?」
「っ、」
「こいつが、旧灯台の幽霊だ」
「え?」
首を傾げるリリアに、シオンが簡潔に事情を説明する。
話を聞くにつれ、リリアの表情は困惑から真剣なものへと変わっていった。
「そうだったの……」
「………、」
少年は不安そうに一歩下がり、ルーンの背後に身を寄せる。
その様子に、リリアはすぐに表情を和らげた。
「……大丈夫。ここは怖い場所じゃないわ」
優しく声をかけてから、シオンたちを見る。
「とにかく、まずは報告ね。中に入りましょう」
そして、シオンたちはギルドの中へ。
ギルドの中は静まり返っていた。
最低限の手続きを済ませ、旧灯台の依頼は無事完了として処理される。少年の件についても、記録に残すことになった。
「詳しいことは、また改めて調べます」
「助かる」
「ありがとうございます」
そう言って、リリアは一礼した。
ギルドを出て、シオンたちは向かい合う。
「それじゃあ、私は戻るね」
「ああ」
「ごめんね。変な依頼、頼んじゃって」
「構わない。どんな依頼だろうが、引き受けたからには遂行する。それが探求者だ」
シオンの言葉に口元を緩ませ、リリアは背を向けて歩き出す。
真っ直ぐ鍛冶屋方面へ歩いていく彼女を見送り、シオンたちはその後、少年を連れて宿屋へと向かった。
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「ただいまー」
宿屋の扉を開けると、ロビーにはまだ明かりが灯っていた。
箒を手にしていたセシルが顔を上げ、三人の姿を瞳に映す。
「おかえり……って」
彼女はすぐに、見慣れない少年に気付いた。
「……その子供、どうしたの?」
かくかくしかじかと、リリアにもしたように簡単に事情を話すと、セシルは腕を組み、しばらく黙り込む。
少年は居心地悪そうに視線を落とし、ルーンの服を掴んだ。
「なるほど。旧灯台の件の原因は、この子だったんだね」
「これで、騒ぎは治まるはずだ」
「それで、相談なのだけど…」
「うん。…このまま放っておくわけにはいかないね」
そう言って、セシルは少年の前にしゃがみ込む。
「!」
柔らかく微笑むと、少年は肩を震わせて眉尻を下げた。
「よく見ると、この子なかなか可愛いじゃないか。…気に入った。ここで働きな。掃除でも配膳でも、できることからでいいから」
少年は目を見開き、言葉を失う。
「……ここで働く?…おれ、ここにいていいの?」
「もちろん」
即答だった。
「寝る場所も、食べるものも、ちゃんとある。替えの服もね」
「…………」
セシルは立ち上がり、シオンたちを見る。
「しばらく、この子はうちで預かるよ」
「頼む」
シオンは短く頷いた。
ルーンも、ほっとしたように肩の力を抜く。
少年は、おずおずと頭を下げた。
「……あ、ありがとう…ございます」
少年は言い、ルーンの服を強く握る。
その声は未だ震えていたが、先程よりも遥かに落ち着いていた。




