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ブルーテイル・ハピリス  作者: aki.
1,三人の旅
14/18

旧灯台の幽霊





 螺旋階段を上っても、声は止まらなかった。


――でていけ。

――でていけ。


 灯台全体が唸るように震え、背後からはなおも物が飛んでくる気配がある。

 シオンは振り返りざまに剣を振るい、飛来する破片を弾き落とした。


「くっ……!」

「右から来るわ!」


 ルーンの声と同時に魔法が放たれ、宙を舞っていた樽が壁に叩きつけられる。

 容赦のない攻撃の中、三人は息を切らしながら階段を駆け上がった。


 やがて、ひとつの扉が見えた。


「逃げ込め!」


 シオンが押し開け、三人は雪崩れ込むように中へ転がり込む。

 直後、扉の向こうでドン、ドン、と激しい衝撃音が響いた。


 シオンは背中で扉を押さえ、短く息を吐く。


「……っ、どうなってるんだ」


 剣を持つ手に力を込めたまま、低く呟く。

 まさか、リリアが言っていたように、本当にここには“幽霊”がいるとでもいうのだろうか。


「…………」


 ルーンは周囲を見渡す。


 コンクリートの壁に囲まれた、狭い部屋。

 ボロボロのベッドと机があり、机の上には壊れたランタンが転がっている。誰かが、ここで生活していた痕跡だった。


「ここから、どうするの?」


 ルーンの問いに、シオンは眉をひそめる。

 背後の扉は今にも蹴破られそうだ。


「そうだな…」


 窓から外へ出て、一時撤退するか。

 それとも、覚悟を決めて扉を開け、さらに上を目指すか。

 二つにひとつだった。


 顔を見合わせ、短い言葉を交わしながら思案する二人。

 その様子を見て、フィルは盾を抱えたまま、震える胸元を押さえた。


「……ちょ、二人とも何でそんな落ち着いてるの!怖くないの!?」


 彼の言葉に、シオンは首を横に振る。


「別に」


 それに続いて、ルーンもあっさりと頷いた。


「私も、そこまででもないわ」

「……えぇ」


 平然と答える二人に、フィルは肩を落とす。

 シオンが幽霊を怖がらないのは、なんとなく分かる。


 だが、ルーンまで恐怖を感じていないのは予想外だった。

 今まで彼が出会ってきた女の子は、例外なく全員、幽霊が苦手だった。だから、ルーンも当然、幽霊が怖いものだとどこかで思い込んでいたのだ。


「フィルは怖いの?」


 ルーンにそう聞かれ、フィルは勢いよく頷く。


「こ、怖いに決まってるよ!」


 声が裏返る。


「子供の頃、母さんに読んでもらった絵本に出てきた幽霊が、もう……本当に怖くてさ……それからずっと、幽霊って聞くだけで震えが止まらなくなっちゃって、無理なんだ!」


 言い終えた直後、再び声が響く。


――でていけ


 低く唸るような声に、フィルは短く悲鳴を上げ、盾で身体を隠した。


「ひっ……!」


 その時、ルーンがふと天井を見上げ、視線を止める。

 彼女の視線の先。

 天井から、古びた伝声管がぶら下がっていた。


「…大丈夫よ、フィル。あれを見て」

「へ?」


 ルーンはフィルの方を見ずに、落ち着いた声で言う。

 彼女の指差す先を追って、フィルが顔を上げた。


 再び、伝声管から声が響く。


――でていけ

――でていけぇ


 ルーンは近付いて耳を澄ませた。

 声と同時に、微かな機械音も混じっている。


「…ここにいるのは、幽霊じゃないわ」


 ルーンはきっぱりと言った。


「外にあるものも、誰かが魔法を使って動かしてるだけ」

「……人間の仕業って事か?」


 シオンの問いに、ルーンは頷く。

 そして、ブローチに触れた。

 淡い光と共に、ブルーテイルが呼び出される。

 掌の上でくるくると回り、小さく鳴き声をあげた。


「少し、驚かせてあげましょう」


 そう言って、ルーンはブルーテイルを伝声管の方へ送り出す。


 ブルーテイルは軽やかに宙を滑り、そのまま伝声管の中へと吸い込まれていった。それは、部屋の外へと続いている。


――でていけ。

――でていけ。


 声は続く。

 怯えながら、フィルはルーンのそばへ寄り、伝声管を見つめた。


 そして、しばらくすると――


『わー!?なんだこいつ!!』


 伝声管越しに、慌てた少年の声が響いた。

 同時に、ブルーテイルの鳴き声。


『きゅうっ!』

『ぎゃー!や、やめろって!!そこには乗るなぁ!!』


 何かが倒れる音、金属がぶつかる音。


 その瞬間、扉の向こうでガラガラと音がした。

 どうやら、疑似心霊現象は収まったらしい。


 伝声管からは、ガシャン、ガシャンと騒がしい音が続いている。

 その音を聞きながら、ルーンはフィルに向かって微笑んだ。


「ね。幽霊じゃなかったでしょう」

「……う、うん……」


 フィルはまだ半信半疑ながら、盾を下ろした。


「さ、あの子たちのもとへ向かいましょう」


 ルーンの言葉で、三人は部屋を出る。


 廊下には、樽や机が無造作に転がっていた。

 先ほどまでの異様な気配は、嘘のように消えている。


「行くぞ」


 天井を伝う管を辿り、さらに上へ。


 階段を上ってすぐの場所にある部屋。

 管は、その扉の向こうへと続いていた。


「どうやら、ここのようね」

「き、気を付けてね、シオン…っ」

「…………」


 シオンが剣を構え、ゆっくりと扉を開ける。

 警戒しながら中を覗いた、その先には――


「きゅう!」

「だから待てっての!!」


 ブルーテイルと、ブルーテイルを追い掛ける、ひとりの少年の姿があった。




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