お金を貯めよう
港町のギルドは、夕刻になっても賑わいを失っていなかった。
依頼を終えた者、これから向かう者、酒を片手に騒ぐ者。
様々な気配が入り混じる中、シオンは静かに扉を押し開けた。
「いらっしゃいませ」
カウンターにいた受け付けの女性が顔を上げ、すぐに彼だと気付いて軽く会釈する。
シオンは無言で頷き、依頼掲示板の前へと向かった。
――金貨130枚。
短期間で稼ぐには、危険度が高すぎても低すぎても駄目だ。時間をかけず、確実に報酬が出るものが好まれる。
「…………」
視線を上から下へと滑らせていく。
B級以上の依頼は報酬がいいが、準備や日数が必要になる。逆にE級やD級では、効率が悪い。
「……これか」
シオンの視線が、ひとつの依頼で止まった。
――《港湾地下水路の魔獣排除》
――危険度:C級
――報酬:金貨60(討伐数により加算あり)
地下水路。
港町の下を走る古い水路で、最近になって魔獣が住み着いたらしい。
「時間も、場所も悪くないな」
「シオン」
声をかけられ振り向くと、ルーンが立っていた。
少し遅れて、フィルも姿を現す。
「お前たちも来たのか」
「宿にいても暇だったし、休むにしてもまだ早いから」
「それ、いい依頼?」
「ああ。C級だ。今日中に終わらせられる」
フィルはシオンの視線の先にある依頼書を横から覗き込み、眉をひそめた。
「地下水路かぁ……狭そうだね」
「だからこそ、数で稼げる」
シオンはそう言って、依頼書を剥がした。
三人でカウンターへ向かうと、受け付けの女性は依頼書を確認し、少しだけ表情を引き締める。
「地下水路の件ですね。ここは最近、魔獣の数が増えていて…。緊急の依頼だったので助かります。受理しますので、少々お待ちください」
そう言って、受け付けの女性は作業を始める。
そして、手続きを終えた三人はギルドを後にした。
+
港の喧騒から少し離れた場所。
石造りの蓋が並ぶ一角で、シオンは足を止める。
「ここだ」
重い蓋を押し開けると、湿った空気が一気に吹き上がってきた。
「うわ……」
フィルが思わず顔をしかめる。
「狭いし、暗いわね」
ルーンはそう言いながらも、躊躇なく足を進めた。
梯子を降りて、フィルが服に着けたライトのスイッチを入れて周囲を照らす。
地下水路の中は、天井が低く、足場も不安定だった。
「足元、気を付けろよ。滑りやすいからな」
「気を付けてね、ルーン」
「わかってるわ」
奥へ進むと、水音が反響し、遠くで何かが動く気配がする。
「あれが、依頼にあった魔獣だな」
シオンの低い声と同時に、影が動いた。
ライトに照らされ、ぬるりと姿を現したのは、人ほどの大きさの水棲魔獣。鋭い歯を剥き出しにして、こちらを睨んでいる。
「数、結構いるね」
「一体ずつ確実に仕留める」
シオンが剣を抜き、フィルが前に出て盾を構える。
通路が狭いため、魔獣は正面からしか来られない。
「今なら、私の魔法も使いやすいわ」
ルーンが小さく魔法陣を展開する。
狭い空間での戦闘。
だが、それは同時に、連携が最大限に活きる場でもあった。
[グアアアッ!!]
「行くぞ!」
地面を蹴り、魔獣が襲い掛かってくる。
同時に動き出し、三人は魔獣に応戦した。
フィルが盾で受け止め、
シオンが確実に仕留め、
ルーンが後方から補助と制圧を行う。
その流れを途切れさせる事なく、彼らは短時間で次々と魔獣を倒していった。
最後の一匹をシオンの剣が貫き、やがて、地下水路に静寂が戻る。
「……これで全部、かな」
フィルが周囲を見回す。
「そのようね…。付近に魔獣の気配はないわ。依頼は完了?」
「ああ。依頼の条件は満たしている。これで終わりだ」
シオンは落ちたコインを拾い上げ、数を確認した。
赤と黒のコインが、合計で三枚。
「あんなに倒したのに、たったそれだけなの?」
「必ずしも魔獣がコインを落とすとは限らない。…こればかりは運だからな」
「そうなのね。…なら、あと少しね」
「どうする?」
「そうだな…。思いのほか、早く片付いたから、もう一件いけそうだ。ギルドに戻るぞ」
剣を鞘に収めて、シオンは言った。




