第二章「ロティサリークエスト」ラスト
大地が揺れる。
ロティサリーナイトの肉体がゴゴゴゴッという轟音と共に塵となり、宙に霧散した。
つまり、勝ったんだ。
俺たちは経験値と現金1000円くらいを手に入れ、ジャックはレベル9に俺とタモツはレベル4になった。
しかし、今回は運が良かっただけだろう。
この世界を生き抜くためには、もっと修羅場を経験しなければならない。
初めての死闘を越えて、俺はまた一つ大人になれた気がしていた。
そうこう考えているうちに、倒れていた2人が立ち上がりこちらに集まってくる。
「まさか、倒せるとは思わなかった」
ジャックは言った。
「よくやったトシ坊」
タモツが俺の肩に手を乗せた。
そしてジャックはロティサリースピアに指を差す。
「その槍はユニーク武器と言って貴重な物だ。おそらく世界に二つと存在しないだろう」
「この槍はどうしようか」
俺は二人に聞いた。
「冒険者の常識として報酬は山分けだが、魔物の落とすアイテムは入手した者の物となる。トシミツ、それは君の物だ」
「悔しいが仕方あるめえ」
タモツは目を逸らした。
俺は少し驚いた。
好きな時に飲み食いし、金が尽きると少し働く、怠惰でずる賢く、本能のまま生きる完全感覚フリーターのタモツがこんなにもあっさりと身を引くなど。
しかも、あれほど強い武器を欲しがっていたのにだ。
だがおそらく、今回の戦いでタモツも肝を冷やし、少しホッとしているのだろう。
ならば、ありがたく貰っておくとしよう。
「ありがとう。だが二人の協力がなければ、このクエストは成功しなかった。報酬は二人だけで分けてくれ」
俺は正直な気持ちで、代わりとして報酬を2人に譲ることにした。
帰り道でジャックが聞いてくる。
「君達の職業<泥酔者>には、どうやったら転職できるんだ?」
「俺達の泥酔者は生まれつきよ」
タモツは答えた。
「そうか生まれ持った才能か。他にどんなことができるんだ?」
「酒を飲むと酒気カウンターが頭に浮かぶ。そして魔法アルは酒気カウンターを消費して、強いアルコールの玉を発射できる。あと、常に能力が低下している。今はただそれだけだよ」
俺はありのまま答えた。
「そうなのか・・・だが、その職業。戦闘においてかなり不利じゃないか?他の職業に転職したりしないのか?」
確かにジャックの考えは一理ある。
しかし、せっかく与えられた特別な職業に価値を見出したいという思いはあるし、酒はやめられない。
「転職したくないなら、サブ職業というものも存在する。サブ職業を設定しておけば、メイン職業(泥酔者)に入るはずの経験値の3割をそちらに回すことになるが、サブ職業のフィートや魔法を使うことができる。さらにサブ職業はステータスを開いても他者からは見えない仕組みになっている。プライベート機能というやつだな」
なるほど、それは便利そうだ。
補足すると、レベルは職業のレベルであり、俺は泥酔者レベル4だが、戦士としてのレベル1だ。
このように自分のレベルというより職業のレベルと捉えた方が分かりやすいだろう。
「おすすめの職業は?」
「すぐにでもなれる職業では、<戦士>と<魔法使い>が分かりやすく強い。その後に就ける職業の幅も広がるしな」
「その後に就ける職業?」
「<上位職>というものが存在する。それは一部の職業レベル10以上で転職が可能となる。つまり職業を極めた者のみに許された職業なんだよ」
「じゃあ魔王を倒すには、まず上級職になる必要があるのか」
ジャックは目を見開いた。
「まさかトシミツ、君は魔王を倒す気なのか!?悪いがやめておいた方がいい。そんなことは帝国のエリート達に任せておけばいいんだ」
ジャックは明らかに引いていた。
「お、おう。そ、そうだな・・・」
どうやら、魔王を倒すことを安易に口にすべきではないようだ。
シンプルに変人扱いされる。
ギルドに帰ってきた俺達は報告を終え、ギルド報酬である30万円を受け取った。
「また頼むよ」
ジャックはそう言って俺達と別れた。
そして、俺とタモツはいつものように酒場へ行き、トミジイと合流する。
「なんで俺を置いていくんだよ・・・」
トミジイは拗ねていた。
「いや、来なくて良かったよ。レベル1のアンタにあのクエストは無理がある」
「お前らだってレベル2だったじゃねえか!」
「泥酔者だったから生き残れたようなもんだぜ?なあトシ坊?そんなことより・・・」
タモツがトミジイの言葉を遮る。
「お前、ジャックが言っていた転職の話についてどう思う?」
「サブ職業の話か。良さげだと思うが・・・」
「いや、やめておいた方がいいな。この職業は女神から授かったもの。つまり特別なんだぜ?サブ職業に経験値を取られるより、泥酔者に絞ってレベルを上げた方が、どう考えても短期的に強くなれる。他の職業と同時に極めるのは、年齢的にも現実的じゃねえよ」
そうか。
確かにタモツの言うことにしては的を得ているな。
どうやら、あのクエストで一皮剥けたらしい。
「ああ、そうだな。とりあえず、泥酔者に絞ってレベルを上げてみるよ」
「そうだろう?俺だってそうする」
タモツはそう言って酒を口に含んだ。
しかし、今回のクエストでよく思い知った。
元の世界で話題となっている異世界転生の創作物のイメージのように、まるでイカサマのような能力や恵まれた環境と共に、運命に身を任せてのらりくらりと目的を達成できるという勝手な妄想は間違いだった。
漠然と魔王を倒して世界を救えたらいいなと思っていたが、もうやめよう。
今回は本当に運が良かったんだ。
まずは経験値を積み、楽に生きられる収入を得よう。
その後のことは収入が安定したら考えればいい。
1歩ずつ積み重ねていけば、どこかで辿り着くのだから。
ふふ、もちろん酒を飲みながらではあるがな。




