第一章「飲み友の異世界ルーティン」ラスト
異世界に来て3日目はタモツについて行くことに決めていた。
午前5時。タモツの朝は早い。
アルコールの弊害で眠りが浅いんだろう。
カップ酒を口に含み、頭上に酒気カウンターを浮かばせ、腰を捻り体操をするタモツ。
そして、落ち着かないタモツは業務用のボトル酒を手に取り、早々に家を出た。
そういえば、この世界の街をじっくりと見たことはなかったな。
道路はまるで西部劇の時代のように黄色い地面が剥き出しで、石造りの建物が規則正しく並んでいる。
元の世界と比べるとかなりシンプルな作りだ。
おっと、彼が5メートル後ろを歩く俺に気がついたようだな。
「何だ?トシ坊」
「俺はこの世界に来て間もない。お前の生活を参考にしようと思ってね」
俺がそう言うとタモツはニヤリとし、鼻で笑った。
適当に街を練り歩いた後、タモツは公園に着いた。
林道を歩きながら全力で飲み歌うタモツの横で、俺も業務用のボトル酒をコップに注いでもらい飲み始めた。
当然のように無一文の俺に酒を分け与えてくれる。
酒の入ったタモツの心は広いのだ。
7時、俺たちは木製ブランコをはじめ、さまざまな遊具を遊び尽くし、公園の広場で子供達に混じってボールを蹴り上げ、疲れたら地べたでに座り酒を飲んだ。
酒は良い。普段億劫でやらないことでも、全力でやってみれば面白いということを教えてくれる。
はたから見たら異常者には見えるだろうが・・・
10時、子供達に手を振りながら公園を後にする。
11時、カフェに入店し二人で明太子スパゲッティとコーヒーをいただいた。
朝食と昼食を兼ねている。もちろんタモツの奢りだ。
それにしても、タモツがこんなオシャレなランチを楽しむとは思わなかった。
今思うとコイツの朝の姿は新鮮だ。
普段からコーヒーなどという気品あふれる物を嗜むのだろうか?
それとも見えをはっているだけなのか?
しかし、ここまでは元の世界の生活と何ら変わりはない。
12時、ついにタモツは街の外にくりだした。
街を出る前にある大きな門の前で、タモツは俺にベーシックダガーを手渡した。
「これから魔物を倒すために外に出る。素手では流石に心許ないだろう」
タモツはそう言った。
ベーシックダガーとは簡単に言えば短剣だが、ベーシックと称するのは、この世界に戦闘用の短剣の種類が豊富なため、適当な物はこう呼ばれるらしい。
俺たちはベーシックダガーを右手に荒野に出た。
「ここら辺には水々しい生物が現れる。そいつをダガーで倒せ。怖がることはない。牙も爪も持たない野犬を狩るようなものだ」
「お、おう・・・」
「二人より一人の方がより経験値を得られる。俺はあっちで狩るから、1時間ほど経ったら合流しよう」
タモツはそう言い残すとダガーを振り回しながら去っていった。
しかし、こんな何もない荒野のどこに水々しい生物が居るんだ?
そう思って、俺が一歩歩いた瞬間、視界が大きく歪んでいく・・・
辺りにオーケストラ調の戦闘曲が流れ、突然目の前に青い液体のような生物が現れた。
こんな間の抜けた顔の生物に、ダガーを突き立てるのは可哀想だが、そんなことを言っていては始まらない。
俺は意を決して、この生物にダガーで斬りかかった。
プシュっと変な効果音と共に、大袈裟に吹き飛んだその生物は、身を翻して今度は体当たりで反撃してくる。
「うわっ!」
俺は体当たりされて尻餅をついた。
結構痛い。
しかし、次の俺の攻撃を受けて、その生物はみるみる萎んで消滅した。
戦闘に勝ったのだ。
そして、経験値と10円を手に入れた。
なるほど、これだけで食って行くのは難しそうだ。
ならば、タモツはどこから収入を得ているんだ?
まだ、これから何かあると言うのだろうか?
とりあえず、俺は黙々と生物を狩り続けた。
だんだん余裕が出てきたから、いろいろ試してみたのだが、実は敵のステータスも開くことができる。
この生物は<ブルースムージー>と言って、ステータスは俺たち一般人の10分の1ほどしかない。
つまり、戦ってもほとんど危険はないわけだな。
やがて、タモツと別れ約50分が経過し、ブルースムージーを12匹倒した後、俺はレベルが2になった。
そして、タモツのようにフィート<酒気メーカー>を習得した。
これで今日から俺の頭の上にも酒気カウンターが浮かぶのか・・・
複雑な気分だな。
そして、そうこうしているうちに、タモツが戻ってきた。
「よう。レベル2になったのか!」
しかし、そう言うタモツもレベル2のままだった。
どうやらレベルが上がるたびに必要経験値が大幅に上がるらしい。
ふう、魔王討伐はいつになることやら・・・
14時、俺たちは大衆浴場で汗を流し、休憩スペースの畳の上で酒を飲んでダラダラした。
そして、16時、1日目に来た酒場に行くと、俺たちに声をかけてくる者がいた。
「ハッピーニューイヤー」
なんと、青白い半透明になったトミジイが、テーブルに座っていたんだ。
どうやら、トミジイは死んで<ゴースト>に転職したらしい。
実に恐ろしい。
「オラぁ、オメエらみたいにアルコール耐性が無えからよ。肝臓を酷使してこの様だ。だが、おかげで念願のZEROに成れたよ」
「まあ結構なことだが、アンタその身体で酒の味が分かんのか?」
俺は聞いた。
「飲めねえが感じるよ。前よりも鋭くな」
トミジイはニヤニヤした。
実はトミジイも生き返ることができたらしい。
しかし、死後の腐敗が進んでいたり、生前に病気を患っていると、蘇生後にその対処などで人材や金がかかるらしく。
無理矢理ゴーストとして復活したようだ。
ゴーストになる方法は秘密らしい。
「そういえば、オメエらの頭の上にある酒のマークは何だ?」
トミジイは俺たちに聞いた。
こうして、タモツとそれを観察していた俺の1日は終わりを迎えた。




