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第十章「風の勇者」1

・タン

善良な民間人レベル1

ツンツンヘアーの14歳。男性。

実家の畑仕事をさぼって山に行き、ひたすら風を感じている。


・ラム

善良な民間人レベル1

ハツラツとした村娘。タンの幼馴染。

村人の失笑の的であるタンを唯一理解しようとし、また叱ってくれる人物。

北の山林に囲まれたグリル村という集落がある。

ちなみにこの村は帝都の北東に位置し、そこには不思議な少年が住んでいた。


少年の名はタン。

髪の毛をツンツンに立たせ、ボロボロの服を着て何時も気だるそうにしている。


彼の実家は農業で生計を立てており、タンも兄弟達と共にその仕事を手伝うのが常識であった。


しかし、タンは度々仕事を抜け出して近くの山に向かったため、村の人々はタンのことを怠け者とよく噂している。


彼の両親も時には怒るが少し甘い性格だったため、なあなあで許されていたこともあり、タンは調子にのって山で過ごす時間も日に日に増えていくのだった。


「山に行ってくる。お前らしっかりやれよ」

今日もタンは弟と妹にそう言い残して山に向かった。


その山には名前がないが、タンは<風の山>と呼んでいる。


と言うのも、山の中には木々の生えていない開けた空間があり、そこには優しい風、激しい風などのさまざまな風が入り乱れるように吹いている。


その場所までは家から30分ほどで、タンはその場所の中央にある大岩の上で胡座をかいて、風を常に感じた。


風には同じものは一切なく、それぞれの個性があり、まるで生き物の様に吹き乱れる。

タンは風の表情を楽しめる男であった。


そして、ここまでくる道中、魔物が出る心配はない。

それどころか村付近には魔物が存在しなかった。

その理由は魔人の統べる土地が南西にあり、北東に向かうにつれて土地の魔力が少なくなるからであった。


そのため、この村の人々はレベルが低く、レベルを上げる必要も感じていない。


しかし、この平和な村がこの世界の人々の食糧問題を補う重要な役割を担っていた。


今日もタンは岩の上で呆けたように風を感じていたが、甲高い怒鳴り声に驚いて正気に戻った。


「アンタァ〜ッ!」


タンが声の方を向くと、ボブヘアの幼馴染のラムが立っていた。


「タン!アンタほんとに家族に迷惑ばっかりかけてないで、働かんといかんよも〜ッ!」

ラムがタン人差し指を向けて叱りつけた。


(刺激の風だ)

タンはそう思った。


毎回ラムは小言を言うために、わざわざこの山を登ってくるのだ。


この場所は未だにタンとラムしか知らない。


と叱りつつも、ラムはタンにとっての聖域であるこの場所を誰にも教えない気遣いがあった。


そんなラムの優しさを知っていて、怒られるのも悪くないとタンは思うのである。


ラムもそれだけ言うと山から下りて、タンは再び風を楽しんだ。


やがて、夕方になるととある異変に気づく。


「恐ろしい風が・・・」

タンは驚き、風を捉えようと手を広げて呟いた。


(村の方だ)

タンは当たり前のことだと思っているが、タンは風の方角と気を読むことができる。


気とは人々の気持ちのことで、例えば村で良いことがあると喜の気としてタンのもとに風は流れてくるのだ。


さすがのタンもただ事ではないと思って飛び上がり、山を駆け下りる。


信じたくはなかった。

初めは恐の気だった風が、だんだん死の風に変わっていくことに・・・


山を下る途中で、村が赤く染まっていくのを感じていた。

建物には火が点けられ、恐ろしい黒い影が村を囲みひしめいている。


実際に見たことはないが、それが魔人であることはタンにもすぐわかった。


「ヒィッ・・・」

タンは情けない声をあげて、山に引き返した。


そして再び岩の上にのぼって、風を感じる。

これはタンにとっての現実逃避だった。


(こうなってしまっては帝国の兵が派遣されるまで待つしかない)


実は帝国の内戦中に魔人の軍が襲撃してきたのが、つい2日前の出来事であることを、タンを含め村人は知りもしなかった。


しかし気掛かりなのは、家族とラムのことについてだ。


(父母、弟に妹、そしてラムは逃げられただろうか・・・)

心配しつつも、タンには風を感じることしかできることがない。


突然、タンの目の前に今まで感じたこともない風が巻き起こる。


まるでカワセミの羽のように美しい色の風が、眼前で渦を巻き入り乱れ、翠緑の女体を形成していく。


タンはその美しさに欲情する気持ちを抑え、ゴクリと唾を飲み込んだ。


(風じゃ無いような風だ)

驚きつつもタンはそれが風であることを疑わない。


そして、翠緑の肌と髪を持つ女性が口を開いた。

「私は風の精霊。勇気ある人間にチカラを託す存在」


風の精霊の言葉にタンにはピンと来なかった。


(風がものを言っている)

タンはまだそんなことを考えている。


「お前の村が襲われているのは知っている。手遅れに近いが、お前が望むならチカラになれる」

風の精霊は浮遊しながら言っている。


(手遅れに近いのか・・・)

タンは黙って、素直に話を聞いていた。


「私は流れを作る人間をここで待っていた。流れを作る者を英雄という。お前たち人間はそれを<勇者>と呼ぶらしいが」

風の精霊が話続けるが、タンは微動だにせず聞いていた。


「おい、聞いているのか?」


「はい」

タンは聞いていたので答えた。


「残念ながらお前は勇者の器では無い。本来勇者とはチカラの突出した者が相応しいからな。しかし、ある時お前がこの山に現れた。ここに吹く風は私そのものだ。だからお前のことはよく知っている。そして毎日お前と戯れるうちに私はお前を放って置けない所まで来てしまったようだ」

風の精霊がそう言うと、突風が吹き、その風にのって剣が風の精霊の手元まで運ばれてきた。


「<風の精霊剣>これは勇者の証だ。これで愚鈍なお前でも魔人を圧倒することができよう」


風の精霊が差し出した剣を、タンは静かに受け取った。

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