第九章「孤独酒」ラスト
やがて、巨大な鳥は俺の目の前に離陸した。
「やあ」
俺は言った。
巨大な鳥 レベル37
この鳥が変わったのは色と有害性を失ったことだった。
だから、黒陰鳥だった頃と同レベルなのも納得の迫力をまだ有している。
今の俺でも戦ったら負けるだろう。
そう考えていると巨大な鳥は俺に敬意を込めてか頭を垂れた。
どこか痩せていて元気が無さそうにも見える。
俺の憶測だが、コイツはヘルシャドウ(死の影)によって生物を死に至らしめるだけではなく、生命を吸って生きながらえていたに違いない。
つまり、通常の捕食になれないこの鳥は今にも餓死しそうなのだろう。
(私を殺せ・・・)
!?
突然、脳内に言葉が流れ込んでくる。
(私はじきに死ぬ・・・だからお前の糧にしろ・・・)
「お前が語りかけてきているのか?」
俺は急激に衰弱している巨大な鳥に向かって聞いた。
巨大な鳥が弱々しくコクリ頷く。
そうか。
今の俺は死生観にさえ乏しい。
そう言われるとすぐに殺してしまいそうになるが、道徳というものは情報として記憶しているので、すぐに行動には移さない。
「良いのかい?」
やはり巨大な鳥が弱々しくコクリ頷いた。
俺は右手で手刀を作り、一気に巨大な鳥の首を引き裂いた。一瞬だった。
苦しみはしなかっただろう。
俺はそれの悲しい亡骸を直視しているようで、空虚を見据えていた。
心地の良い経験値の吸収音の後、俺はレベルが一気に3上がって、仏陀レベル33になる。
もし、普通の人間の感性を取り戻すことがあれば、泣くかもしれない。
しかし、今の俺の心は穏やかで、全ての存在が味方してくれているのではないか?と思うほどに昂揚している。
誰も俺を止めることはできない。
もうこの神仙の山でやることはなさそうなので、山を下りることにした。
下山の途中でふと崖の方を見ると、酒瓶が置いてあるのを見つけた。
俺はジュウホウ達と修行した時のことを思い出す。
「懐かしいな」
しかも、その中に封をきってない一升瓶が5つもあった。
「もったいないし、飲むか・・・」
これはタモツ、ジュウホウ、ブライ、巨大な鳥への葬い酒だ。
まあたぶん、ジュウホウもブライもあの時に死んだだろう。
喉も渇いていた俺は新しい瓶の封をきって、そのまま口をつけて、少々こぼしながらも一気に飲み干した。
その時、魂ごと後方に消し飛ぶほどの衝撃を受けた。
脳に酒を直に流し込まれたようにガツンとした刺激にめまいがして、頭や手先がボーッとして痺れてくるような快感が心地良い。
あまりの衝撃に俺は意識を失いかけた。
「うめえ・・・!」
悟りを開いていたから味覚なども鋭敏になっていたことも関係しているかもしれないが、酒というものはやはり美味いなと思った。
それに、酒とはたまに飲むのが最高だなとも同時に思う。
俺はもう一本の酒瓶を開け、今度はゆっくり飲んだ。
「うめえ、うめえよ!」
日が沈んでいく。
俺は飲みながら、巨大な鳥のことを思い泣いた。
というか声を出して哭いた。
それからも酒を飲み続け、感情が一気に湧き上がり、重力に押さえつけられるようなデバフ(弱体化)で身体のチカラが抜けていくのを感じながら夜を明かした。
そして、昼過ぎまでそのまま寝た。
朝起きると、とんでもない気だるさに襲われる。
修行中は寝起きも透き通ったようにスッキリと起きることができていたから、しばらくこの感覚を味わってはいなかったな。
そして、すぐに不安感が押し寄せてくる。
もちろん頭痛と吐き気もした。
そういえば、一升瓶(1800ml)を5本も開けているのだ。泥酔者でなければ耐えられない領域だろう。
俺はこの日、もう2度と酒は飲まないと決意した。
「つらい・・・」
しばらく動けなかったから、俺はこれからどうしようか考えながら、この日も寝た。
次の日も相変わらずだるいが、動けないほどではない。
「とりあえず、真面目に働こう・・・」
俺は自分の目的も忘れて、転げ落ちるように山を下りた。
後になって気づいたが、ロティサリースピアは夢想の中で無くしていた。




