第八章「熱風」ラスト
鈍い叫び声を上げたタモツを馬上から引きずり下ろすと、争う人々にかき混ぜられ、やがて無数の死体の中の1つになってしまった。
「成仏してくれよ。タモツ」
俺は死臭の中に、炎の槍に付着した肉の焼ける臭いを微かに感じ、役目を終えたように放心していく。
なんという虚脱感だ・・
タモツは死んでしまったが、これはこの世界に送り込まれたタモツのコピーだ。
だから、元の世界では元気に生きている。
今はそう思い込むしかないだろう。
ジュウホウとブライはそれぞれの強敵とまだ戦っている。
すぐに加勢するべきだ。
しかし、得体の知れない緊張感に俺の身体は止められていた。
今、この戦いを待っていた者達、人間同士で争い弱体化するのを待っていた者達が、すでに俺達を包囲している。
俺はその軍勢を見回した。
黒い鎧に身を包んだ者達、そう魔人だった。
終わった。
ここには人間の主力勢力が集まっている。
ここを攻撃されたら人間は魔人に完全敗北するだろう。
しかし、俺は逃げたい。
ジュウホウとブライがいつまでこの戦いに付き合うかは知らないが、俺は何としてでも離脱させてもらう。すまないとも思っている。
ジュウホウは馬に乗っているし、ブライは馬と同等の走力を持っているから、それぞれでどうにかするだろう。
やがて、周りの兵達も徐々に、置かれている状況に気がつき始めた。
魔人の軍勢に囲まれて、自然に人間対魔人の構図が出来上がってはいたが、基本的には魔人の方が人間より強く、お互いの兵数はパッと見では分からないが、包囲された状況で不利なのは明らかだ。
俺は包囲に風穴を空けて、1人で離脱することを考えた。
問題なのはタイミングだ。
今動いてしまうと俺だけ魔人の集中攻撃を受ける可能性が高い。
かといって完全に包囲された状態になってしまえば、魔人による層の密度が高くなり、包囲を破る難度が高くなってしまうだろう。
そんなことを考えてはいたが、にじり寄る魔人達の圧に押され、俺はタイミングを見失い、とうとう動き出せなかった。
衝突する人間と魔人。
意外にも、決死の覚悟を持った人間達の反抗は凄まじく、時には魔人を押し返すほどだった。
ジュウホウはテラーの念力を解いて共通の敵である魔人を牽制し、ブライとバーバリも見事な連携で魔人を圧倒している。
俺も魔人の兵を2、3人槍で薙いだが、見覚えのある魔人が姿を現した。
混迷の森で出会ったコールドである。
「コールド!?」
「貴様、混迷の森の!」
コールドは魔剣士レベル14。
あの時とレベルは変わらない。
しかし、装備している武器は違った。
奴の剣は氷の様に綺麗で、動かすたびに魅入られるほどの美しい光を放っている。
魔氷閃
レア度:ユニーク
攻撃力:大 氷属性
どうやら、俺のロティサリースピアと同等の武器の様だな。
俺達は共に14レベルだが、奴の職業は戦士の上位職業の1つである魔剣士だ。
下級職業よりも若干能力上昇のボーナスがあるため、実質下級職業以下の泥酔者では分が悪いのは言うまでもない。
しかし、この土壇場であれば前回の作戦が大いに通用するだろう。
俺は、泥酔者であるタモツに魔法アルを使うほど無駄なことはしない。
酒気カウンターは温存してある。
「魔法アルズ!」
俺は酒の球を2つ横に並べて、コールドに向けて放った。
それと同時に俺は2つ並んだ酒球の左側に少し遅れて並ぶように動いた。
コールドは酒球を対応しなければならないが、酒球は液体なので受けることはできず、避けるしか対策の方法がない。
左に避けた場合は、槍で追撃し、右に避けた場合は、そのまま馬で走り去ってしまえばいい。
そして、1つの酒球がコールドにぶつかろうとしたその時、コールドの放った斬撃により、酒球が真っ二つに割れてコールドの左右を横切ってしまう。
そして、ちらっと見えた酒球の断面が凍っていた。
俺は慌てて追撃の突きを放ったが、コールドに簡単に逸らされてしまう。
コールドはすぐに反撃に移ろうとしていたが、俺は狂った様に暴れ回った。
恐ろしかったんだ。策が破られ敗北する未来が恐ろしかった。
ロティサリースピアを左右に連続で振り回し、コールドを含め、魔人達を寄せ付けない。
槍を降るたび、先端の炎が大気を焼いて熱風を起こす。
「くッ!」
コールドは思わず前腕で顔を隠し、熱を遮断しようとしていた。
いくら魔人でも迂闊に近づくことはできないらしい。
ちなみにこの技は後に、俺によって「熱風」と名付けられる。
気がつくと俺はそのまま魔人の包囲を突破して、そのまま走り去っていた。
後ろから弓矢や魔法が飛んで来ていたみたいだが、当たらないことを祈って、ただただ走り続けていく。
しばらく走ると、もう戦場は見えなくなっていた。
俺を追ってくる者はいないようだ。
助かったんだ・・・
しかし、人間の時代はおそらく今日で終わる。
今後の世界がどうなるかなんてことは、今の俺には考えられないが、生き残らなければならない。
チカラを手に入れなければ・・・
誰にも殺されないチカラを・・・
その思いを胸に、俺は再び神仙の山に戻ってきた。




