第一章「飲み友の異世界ルーティン」2
別に年が明けたわけではないんだ。
これは俺たち飲み仲間が、飲み会の開始や二次会、三次会など飲み屋を変えた時などに時々発する、合言葉の様なもの。
特別な意味などないが、この状況で使うと少しノスタルジックな気持ちになるな。
俺は飲みながら、「俺はこれからどうすればいいのか」「魔王はどこにいるのか」「この世界に酒はあるのか」などタモツにいろいろ聞いた。
「混乱する気持ちは分かるが、まず一つずついこう。お前の一番の心配。飲酒の文化はこの世界にある。まあ元の世界ほど上等な物はないがな」
タモツは上機嫌に笑いながら語った。
話を聞くと、どうやら俺とは違い、タモツは元々この世界に存在したかの様に扱われるらしい。
タモツはこの世界の記憶と、人との繋がりが存在した状態で生成されたようだ。
つまり、元の記憶と異世界の記憶の両方を持っていることになる。
やれやれ、女神はこの男に異世界のガイドをやらせる気のようだな。
俺は女神にとって都合の良い生物タモツに同情した。
とにかく、地べたで飲んでいてもつまらないということで、我々は荒野を去り、街に向かった。
そして、そのまま街の酒場に入店した俺たちに向かって、一人の老人が声をかけてきた。
「ハッピーニューイヤー」
俺たちだけの合言葉が、タモツを介してこの世界にも浸透しているのは、非常に考え深いものがある。
この老人は<トミジイ>と呼ばれるタモツの飲み仲間らしく、よくこの酒場で一緒に飲み食いするらしい。
「おお、トシミツ。お前も職業が泥酔者なのか。これは珍しい」
この世界には、<固有職業>というものがあるらしく、選ばれた人間がだけが、生まれつき神から与えられる職業らしい。
俺とタモツも特殊な条件で、この世界に送り込まれたわけだから、選ばれた人間に該当するのかもしれないな。
さらにトミジイから話を聞いていると、自分が昔大魔導師だっただの、名門の騎士だっただの、見え透いた嘘を平気で吐く、大ボラ吹きだったことが分かった。
そのリアル狂人ぶりはタモツと勝るとも劣らない。
つまり俺達と同類だったわけだな。
そんなトミジイに心を許した俺は、自分の置かれている状況を説明し、アドバイスを求めたが、
「俺は人の人生に責任持てねえよい!」
と大声を出して押し黙ってしまった。
まあ、期待はしていなかったがね。
夜も更けて酔いが深まるとトミジイは永遠と語りだした。
「タモツ。トシミツ。俺はなあZEROになりてえんだよ。人間いろんな物を持ちたがるが、それは間違いなんだ。捨てたもん勝ちだぜえ。この世はよ・・・」
そう言い残すとついに眠ってしまった。
タモツは「今日はトミジイの奢りさ」と言い、トミジイの財布から飲み代を払うと、俺たちはトミジイの家に送り届けてやった。
そして、何の疑問もなくタモツの家に転がり込むことにも成功する。
まったく、何の進展もない一日だったが、楽しかったからヨシとし、また明日頑張るとしよう。
翌日。
俺はこの世界の一般常識を知るために、タモツの家にある本をめくっていた。
しかし、タモツは当然のように、どこかに出かけて行った。
俺はこの時、女神が嘆いていた意味を理解する。
本来、女神に聞かれた時、最強の剣だとか防具を願っていれば、打倒魔王という目標を楽に進められたに違いない。
ましてや、タモツは旅の仲間としてここに呼んだわけでもない。
自由に動くのだ。
場合によっては味方にも敵にもなる。
タモツがその気であれば、テロを起こし、この世界の王に成り変わる可能性も0ではないだろう。
俺はこの世界にバグのような男を、昔から存在したかのように、送り込んでしまったのだ。
もちろんパソコンやテレビゲームのように、バグのような男がプログラムにないような行動を起こしたとしても、ビーっという音を立ててこの世界が停止したり、エラーメッセージが表示されることはないだろう。
それなりの辻褄を合わせて、この世界は作り変えられたはずだ。
だからこそ、おかしなことにならないと良いが・・・
おっと、消極的になってしまうのは、シラフの悪い所だな。
幸いこの家には酒がある。
元の世界の物ほど美味くはないが、まあ飲めなくはない。
酒を飲みながら、本を読んでいると夕方になり、タモツが帰ってきた。
帰ってきたタモツのステータスを覗き込んで、俺は驚いたよ。
コイツ、レベルが2になっていた。
この世界の魔物という生物を倒すと、<経験値>と言うものが、倒した本人に蓄積され、貯まると<レベル>が上がると本に書いてあった。
コイツはこっそり魔物と戦ってきやがったというわけだ。
つまり、成長したがっている。
面白いじゃないか。
そして、フィートも1つだけ増えている。
<酒気メーカー>というものだ。
効果は「飲酒を行うたびに、それの上に酒気カウンターを1つのせる」というもの。
意味が分からない。
「それの上」とはいったい何?
しかし、すぐに分かった。
タモツはすぐに酒を持ってきて、俺の隣で飲み始めた。
するとタモツの頭の上に酒のマークが1つ表示された。
「それの上」とは「タモツの上」のことのようだ。
ただ、酒のマークがタモツの頭上に浮かんだから何だというのだ?
もしかすると、タモツのレベルが上がるたびに、関係する能力が増えていくかもしれない。
今後も観察が必要だな。
その日はタモツと酒を飲み、いつの間にか寝てしまっていた。
しかし翌日、トミジイが死んだ。




