第11話 Hurray!!
翌々日。
ついに彼女たちは、トーナメントのベスト4を決める舞台に立つ。
準々決勝。
対戦相手は。
「どうも。今日はよろしくお願いします」
めちゃくちゃ礼儀正しく、キャプテンの初芝に握手を求めてきたのは。
全身、骨だらけのスケルトン。
初芝は、その骨だけの体に、顔を引きつらせて、手を震えさせながら、握手を交わしていた。
ちなみに、骨だらけのスケルトンチームは、「グイっと伸びーる」を使っており、マリン高校同様、通常の男性同様の力を持っていた。
試合前の恒例の作戦会議。
監督の竜造寺、コーチの佐々山、そして司令塔的立場の里崎が中心に、相手チームを分析する。
「打の中心は、あいつだ。ディアズ」
竜造寺が指さしたのは、レガースをつけて、キャッチャーマスクをかぶった、骨だらけの男。
「いや、結局みんな骨だから全然違いがわからんのですが」
大塚が冷静な突っ込みをしていた。
「投手では、四天王の一人、カルロスがいるっすね。MAX156キロ。スライダー、フォーク、チェンジアップを駆使する本格派っすね」
佐々山がいつもの調子で軽く告げていた。
「こいつは、投手戦になるかもですね」
里崎の「予感」が試合の行方を予想するように、口を出ていた。
「プレイボール!」
そして、いつものように審判であるバレンタインの合図で、試合は開始される。
今回から、人間チーム私設応援団ブラスバンドチームによる「応援歌」が試合を盛り上げることになった。
先攻がスケルトンチーム、後攻がマリン高校。
人間応援団は、ライトスタンドに陣取って、旗を振っていた。
「テンション上がるぜ」
先頭バッターの諸積が、1回表のライトの守備に入り、まだ打席に立つ前から自分の後方にいる応援団の演奏に聞き入っていた。
ところが。
「ストライク、バッターアウト!」
「速えって」
1回裏の攻撃。
先頭バッターの諸積が、三球三振。
その球速は、体感で、
「155キロは出てる」
という有り様で、チームメートが驚いていた。
結局、4回まで両者共に0行進が続く、投手戦となっていた。
4回裏。
ようやくマリン高校にチャンスが回ってくる。
1番、諸積が四球で出塁。2番の小坂が送りバントで送って、1アウト2塁のチャンスで、クリーンナップへ。
3番、福浦を迎える。
しかし。
「福浦。お前、最近当たってねえな」
「ええ、まあ」
試合前。
彼女は監督の竜造寺に呼び出されていたことを思い出していた。
「今日、打てなかったら、打順を下げるぞ」
容赦のない竜造寺の一言に、彼女は恐れおののいていた。
しかし、内心、彼女自身もわかってはいた。
(確かに最近、不調ですわ。何とかしないと。この私としたことが)
自らのバッティングの不調を感じながらも彼女は打席に立つ。
ライトスタンドから応援歌が響く中、彼女は相手のカルロスの球を見送っていた。スライダーにチェンジアップが来た。
「ストライク、ツー!」
あっという間にツーナッシングに追い込まれて、カウント0-2。
しかし、彼女は狙っていた。その最速のストレートを。
そして、内心では、
(『幕張の安打製造機』と呼ばれた私を、ナメないで下さい)
と思っていた。
もっともそのあだ名は、あくまでも美浜マリン高校内という「仲間内」のあだ名だったが。
3球目。
(来た!)
速いストレートが外角よりに伸びてくる。
それに合わせて、彼女はコンパクトにスイング。
打球はレフト線に伸びる。
というより三塁ベース付近に飛んでいた。
これが運良く、三塁手の脇を抜けるように外野に抜けた。
俊足の2塁ランナー、諸積が還ってきて、先制の1点をもぎ取った。
福浦のタイムリーヒット。
3番を下ろされる寸前で、彼女は見事なタイムリーヒットを放った。
しかし、試合は意外な展開を見せる。
6回表。相手の4番、ディアズにソロホームランを打たれ、追いつかれた後。
1アウト1、2塁のピンチを迎えるマリン高校。
次のバッターの打球がライト線のポール際まで飛んだ。
落ちれば確実に長打。勝ち越しを許すどころか下手をすれば、逆転される。
ところが。
「おらー!」
諸積が飛んでいた。
宙を飛ぶようにダイビングキャッチを見せ、
「おおっ!」
見事にボールをキャッチング。観客から盛大な拍手が巻き起こっていた。
チームのピンチを救ったファインプレーだった。
しかし、続く7回。
黒木が捕まる。
四球と盗塁、ヒットでノーアウト1、3塁と絶体絶命のピンチ。
相手バッターはこの試合当たっていたバッターだった。
4球目。打球はセンターに飛んだ。
もちろん、犠牲フライ狙いのバッティングだろう。
センターは、大村。
その大村ががっちりグラブでキャッチ。
瞬間、三塁ランナーはスタートを切る。
ところが。
センターから、ものすごい投球が本塁に返ってきた。
―ビュン! バシーン!―
まさにレーザービーム。
里崎のキャッチャーミットからすさまじい音が響き、速球がミットに収まっていた。同時に相手ランナーが本塁に突っ込んでいた。
数瞬の後、
「ア、アウト!」
「おおっ!」
「すげえ!」
大村が見せ場を作る、レーザービームのようなバックホームで場を盛り上げていた。
野球の試合とは、こうした「流れ」によって、大きく変わってくることがある。
膠着状態どころか、押されていた彼女たちマリン高校の流れを引き寄せるプレイだったが。
結局、次の7回表に、またも黒木が捕まり、タイムリーヒットを打たれ、彼女はここで降板となる。
そのまま試合は1-2とピンチのまま、最終回へ。
ここで負ければもう後がない。
負けたら、魔王に挑むどころか、現実世界に帰れなくなる可能性すらある。
そんなピンチの場面。
9回裏2アウトランナーなし。
またも、見せ場を作ったのは、「幕張の安打製造機」こと福浦だった。
カウント2-3。フルカウントから、まだ先発として投げていた、カルロスのスライダーをライト前に打ち返して、出塁。
そして、キャプテンの初芝を迎える。
「キャプテン!」
「頼みます、初芝先輩!」
ナインたちが、ベンチから必死の声援を送る。
そんな中、彼女はライトスタンドに注目していた。
正確には、目ではなく、耳を向けていたのだが。
「Hurray!! Hurray!! 君と僕に向けて叫ぼう Play Ball!!」
ブラスバンドの演奏と共に流れてきた声。それは割と最近の音楽だったからだ。
(こんな最近の曲まで、どこで)
と、思いつつも、その某プロ野球球団を後押しするような内容のテーマソングに、彼は一段、ギアを上げて、ボールに集中した。
そして、カウント2-2からファールで粘った後。
カルロスの球威が落ちてきたストレートを狙った。
「もっとHurray!! Hurray!! どこまでもこの声よ、届け!」
叫びながら、彼女はバットを思いきり振りぬいた。
瞬間。
打球が大きく弧を描いて、ライトスタンドに伸びて行った。
「大きい! これは行ったか!」
アナウンサーの実況が響く中、懸命の応援を続ける、人間応援団のブラスバンドチームが控えるそのスタンドに、ボールが文字通り「突き刺さった」のだ。
「入った! 初芝、なんと逆転サヨナラホームランだ!」
「おおっ!」
「すげえ!」
地鳴りのような大歓声と共に、初芝は手を上げて、歓声に応えながら、ダイヤモンドをゆっくりと一周。
ホームベースで福浦だけでなく、大勢のナインとハイタッチをかわしていた。
3-2。9回裏2アウトからのまさかの逆転サヨナラ2ランホームランで、マリン高校はついに準々決勝を勝ち抜き、準決勝へと駒を進めることになった。
それをまたも主賓室で見ていた、魔王デスパイネは、悔しがるどころか、笑みを浮かべていた。
「面白い。人間チーム風情がここまで来るとはな。おい、次はどのチームだ?」
そのまま脇に控える魔族に話しかける。
「はっ。準決勝の対戦相手は、ゾンビチームかと」
それを聞いて、彼女はほくそ笑んでいた。
「なるほど。いかに好調の奴らとはいえ、あそこには勝てんだろ。そろそろ快進撃も終わりだな」
魔王が微笑む中、彼女たちはさらに翌々日に開催される準決勝へ進む。