表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/17

第十五話:自由都市の噂と、始まりの槌音

 ドルヴァーンの森に別れを告げ、俺たちは再び旅路に戻った。数日にわたるエルフたちとの交流は、俺にとってもアストリッドにとっても、得難い経験となった。彼女たちの自然と調和する生き方、素材を活かしきる食文化。その全てが、俺の創作意欲を刺激した。


「さて、リオン。次なんだが、この鉱石を打つには、そこらの鍛冶場じゃダメだ。地脈の熱を引いた、特別あつらえの魔導炉まどうろが必要になる」

 街道を歩きながら、アストリッドが真剣な顔で言った。彼女の背負う袋の中には、星屑の泉で焼き入れを終えた、伝説の鉱石が眠っている。

「そんな都合のいい場所が…」

「ある。自由都市リューンだ。あそこは腕利きの職人たちが集まる街。ギルドに金を払えば、最高の設備が借りられるはずだ」

 リューン。俺たちが最初に出会った、あの街か。一度は門前払いを食らったが、今の俺たちなら、少しは状況も違うだろう。

「分かりました。それに、あそこなら、新しい酒の材料や、珍しい酵母の情報も手に入るかもしれない」

 俺たちの次の目的地は、奇しくも、この旅が始まった場所へと決まった。


 旅の道中、いくつかの町や村に立ち寄るうちに、俺たちは奇妙な噂を耳にするようになった。

「聞いたか? 西のツェルバルク領で、迷宮の主のグリフォンを倒した二人組がいるらしいぜ」

「ああ、なんでも、ドワーフの女傑と、薬師か魔術師の優男のコンビだとか」

「ドルヴァーンの森を蝕んでいた奇病を、たった一晩で治したって話も聞いたぞ。その男が造った『光る酒』でな!」

 噂は、尾ひれどころか、翼まで生えて、俺たちの前を飛んでいた。アストリッドは「女傑とは、悪くねえな!」と豪快に笑っている。俺としては、少しばかり気恥ずかしい。


 そんなある日、立ち寄った宿場の酒場で、俺たちは、決定的な会話を耳にした。ツェルバルク領から来たという商人たちの、ひそひそ話だ。

「おい、バルト騎士爵様のところ、大変らしいぞ」

「ああ、あの醸造に凝ってた…。なんでも、今年収穫したブドウが、全部、酸っぱくて使い物にならなかったそうだ」

「去年までは、あんなに出来が良かったのにな。腕のいい見習いを追い出したのが、そんなに響いたのかねえ」

「ああ。そのバルト様が、血相を変えて、『神の雫』を造れる醸造家を探しているらしい。なんでも、うちの商隊の者が、ドルヴァーンの森で、一口飲んだだけで二十歳は若返るような、とんでもない霊薬に出会ったとか…」


 俺は、黙ってエールを口に運んだ。隣で、アストリッドが俺の顔を見て、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべている。

(そうですか、バルト卿。あんたが捨てた『役立たず』は今、こうして、最高の相棒と、あんたが生涯かけても手に入れられないものを、手に入れましたよ)

 胸がすくような思いだった。だが、同時に、面倒なことにならなければいいが、という予感もしていた。


 数週間後、俺たちは再び、自由都市リューンの城門をくぐった。

 前回、無一文で訪れた時とは、見える景色が違う。活気ある街並み、行き交う人々。その全てが、俺たちの新たな冒険の舞台に見えた。

「よし、行くぜリオン! まずは鍛冶師ギルドだ!」

 アストリッドは、子供のように目を輝かせ、俺の手を引いて走り出す。

 彼女が、あの鉱石で、どんな伝説の鎚を打ち上げるのか。そして、俺は、この街で、どんな新しい「味」と出会うのか。

 俺たちの物語は、一つの大きな冒険を終え、今、新たな章の、始まりの槌音を響かせようとしていた。

ご閲覧ありがとうございました! 感想・評価・ブクマで応援いただけると嬉しいです。

次話は7時過ぎ&20時過ぎ&不定期公開予定。

活動報告やX(旧Twitter)でも制作裏話更新中→ @tukimatirefrain

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ