第九話 ホーンラビット討伐依頼2
熱い。右腕が熱い。燃えるように熱い。
先程まで動いていた俺の右手がない。
右手首から先がない。
何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ何だこれ!!!
認識してしまった情報は否応なしに脳に伝わる。
そしてそれは五感へと ダイレクトに
『お前の右腕がなくなってしまったぞ』と
そして驚愕により遅れていた痛覚へと
「ーーーーー!!!」
その瞬間、俺の体におよそ人生において経験したことのないであろう激痛が現れた。
別次元の激痛が俺の脳を殴りつけ、痛みに悶え俺の体が地面に倒れる。
傷口からは血管と思わしき紐のような何かが垂れ下がり、まるで噴水のように血液がとめどなく流れ出る。
「あ!? おお、おおおお、あぎ、あぁいあ??ああ……?
あ、あ、あが、あぁ、あぁ、あぁあぁあ!!!!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんで痛いなんで痛い痛いなんでなんで痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんで痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんで痛い痛いなんでなんで痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんでなんで痛いなんでなんで痛い痛い痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛い痛いなんでなんで痛い痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛い痛いなんで痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛いなんで痛いなんで痛い痛いなんで痛いなんで痛い痛い痛い痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんでなんでなんで痛い痛いなんでなんで痛い痛いィィィィィィィィィィィ痛い痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いよ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いよ助けてお母さん痛い痛い痛いなんでなんで痛いなんでなんでなんでなんで痛いィ痛いよ痛い痛い痛い痛い痛いい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛い痛い痛い痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛いなんで痛いなんで痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛いなんでなんで痛い痛い痛い痛い痛いなんで痛いいたあいたあいああたあのあぁあああああああああああああああああああああああああああああああ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いよ痛いよ痛い痛いよ痛いよ痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い助けて痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
地面を転げ回り額を擦り付け打ち付け爪が抉れる程に土をむしり取り周囲の草や土を齧り摂り無い右腕を押さえつけ支離滅裂な言葉を発しながら悶えに悶えた。
「あああ……あああぁぁぁ……あああああああああ!!!」
一体何が起こったのか。
痛みで回らない頭を必死に回しながら兎達に目をやる。
奴らは未だ変わらない表情で俺を見つめている。
まるでそうするのが当然だとでもいうように。
崩れ落ちた体制のまま、兎から距離をとろうと必死に後ずさる。
痛みで今にも飛びそうな意識を抑えて現状を把握すべく必死に考える。
何故いきなり俺の腕が切断された。
俺の認識が間違っていなければ兎には何もされていない。
触れられてすらいない。
否、振り下ろした剣すらも奴らを捉えていないのだ。
剣が直撃する直前に何かが起こった。それだけが今確かな事だ。
だが、冷静な思考能力は、やがて未知の恐怖という感情に瞬く間に塗りつぶされていく。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い。
怖い!!!!!!!
ゴブリン戦の時とは比べ物にならないほどのこの世ならざる痛み。
時が経つほどに実感する己の無力。
理解できない現象と、あまりの恐怖に涙がとめどなく溢れてくる。討伐のことなど既に頭から抜け落ちていた俺は、兎に背を向け芋虫のように這いずり逃走を図った。
「あがっ!?」
逃走を図った瞬間、両足に強烈な痛みを感じた。
今度は何だ。なんなんだ。
恐怖を押し殺しながら痛みの発生源を確かめようと振り返る。
振り返ってしまった。
そこには、三匹のホーンラビットがいる筈だった。
いや、確かに兎はまだそこに居た。
一匹だけ。
次の瞬間、再び壮絶な苦痛が俺の体を襲った。
「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
二匹の兎が俺の両足に喰らいついたのだ。
思わず両足を振り回し引き剥がそうとする。
絶え間なく続く激痛の中、更なる苦痛から逃れようと抵抗する。
だが、まるで俺を嘲笑うかのように。
二匹の兎は唸り声を上げ更に深く齧り付いた。
同時に
何か風の吹くような音が聞こえた気がした。
「え?」
またしても間抜けな声が漏れる。
当然だ。
視界の先には先程と似たような光景が広がっていた。
両足が 俺の両足が 音と共に消失した。
いや違うな。消えてはいない、切れたのだ。
だってほら、二匹の兎が俺の両足を喰らい続けている。
両足の支えを失った俺は抵抗した反動のまま更に倒れ込む。
「あはっ……あはは!アハハハハハハハハハ!!!!」
笑いが止まらない。止まらない。
俺は見た。見てしまった。何故気づかなかったんだろうか。魔物だぞ、怪物退治だぞ?
最初に剣を向けたであろうホーンラビット。
その周囲からは、耳を塞ぎたくなるほどの風が吹き荒れていた。
喰い続ける二匹を尻目に風は俺へと吹き続けている。
やっと分かった。
信じ難いが奴は風を操っていた。まるで鎌鼬のように。
最初に剣を振り下ろした時、奴はこの鎌鼬で俺の腕を切断したのだ。
動じることなく一瞬で。
そして逃げ出した手負いの相手に追撃。
両足も同じ要領で切断されたわけだ。
間抜けもいいとこだ。何が兎狩りだ。
サクッと終わらせる?冗談じゃない。ここに来て最初に学んだ筈なのに。
未知の怪物との戦いを。
涙も枯れ、叫び続け、右腕両足と失った俺は自分がどれだけ甘い考えだったかを痛感した。
今更悔やんでも遅いか……
俺の両足をあらかた食い尽くした二匹はまたしてもこちらに向き直っていた。これ以上喰おうってのか。
神様がいるとしたら随分残酷な仕打ちをするんだな。
恐怖は既にない。
この短時間で驚く程冷静になっている自分に驚いている。
左手以外失って、コイツらから逃げられるとは思えない。
この体じゃ町にも帰れないだろう。
俺の人生はここで終わる。
この兎共に食い殺されて。
二匹が近づいてくる。
あと数秒後には俺はまた貪り喰われることだろう。
でも……
だからって……
何の抵抗もせず死んでやるかよ畜生が!!!!!
飛びかかってきた二匹のホーンラビットへ向けて
俺は左手を翳して
人生最後の憤怒を込めて詠唱する
『火魔法』
左手に炎が生まれる
そして詠唱
俺の唯一の力
その名前
力を
『 復讐 』〈 リベンジャー 〉
俺が最期に見たものは
膨れ上がり、巨大な『火球』と化した俺の火魔法
突風が渦巻き 業火となったそれは 俺の視界を埋めつくし
やがて爆炎となり 爆発的な衝撃と共に拡散した。