第八話 ホーンラビット討伐依頼
町の城門に辿り着いた俺は、守衛に冒険者カードを提示し町を出る。ギルドで聞いた身分証ってのはこういうことか。
入国・出国、緊急時の身分確認ってことだな。
無くさないようにしなくては。
城門を潜り、2日ぶりの大草原へと戻ってくる。
なんか懐かしい感じがする。
しばらく平和な町に居たからか緊張感ってもんを忘れてたのかもしれないな。
さて、受注したホーンラビットの討伐だが、場所はエレボスの町大草原から南に約一時間歩いた場所。
主に薬草の採取地として有名らしいその場所に最近複数体のホーンラビットが出没しているらしい。
要するに採取の邪魔になる兎を狩る依頼だ。
要領よくやれば、討伐時間含め3時間もあれば終わるだろう。半日で銀貨4枚、美味しい依頼だ。
さっさと終わらせて町に帰ろう。出発だ。
城門から離れ、目的地の薬草畑へと歩を進める。
風が気持ちいい。
以前ここを通った時は馬車の上だったからな。
その前日はゴブリンとの死闘2連戦だったし、気分の問題かな。
一応警戒は怠らずに目的地へ向けて進んでいく。
人道はちゃんとあるし、今回はしっかりとした目標もある。最悪の場合は逃げればいいのだ、臆病と笑うなかれ。
相変わらずこの世界は草原だらけで殺風景だが、冒険者という職があるからにはやはり迷宮や洞窟、ダンジョン、火山なんかの場所の依頼もあるのだろうか。
色んなところには行ってみたいが、怪物と戦ったりするのは正直勘弁だ。
できれば討伐依頼なんていう命を懸けた戦いはしたくない。
適度に小銭を稼いで食えればそれでいいしな。
そうだ。せっかく時間があることだし火魔法の練習をしておくか。まだ不用意に町中で使う訳にはいかない。
こういう移動の最中なんかを有効に使うべきだろう。
俺は歩きながら何度も火魔法を発動してみる。
やっぱり小さい。
それでもマッチの火なんかに比べると10倍近くの大きさはあるが。
これをあのゴブリンみたいに使えたらかなり有能な力になると思うんだけどなぁ。
なにが違うんだろうか。
今まであまり気にしていなかったが、魔法やスキルを使うのになにか代償とか必要なんだろうか?
今のところは大丈夫そうだが。
……そういやステータスに【MP】って項目があったな。
ゲームなんかに倣うならマジックポイントって読むのか?
ステータスを確認してみる。
【MP】102 と表示がある。あれ?確か初めて確認した際は
110だった筈だけど……。
試しに火魔法を発動してみる。すると102のMPが101に変わった。
なるほどな。大体わかったぞ。
おそらく『火魔法』の発動に1のMPを消費しているんだ。
110ではなく102の表示だったのはさっきまでの発動回数分MPが既に減っていたわけだ。
つまり現状の俺の『火魔法』の使用回数はMAX110回。
110回使えるマッチか……
うーむ、便利ではあるんだけどなぁ。やはり戦闘には使えそうにないんだよなぁ……。まぁいいか。
理論はわかったし、あとは色々模索してみよう。
魔法の練習をしているうちに、目的地へ到着した。
おそらくここのはずだ。
念の為、鑑定を使って周囲を確認してみる。
【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】【薬草】
…うん。見事に薬草畑だ。
目的地はここで間違いないらしい。
俺は剣を抜き、周囲の索敵を始める。
ホーンラビットの特徴はあらかじめギルドで説明を受けた。奴らの特徴は普通の兎とは違い、額に角が一本、真っ直ぐ生えていることだ。ホーンなんて名前が付いてるんだからそりゃそうなんだけど。
群生地といってもそこまで見通しが悪い訳でもない。
子供が立っていても分かる程度だ。
だが相手は兎。逃げられたら見つけるのは至難の業だし、死角からいきなり攻撃される危険もある。
胸当てより盾を買っといた方がよかったかもしれない。
今更ぼやいても仕方ないんだがな。
引き続き慎重に捜索する。
だが兎はなかなか見つからない。これ思ったより難航しそうだな。
何か手がかりとかあればいいんだが。
動物なら糞とかを目印に探すか?兎はなんかすぐ糞をするイメージがある。
野生動物相手だしまともに探しても見つからないかもしれない。
多少カッコ悪いが地面を注視して探してみよう。
俺は這いずるような形になり、足跡や糞のような痕跡を見つけようとやり方を変えて探してみる。
逆に兎になった気分だ。
しばらく地面を注視しながら探していると、地面に穴が空いている箇所を見つけた。俺の顔位はありそうな大きさだ。
もしかして、これ巣穴か?
兎は地面に穴を掘り、そこで暮らすと何かの本で読んだことがある。
他の生き物の気配を感じて穴に引き篭っていたのか?
確かめてみるか。
アイテムボックスを開き火の秘薬を取り出す。
そして火魔法を発動。
秘薬に近づければ…よし、思ったとおりだ。
火の秘薬はそのまま砕けばただの火種にしかならないのだが、性質上、着火すれば小さい火の玉になり得る。
これを巣穴に投げ入れる。
俺流『ミニファイヤーボール』だ。
ちょっとかわいそうだが、煙で燻り出す作戦だ。
すると巣穴からひょっこり角の生えた兎が現れた。
角の生えている兎、どうやらコイツがホーンラビットで間違いなさそうだ。
続けて二匹、合計三匹の兎が巣穴から出てきた。
目をぱちくりしながらこちらを見ている。
思ったより大きい、40cmか50cmくらいはある。
つぶらな瞳、モフモフしていそうな体毛、そして頭部に生えている角。偶然見つけてたら思わず撫で回してしまいたくなりそうだ。
しかしこれは討伐依頼。
そしておあつらえ向きに丁度三匹。
俺は剣を構えながら兎達ににじり寄る。
多少良心は痛むが、俺は勢いをつけて目の前の兎に剣を振り下ろす!これでまず一匹!!
「…………………………あ?」
剣が振り下ろされ、兎を捉えたと思った瞬間。
俺の口から随分間抜けな声が漏れた。
急に腕から剣が消えたぞ。あれ?
乾いた音が響き渡り、音の先を見ると剣が地面にあった。
何故今の今まで握っていた剣が地面に落ちている?
え、あれ
剣の隣に転がっているのは
見慣れた筈の
俺の腕?
驚愕に引きつる俺の表情とは対照的に、兎達は変わらない表情で俺を見つめていた。