第五話 エレボスの町
エレボスの町は言うならば中世ファンタジーのような感じだった。
石造りの建造物が多くあり、俺がよく知る都会の街並みとはかけ離れていた。
だが悪くないな。
馬車でしばらく町中を進み、他の家とは違う少し立派な屋敷の前で馬車が停止した。
「ごめんねサトウさん!私達これから少しやる事があって、ちょっとだけ別行動になっても大丈夫ですか?」
ミーアの言葉に俺は頷く。知らない土地で一人になるのは多少不安だが、彼女らにもなにか用事があるのだろう。
それにこの町を見て回りたいと思っていたしちょうどいいかもしれない。
「案内出来なくてごめんなさい!まだ色々話したいこともあるから、夕方頃に冒険者ギルドで待ち合わせしましょう!あ、まずは騎士の詰所に向かって!話を通せば色々助けて貰えるから!」
ミーアの提案に賛同し、2人と一度別れた。
詰所か、役場のような場所だろう。成り行き上金銭の類いも持っていないしまずはそこに向かおう。
通りすがりの人達に詰所の場所を教えてもらい、足を踏み入れた。のだが
「うーん…」
数十分後、詰所で対応してもらった内容はあまり良いとはいえないものだった。
「流れ者」である俺のような人間は偶に現れるが、決まって援助は一律。金貨一枚と最低限の水や食料、そして働く場所の紹介という生活保護者も真っ青の内容だ。
仕事の内容はというと、基本的には誰でも出来るような肉体労働が主だった。
しかしあまりにも賃金が安い。貨幣価値についても説明を受けた。
日本円にして
金貨一枚が約10000円
銀貨なら1000円
銅貨なら100円
黄銅貨なら10円
という価値らしい。この内容で一番実入りの良い仕事は銀貨3枚だった、つまり1日の日当は約3000円だ。さらに話によると宿屋の相場は銀貨2枚。食費や雑費を差し引いたらとても生きてはいけない金額だ。ここの住人はどうやって生計を建てているのか疑問に思う。
「流れ者」はかなりいるらしいしこれでも最大限の援助なのだろう。
ともあれ援助金の金貨一枚は貰ったので数日はなんとかなる。まぁこのあとミーア達と合流する予定だし、今後についても相談してみよう。
確か夕方に冒険者ギルドで待ち合わせって話だったな。
スマホで時間を確認する。まだ少し早いが冒険者ギルドに向かおう。遅く着くよりはいい。
もう一度通りすがりの人達にギルドの場所を聞きながら歩き出す。
そういえば昨日から冒険者って単語を沢山聞くがなんなんだろう。いや、最低限の知識はある。やはりあのゴブリンのような怪物と戦ったりする職業なんだろう。ゲームや漫画でよくあるやつだ。俺でもなれるのだろうか、昨日はなんとか奴らに勝てたがあんなものマグレに過ぎない。
剣とか持って戦える気はしないし。おつかいの仕事とかなら出来そうな気はする!そんなもんないか…
アレやコレや考えているうちに冒険者ギルドに到着した。
他の建物に比べるとかなり大きい。恐る恐る入る。
中はかなり賑わっていた。一階部分は受付が3つに掲示板のようなボード、複数のテーブル席。2階も同じようなテーブル席が複数ある。
そして様々な人で溢れている。これみんな冒険者なのだろうか。
ミーアやガイルと同じような格好の者や、頭に耳が生えている…耳!?
あれは犬か?犬なのか!?
うぉぉぉトカゲみたいなのもいるぞ!!
耳が長い美人さんもいる!!
すげぇとこに来てしまった。
いかん、あんまり興奮すると田舎者だと思われるかもしれない。実際に田舎者なんだが。
ちょっとギルド内を見て回ることにする。
受付の一つは依頼の受諾って感じのやり取りをしている。
残りの2つは雑貨屋みたいな感じの印象だ。
色んな物が置かれているのに目が行く。
掲示板も確認してみる。依頼書…なるほど、ここで受けたい依頼を選んで受注するってところか。
テーブル席には何人かの冒険者達が、話をしたり食事をしたりしている。食堂や会議の場も兼ねてるわけだ。
一通り見て回ったが、なかなか面白い。
とりあえず他の冒険者の邪魔になりそうなので端のテーブル席に座ることにする。
ミーア達が来るまでまだ少しありそうだな。
せっかくなのでなにか腹に入れておくか。考えてみれば昨夜から干し肉と水しか口にしていない、自覚したら急に腹が減ってきた。
メニューがない。近くにいた給仕らしき人物に声をかけ、おすすめを頼んでみる。前払い式らしいので金貨を渡す。しばらくすると料理が運ばれてきた。
肉だ。肉塊がきた。
豆が入っているスープとパンも付いてる。
だいぶガッツリ系だな。外国料理みたいだ。
やっぱり冒険者って仕事だとみんなこういう料理が好みなんだろうか。
ともあれ食べてみる。お、なかなかイける。
空腹だったのもあってあっという間に完食。食に関しては期待できるかもな。
食後、冒険者を眺めながら2人を待っていたのだがなかなか2人は現れない。
うーむ。夕方頃って確かに言ってた筈なんだけど。
用事が長引いているのか。それとも忘れられているのか。
そのまましばらく待ってみるがやはり2人は現れない。
完全に日が落ちてしまっている。
約束の時間は過ぎてしまっているし、経験上こういう時はもう来ないと思っている。仕方ない。
これ以上待ちつづけてもしょうがないと思い、ギルドを後にすることにした。
忘れてしまっているのならそれでもいいさ。
仮に反故にされたとしても、あまり気にはならない。
彼女達がいなければここまで来れなかっただろうし、そのおかげもあって今日1日で色々知ることができた。
そもそも借りがあるのは俺の方だしな。
また明日にでも来てみよう。
俺はギルドを出て、近くの宿屋に入る。
料金は銀貨2枚だった。
食事は銅貨3枚だったので、残りは銀貨7枚と銅貨7枚。
手持ちは乏しくなってしまったがまた明日考えよう。
右手もまだ痛むし、明日は医者か薬も探さなきゃな。
今日は馬車移動と町を歩き回ったせいで疲れた。
もう寝てしまおう。
久しぶりの安眠ができる……
不安もあったが疲れ切っていた俺はそのまま眠りについた。