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第四話 ミーアとガイル

身体がだるい、、なにかに揺られているような感覚だ。

耳元ではギシギシと何か木の軋むような音もする。

同時に下からはゴトゴトとくぐもった音も聞こえる…

おいおい何だってんだ…寝ている子を起こすなよ…

あれ…?俺どうしたんだっけ…確か…野営の最中に寝ちまって、それでゴブリンに襲われて…変な巻物を読んでいる最中にすげぇだるくなって、それから…

駄目だ、思い出せない。とりあえず今どうなっている?

体を動かそうにも何故か動かすことができない。なんとか首だけ回して周囲の状況を確認する。

どうやら俺は馬車のような乗り物に乗っているようだ。

仰向けで寝かされ、下には柔らかいクッションのような布が敷いてある。馬車の後ろ側に乗せられているようで、前方からは人の気配もする。

気配のする方へ声をかけようとした瞬間、右手が猛烈な痛みに襲われた。

痛む方を見てみると、右手首から先に包帯のようなものが巻かれている。気づかなかった、おそらくゴブリンを盾にした際、爆散した火球で負った傷だろう。

あの時は必死だったから気づかなかったのだ。クソッ、自覚したら痛みが増してきた気がする。思わず呻き声をあげてしまう。


「よかった!目が覚めましたか?」

前方から誰かの声がする、女性の声だ。体を動かせない為少々不格好だが首を傾けて声の主の方を見る。上半身に金属の鎧らしきものを身につけ、腰には剣を提げている。

どうみても一般人には見えないが、騎士という感じではない。俺が体を動かせないのを察しているのか、顔を覗き込むようにこちらを見ている。…なんか恥ずかしいなコレ


「どうも…」

一応挨拶する。とりあえず悪い人ではなさそうだ。


「お身体の具合はどうですか?ゴブリンの死骸に囲まれて倒れていたんですもん!ビックリしましたよ!あ、私はミーアと申します!勝手ですみませんが、酷い火傷だったので簡単な応急処置をさせていただきました。」


彼女の名前はミーア。話によると、俺はどうやらゴブリン達を倒した後そのまま気を失ってしまっていたらしい。その後たまたま馬車で通りかかった彼女達が俺を見つけて保護した、とのこと。

初めはゴブリン連中に混じって人間が倒れており大層驚いたらしい。現場の状況と俺の身体検査をしたところ、奴らに寝込みを襲われた一般人…という形で納得し自分達の馬車に乗せ手当してくれたらしい。礼を言わなきゃな。


「こんな見ず知らずの俺を助けてくれてありがとう。アンタ達は命の恩人だよ」

助けて貰ったのなら礼は大事だ。この人達が通りかからなければ別のゴブリンに襲われていたかもしれないしな。


「当然です!困っている人を助けてこその冒険者ですから!」

あたりまえだと言うようにミーアが胸を張って答えた。

立派な女の子じゃないか。見たところまだ15.16歳あたりにしか見えないが… ん?今冒険者って言ったか?


「ところで、お聞きしたいんですけど…貴方お名前は?」


っと、そういえばまだ名前も言っていなかったな。

「ああ、名乗りもせずにすまない。俺は佐藤裕二だ。」


「サトウユウジ?変わったお名前ですね!改めて私はミーアと申します!あっちにいるのがガイルといいます」

ミーアが指さした先には馬の手綱を引いているガタイのいい男がいた。その男にも名乗っておく。


「自己紹介が遅れてすまない、俺は佐藤裕二だ。アンタも助けてくれてありがとう。礼を言うよ。」


ガイルと呼ばれた男はこちらを一瞥し、軽く会釈をした。

あれ、なんか随分対応が違うな。嫌われてるのか?

俺とガイルのやり取りを見ていたミーアが口を挟む


「あーごめんなさい。ガイルって人見知りで。あんまり上手く人と話せないんです。でも根はいい人だから心配しないで大丈夫ですよ!」


なるほど、一種のコミュ障ってやつか。まぁ助けて貰って態度一つで気を悪くするほど俺も子供じゃない。

世の中には色んな性格のやつがいるさ。


「それでサトウさんはどうしてあんなところに?見たところ冒険者じゃなさそうだし、護衛も装備もなしに野営は危険すぎますよ。」


ミーアから問いかけられた。

俺はこれ迄の経緯を2人に説明する。

いきなり草原で目覚めたこと。

ゴブリンとの死闘。

先程の火球を放つゴブリンについても話した。


「なるほど、多分サトウさんは〈流れ者〉ですね」


「〈流れ者〉?」


「そう、時折世界各地に現れる身元がわからない人達のことをそう呼ぶんです。彼らは記憶や基本的な生活能力はあるんですが…、共通してこの世界についての常識が何も無いんです。そのような人達のことを〈流れ者〉と呼んでいます。それとゴブリンの放った「火球」についてですが…おそらく『魔術の巻物』を使用したんだと思います。巻物に関してはちょっと複雑なので私も詳細なことはわからないんですが…簡単に説明すると、使用すると魔法を覚えられるアイテムってところです!」


なるほどね、流れ者に魔術の巻物か。

待て。『この世界』?常識?


「すまない。変な事を聞くんだが、ここはどこなんだ?国の名前は?日本じゃないのか?」


「ニホン?へんな言葉ですね。違いますよ、ここはアレクト王国。エレボスの町近くの大草原です。」


俺はまるで聞き覚えのない地名に驚愕した。

アレクト王国?エレボス?どちらも聞いたことがない。やはりここは俺の知っている世界じゃないのか。

俺はいったいどこに来てしまったのだろうか…

不安でたまらなくなる、家に帰りたい。こんな訳のわからない場所で生きていける自信はない。俯き項垂れる。


「大丈夫ですよ、サトウさん!今向かっているエレボスの町には仕事が沢山あります!サトウさんのような流れ者の方もかつて沢山いました!私たちも手伝いますから安心してください!」


俺の心情を察したのかミーアが明るく打開策を提案してくれる。優しい娘だ、人を助け気遣いまでできる。

ガイルもミーア曰くコミュ障なだけで優しい人らしいし。

そもそもあの草原でいつまでも彷徨っていただけの俺には、この状況下で生きていくことを考える以外にグダグダ悩んでいる選択肢なんてないのだ。

むしろこの2人に出会えた幸運に感謝しなければ。

2人にこのまま着いていっても構わないか尋ねると、快く了承してくれた。本当にいい人達だ、いつか礼をしなければならないな。


ミーアの話ではエレボスの町には正午頃には到着するらしい。話に夢中になっていたせいで気づかなかったが、もう太陽がかなり高く昇っている。俺が昨日野営を始め、ゴブリンの襲撃にあったのが夜の入り頃だったから…ミーアとガイルに救出されてから半日近くは経っていることになる。

馬車で半日とは…一人で歩いていたら少なくともエレボスの町まであと3日はかかっていただろう。


身体もなんとか動かせるようになった。右手はまだ辛いが。仕方ない、町に入ったら医者を探そう。

そんなことを考えていると、前方に何か見えてきた。

あれがエレボスの町か!なかなか雰囲気があるな。

大きすぎる訳では無いが、村という感じの大きさでもない。なるほど、町って感じの規模だ。

町にしては立派な城門だ。守衛らしき人物も立っているぞ。ちょっとワクワクしてきた、人間どんなものだろうが初めて見る物には心躍るもんだ。そんなことを考えていると城門前で馬車が停止した。

ガイルが馬車から降りて守衛と何かやり取りしているな。

なにか守衛が俺の方をチラチラ見ているような気がするが…おそらく経緯説明等をしてくれているのだろう。

お、戻ってきた。上手く話を通してくれたのだろう。


「よーし!じゃあ行きましょう!」

ミーアの掛け声と同時に城門が開いていく。

ガイルが馬車を走らせ俺たちは町へ進んでいく。

楽しみだ。期待に胸を膨らませながら俺はエレボスの町へと踏み込んでいった。

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