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第三話 襲撃

青々とした草原をひたすらに歩いていると、やっと人道を見つけた。よかった、とりあえず人の通り路ではあったようだ。草木を掻き分け、日が落ちかけてきた道を人道へ向けて進む。

ふむ。この道、舗装や整備はされていないが、最低限歩けるだけの機能は維持している。

でも快適・安全に、車が走行でき人が歩けるような道路じゃないな。人に踏みならされた道といったところか。清掃、草刈り、防護柵や照明、標識などといった安全施設の補修もされていない。公道じゃない、ってことは本当に僻地の可能性があるな…。

人の管理が行き届いていない現状に少々肩を落とした。

それはつまり、近隣に人間がいないことを示すからだ。

となると、今日はここらで野宿するしかなさそうだ。

夜に動き回るのは危険だ。俺は野営の準備を始める。


「と言ってもテントや寝袋なんかないしな…」

アイテムボックスから火の秘薬と木材を取り出す。木材を放り、砕いた秘薬を入れ焚き火を作る。初めて使うが中々便利だ、数に限りがあるから大事に使わないと。

水筒と干し肉も取り出し夕食にする。干し肉を焚き火で軽く炙って食べてみる。おお、なかなかいける。何の肉かはわからないが美味い。ゴブリンの持っていた肉だったから多少の抵抗はあるが仕方ない、貴重な食料だ。

簡単な夕食を終え改めて辺りを見回してみるが、やはり一面の草原だ。明日は人や町に出会えるといいが…

先の不安に少し溜息が漏れる。

俺はこの先どうなるのだろうか。色々考えているうちに瞼が重くなってきた。

眠ってしまいたいが昼間の件もある。流石に危険だ。

今夜は徹夜の覚悟を決めて、ぼんやりと焚き火を眺めた。


……。

あれ…意識が飛んでいたのか。疲れからか軽く眠ってしまっていたようだ。いけない、少し身体でも動かして目を覚まさないと。俺は立ち上がり体操でもと立ち上がる。

次の瞬間、風きり音と共に頭部の上を何かが掠めていった。咄嗟の事に驚きしゃがみこむ。

「なんだ!?」

火だ。前方を確認すると、焚き火とは別の小さい火の玉のようなものがあった。なんでこんなものが。

呆然としていると周囲から聞き覚えのある声が聞こえてくる。まさか…


段々暗闇に目が慣れてくる。ゴブリンだ。

間違いない。昼間に対峙した奴とそっくりだ。

緑色の体表、子供程の身長に薄気味悪い笑い声の怪物。

そこかしこから声が聞こえてくる。おそらく何匹もいる。

焚き火の明かりに誘われたのか、それとも昼間の奴の仲間なのか。だとしたら早くこの場から逃げなければ、一匹でもあんなに脅威だったゴブリン複数に囲まれている。今すぐにでもここから逃げなければ結果は火を見るより明らかだ。俺はもうあんな目に遭うのはごめんだ。

脱兎のごとく駆け出そうとした瞬間、またしても火の玉のようなものが飛んできた。すんでのところで躱す。

まただ、奴らが松明を投げているとかじゃない。

ゲームによくあるような火の玉だ。なんなんだコレは。

周囲をよく見ると一匹のゴブリンの手に先程から飛んできている火の玉が乗っている、というか手の上に浮いている?

まるで魔法だ。

名付けるなら『火球』〈ファイヤーボール〉

ってとこか。なんであんな芸当ができるのかは知らないがあいつは危険だ。アレに当たったら火傷じゃすまないだろう。思わず火球持ちのゴブリンから後ずさりをする。

これが不味かった。

次の瞬間、後ろから飛びかかってきた一匹のゴブリンに羽交い締めにされたのだ。まるで火球持ちのゴブリンを援護するかのように。油断した!

「クソッ!離せこの野郎!!」

咄嗟に腰の短剣を引き抜き、多少無理な体制からゴブリンの腕を切りつける。流石に力負けはしない!

切りつけられたゴブリンは金切り声を上げながら地面に崩れ落ちる。無様な光景に思わずほくそ笑んでいると、火球持ちがこちらを指さしながらなにやら叫んでいる。

同時にまた火球を放ってきた。だが、今なら!

すかさず倒れているゴブリンの首根っこを掴み、盾のように前方に構える。狙い通り、火球は盾にしたゴブリンへと着弾したが、同時に予想だにしない爆散をした。

「アチッ! うわぁッッ!!」

予想外の威力にゴブリンもろとも身体が吹き飛ばされる。

クソッッ!!なんだこの威力、洒落にならないぞ。

盾にしたゴブリンからは肉の焼ける嫌な匂いがする。

何が可笑しいのか火球持ちと周りの奴らも笑っている。

こいつら…!!

先程までの逃げる意思は消え失せ、怒りが湧いてきた。

何故俺がこんな目にあわなきゃならない。ゴブリンを盾にした俺が言えた義理では無いが、仲間が死んで笑っているのも気に食わない。なんなんだこいつらは。自分の現状と常軌を逸した奴らの態度に俺は我慢出来なくなってきた。

そっちがその気なら戦ってやる。

一瞬短剣で突っ込もうと思ったが、ふと思い出しアイテムボックスからある物を取り出す。

竹だ。2メートル程もある竹を取り出し構える。

確かにあの火球は厄介極まりない、だが!

俺はまるで長槍のように竹を構え、未だ馬鹿笑いをしている火球持ちのゴブリンの頭部目掛けて振り下ろす。奴は白目を向いて崩れ落ちた。これで最大の脅威は消えた。

リーチを活かして周囲のゴブリン共もそのままなぎ払う。

昼間のように棍棒を持っている者や、手斧のような武器を持っているゴブリンもいたが、投擲などさせる間を与えず次々打ちのめした。

間合いは武器だ。幾ら素人でも、竹刀と包丁のようなリーチ差なら負けようがない!火球を撃ち込まれてアドレナリンが出ていた所為だろう。身の丈よりも長い武器を振り回し続け、比較的アッサリとゴブリン共を倒す事ができた。


総勢5匹程のゴブリンを片付けた俺は、息も絶え絶えにその場にへたり込む。「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

なんて日だ、1日で2度もこんなことするなんて。

改めてこの場所の異常さに愕然とするが、なんとか勝った。まだ生きてる。予想外の事態に驚きはしたが、生きていれば勝ちだ。命あっての物種だ。

しかし何だったんだあの魔法みたいな火の玉は。〈ファイヤーボール〉とか呼んでしまったがゴブリンってあんなことができる生物だったのか?

考え込んでいると、まさに今火球を放ったゴブリンがうめき声を出しながら起き上がろうとしていた。マズイ。

奴らは竹で打ちのめしただけで殺した訳じゃない。

すぐさま腰の短剣を引き抜きゴブリンに肉薄し、首を切りつける。奴は首を抑えながら再び倒れる、安心するのは早かった。気は進まないが、残りの4匹も同じように始末した。

残酷だが、このまま放置したら後でまた背後から襲われるだろう。リスクは排除しておかなければならない。

全員息絶えたのを確認し、昼間同様奴らの死体を漁る。

まるで追い剥ぎだな、俺は。

ゴブリン共から奪い取った…もとい戦利品は大体昼間のやつと同じものだった。


短剣。棍棒。手斧。薬草。秘薬。干し肉。


それと火球持ちのゴブリンは不思議な巻物を持っていた。

古びた和紙のようなくたびれた紙に沢山文字が書いてある。火魔法…と書いてあるのか?読める文と読めない文があってわからない。手に取りしばらくアレやコレやと考えていると、急に気だるい感覚に襲われた。

なんだ…?体にうまく力が入らない…。

だるさで頭を抱えていると、あの見慣れたウィンドウ画面が視界に表示された。


【スキル『火魔法』を習得しました】

相変わらずの無機質な声が響く。火魔法…?習得…?

だるさで頭が上手く回らない。次の瞬間、手に持っていた巻物が粒子のように消滅していった。

マズイ…意識が保てない…

俺の意識は急速に薄れていき、そのまま目の前が真っ暗になっていった。

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