第二十九話 vs???
あまりにもデカイ。
パッと見ても長身はゆうに10mはあり、両腕も長く太い筋肉で覆われている。
極めつけに体の至る所に蛇が生えていて気持ち悪い。
下半身に至っては完全に蛇の尾となっており、長さも尻尾の方が長い。その先端は鋭利な槍のように尖っている。
あの体格と形態。そしてこの威圧感……明らかに通常の魔物じゃない。
コイツはいったい……?
《主様っ!!お早く!!》
エレアが今迄にない叫び声をあげる。
彼女の目にもどうやらかなりの異常事態に映っているようだ。
「エレアッ!逃げるぞ!!」
彼女に声をかけた瞬間ーーーー
「グォォオオオオッッッ!!!」
突然目の前の怪物が咆哮をあげた。
鼓膜が破れそうなほどの大音量に思わず耳を塞ぐがそれでも脳天に響いてくる。
激しい耳鳴りに襲われながらも咄嗟に怪物から距離を取ろうと試みる。
「クソッ!何なんだあいつは!?」
あんな怪物ゲームの中でさえ見た記憶がない。RPGのボスキャラと言われたら信じてしまうような姿形をしている。
あんなのがもし現実で存在するなら……そんなイメージを形にしたような魔物だ。
というより神話や伝説に出てくる怪物といった方がしっくりくる。少なくともこんな草原で出くわすような相手ではないはずだ。
横目でエレアの方を見ると、俺の横で身を縮めていた。
しかも全身をガタガタと震わせており恐怖で足を竦わせている。
確かに俺が今まで遭遇した魔物の中では圧倒的な絶望感を感じるが、彼女の怯え方はそれ以上に尋常の物じゃない。
エレアとは特殊な出会い方をしている。
まだ素性や行動が明確出ない部分も多いが、何かしらの特別な才を持っていると俺は考えている。
……その彼女がここまで怯えているという状況は素人の俺でもかなりの危険な事態だと予測できた。
「エレア!俺に捕まれ!」
ーーなら今俺が取るべき行動は1つだ。
俺はエレアに呼びかけつつ片腕で彼女を抱き寄せ背に背負った。
そのまま全力疾走で奴から離れる。幸い先程の咆哮以来動きを見せていない。今のうちに少しでも遠くへ離れなければ。
走りながら後ろを振り向くとーーーー
「嘘だろッ!?」
怪物は四足歩行の状態でこちらに突進してきていた。その速さは尋常ではない。
ヘビの尻尾と人間の腕を上手く利用し、地面を叩いて推進力を得ているようだ。
おぞましい動きだ。人間や四足獣のソレとは違い、その様は洋画に出てくる奇形の怪物が獲物を追いかける光景のようで生理的な嫌悪感すら覚える。
「ちくしょうっっ!!」
以前とは違いレベルも上がって遥かに強くなった自覚はあるが、人1人背負っていることと後ろに迫っている怪物が異次元の存在であることの焦りからも相まってどうにも速度が出ない。
《主様……》
エレアの震える声を背中越しに感じる。
不安と恐怖、そしておそらくは自身の不甲斐なさにだろう……涙を浮かべているの彼女の顔が容易に想像できた。
……。
背中で不安げに小さく丸まっている彼女の姿を想像した刹那。
……心が燃え上がるような熱さを感じた。
自身の胸の内に黒い感情が渦巻くような感覚に陥る。
この感情は怒りか……?
いいや違う……
あの怪物に対する憎悪だ
あの怪物が許せない
大切なものを傷つけたコイツが許せない
エレアを怖がらせたコイツが許せない
コイツを殺してやりたい
そんな思考が溢れかえってくる。
……何故だろうか。
魔物に対してこんな感情今まで抱いたことなかったのに。
他人に対してこんなにも激しい憎しみを抱いたこともない。
それに初めての感覚じゃない
俺はこの感情を知っている
そうだ、この感覚を知っている
懐かしさすら感じるこの思い
何故忘れていたんだ?
理由なんてどうでも良い。この感情が湧き上がってくるのに時間もいらない。
今はただコイツを殺したいという思いだけが頭の中を支配していた。
……憎い
…………憎い
………………憎い
……………………憎いッッッッッッ!!!!
怒気で脳内が埋め尽くされ、気づくと奴に向かって走り出していた。
思考も行動も全てが単純化されてゆく。
憎しみが憎悪を呼び起こす。
瞬間ーーー
俺ーーー佐藤裕二の意識は闇へと落ちて行った。




