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第二十五話 仲間

目を開けるとそこは外だった。広い草原と遠くに見える大きな山々、どうやらあの場所から無事に脱出できたらしい。


《無事脱出できたようですね》


声のする方を見るとそこには少女の姿があった。良かった……どうやら本当に脱出できたようだ。俺は腕の中の少女を解放した。


《申し訳ありませんでした主様》


彼女はまず謝罪から入った。まあいきなりあんな事要求されたらそりゃね。


脱出の意見を聞いた時、即答で“お任せください”なんて言われたから素直に従ってみたらまさかの抱擁。だが俺はその解決方法が知りたくて彼女を抱いたのだ。決してやましい気持ちなどはないと……ない筈だ。うん、無い。


《主様がとても良い香りだったのでつい……》


前言撤回。やっぱりこの娘危ないかもしれない。

別の意味で。


《お手を握って頂くだけでもよかったのですが…》


うん。


《つい》


ついじゃねぇよ。

やっぱり置いていこうかな。

俺の態度を感じとったのか少女は慌てて言う。


《で、ですが脱出はできました。どうかお許し下さい》


まあ確かに脱出はできた。この娘のおかげで命拾いしたのも事実だ。それは認めよう。


「わかったよ。ありがとう」



《あ、ありがとうございます!》


俺が認めると彼女は笑顔で礼を言った。

この笑顔に免じてさっきの事は許してやろうと思う。まあ、今はそれはいい。

それとは別に思っていたのだが、あの娘とか、少女、とか

ではいつまで経っても他人行儀のままだし呼びにくい。


「すごく今更なんだけど名前はなんていうんだ?」


《私は貴方の盾で矛です。主様の忠実なる従僕でございます》


よし、今のは聞かなかったことにしよう。

俺の質問の仕方が悪かったな。


「わかった。君に名前があるのかだけ教えてくれ」


《私にそのような物はございません》


名前はないのか…。名前はあったほうがいいよな…

名前、名前ねぇ……。

こういう時はどうしたらいいんだっけ、俺がつけても構わないのだろうか。


「呼び名がないと不便だし、君の名前を考えようと思うんだけどどうかな」


《私に名前をつけてくださるのですか!?》


うわ、びっくりした。てゆうか近い、近いよ。

何その食いつき方。でもすごく嬉しそうだ。そんなに名前って嬉しいものなのかな。

しかし名前をつけるにしてもどんな名前がいいかな……

名前…名前…

こういうの苦手なんだよな。ゲームでも基本適当だし。

エレボスの町…アレクト王国…


︎︎ ︎︎ ︎︎"︎︎エレア︎︎”


なんてどうだろう。なんだか神秘的でいいじゃないか。

俺はこの少女にというエレアという名前をつけることにした。


《エレア…それが私の名前…ありがとうございます主様!》


うん、喜んでくれているようで何よりだ。

さて、名前を付けたところで今後のことだ。

まずはエレアの格好。

今まで気にする余裕がなかったが…


《主様?どうなさいました?》


俺が考えているとエレアが心配そうに声をかけてきた。そうだ、彼女に聞けば何かわかるかもしれない。

俺は思い切って彼女に聞いてみる事にした。


「なぁ、その服は…」


《私の服が気になりますでしょうか?》


「気になるというか…」


《やはり主様も年頃の男性。私の胸に興味がおありなのですか?》


《さては私の胸を揉んでみたいのですね?》


いや、確かにそうなんだけどね、そうじゃなくて。

話がおかしな方向にいきそうだったので俺は慌てて否定する。


「いやそうじゃなくて。服はそれしかないのか?」


エレアが今身に付けている衣服…衣服というか布のようなもの。わかりやすく言うならお下がりのダボダボパーカーを一枚身に付けているような感じ。これから一緒に行動するならそんな格好でいられては困る。俺の世間体にも関わるし、あと色々…な。


《……これしかございませんが何か問題が?》


まぁそうだよな。特殊な経緯で出会ったので俺みたいにアイテムボックスやら衣服創造とかのスキルを持っていると思ったがそういう事は別か。


《私は主様の盾であり矛です。主様にお仕えするにあたって服装などなんでも構いません》


やたら忠誠心が高いのはまあ嬉しくはあるが…俺としてはもっとこう……外見にも気を遣ってほしいわけで。


「エレアがよくても俺が困る…ちょっと待ってろ」


俺はアイテムボックスから自分の服と靴を取り出す。

少し前まではこの世界に来た時の服をずっと着ていたのだが、流石に衣服が一着では心もとなかったので魔法訓練期間中に数着購入しておいたのだ。今俺が来ているのは町で買ったモノ。買った物でもいいんだが、ペアルックみたいで俺が嫌だ。渡すのは俺のお古だが……まあ構わないだろう。


「ほら。この服に着替えろ。俺が着ていた衣服だが…」


《そんな!主様の衣服を私が着るなど恐れ多い……》


何が恐れ多いだ。さっきまでの行動の方が恐れ多いわ。

俺はエレアに服を押し付けるが彼女はなかなか受け取ってくれない。


《ですが……》


いや、ですがじゃないんだよ。俺は半ば強引に彼女に服を握らせた。


《わかりました……主様のご厚意、ありがたく頂戴致します》


よし。これでひとまずは大丈夫だろう。


《それでは着替えて参りますので少々お待ちください》


そう言うとエレアはその場で服を脱ぎ始める。

ここで着替えないでくれ…別のところでやってくれよ。


俺は慌てて後ろを向く。背後から衣擦れの生々しい音が聞こえる。全く心臓に悪い。


《終わりました》


俺が振り返るとそこには先程までのダボダボパーカーもどきではなく、俺の服を着たエレアがいた。サイズはかなり大きいが布一枚よりかはましだろう。


《どうでしょうか?》


いや、どうだろうかと聞かれても……


「まぁ、似合ってるぞ」


適当に褒めておく。


《ありがとうございます!主様にお褒め頂けるとは光栄です》


エレアが着ていた布は俺のアイテムボックスに収納しておく。一応な。

これでようやく本題に入れるな。まずは現在地についてだが…


「エレア。ここはどこなんだ?」


あの空間から脱出できたのはいい。問題はエレアが使った《転移》で今何処にいるのかということ。見たところこの草原はエレボスの町近くで俺が様々な体験と経験を積んだ大草原に似ている。であるならば比較的直ぐに町には帰れる。そう思ったのだが…


《申し訳ございません。現在地は私にもわからないのです。転移は私に備わっていた一度きりの使い捨て魔法のようでして、転移先の指定はできないようになっていたのです…おそらくは主様を救い出す為に私に与えられた制限付きの魔法と思われます…》


「つまり《転移》はもう使えないってことか」


《はい…》


そうか、なら仕方ないな。


《申し訳ございません……》


エレアはまたも申し訳なさそうに言う。

まあ仕方がない。それよりも今後どうするかだ。


考えているとエレアが俺に提案する。


《まずはこの辺りを少し探索してみてはいかがでしょう?もしかしたら周辺に町や人里があるかもしれません》


まあそれしか無いよな。エレアのお陰で俺は助かったわけだし、彼女には感謝している。

とりあえず周囲を探索してみよう。俺はエレアと共に周辺の地理を調べることにした。


《この辺りは見晴らしがいいので遠くまでよく見えますね》


確かにそうだな。草原の先には山々が見える。そして少し遠くに洞窟のようなものがあるな……

エレアも俺の目線の先に気づいたのか


《主様。あちらに洞窟のようなモノがございます!行ってみましょう》


まるで子供のように俺の手を引く。


《行きましょう主様!》


「わかったわかった。そんなに引っ張るな」


忙しない奴だな全く。

俺はエレアに手を引かれながら歩み出す。

この世界に来てからずっとひとりぼっちだった俺に初めての『仲間』が出来た。

彼女のことについてはまだわからないことだらけだが、案外上手くやっていけそうな気がする。


よろしく頼むよ。エレア

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