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第十三話 失踪事件

魔法訓練の日から3日。

俺はあの日から毎日訓練を続けていた。今までのように調子に乗って、魔物に挑み痛い目をみる。

そんな流れはもう御免だ。

今日までの間にそれは痛いほど体で実感している。

ならば立ち止まり力をつけてから行動する。

そう思い、数日は魔法の訓練に費やすことにしたのだ。


ギルドで簡単な採取依頼を受け、東の大樹で1日訓練をして採取後町へ帰る。

最近はこんな感じの毎日を送っていた。

これなら最低限の日銭も稼げる。

連日の訓練おかげで今使える魔法はかなり上手く扱えるようになっていた。

まだ他の冒険者の魔法は見たことがないが、魔法というのは基本的に身体を動かすのと同じ感覚だ。

慣れるまでは難しいが、意識一つでどんなことにも応用できる。

この3日間でだいぶ自信もついてきたし、今ならあのキングホーンラビットにも苦戦せずに勝てるかもしれない。

と、今までの俺なら考えただろうが。

俺は魔物を倒して威張りたいわけでも自慢したいわけでもないのだ。

死なない為の力が欲しい、それだけだ。

元の世界に帰るまで。


宿屋を出た俺はいつものようにギルドに顔を出し、簡単な採取依頼を探しに来ていた。

今日は魔力草の採取依頼があるといいけどな。

あれは割がいい、採取が難しい依頼らしく報酬は金貨1枚だ。俺には鑑定があるからな、簡単な依頼だ。


掲示板を物色していると、ギルドのあちこちから冒険者達の声が聞こえてくる。やれ魔物を沢山狩ったとか、王国首都近くに竜が出たとか、自慢話や雑談の数々。

真面目に聞く気にはなれないが、聞き耳を立てる程度には耳を傾ける。こういう情報も大事だからな。

何時もは大した話はないが、今日は気になる会話が聴こえてきた。


「おい、聞いたか?連日の失踪事件の話」


「聞いたよ。急に人が消えちまうってアレだろ」


「ああ、ここ数日は特に多いらしい。町から出た形跡もないのに痕跡も残さずいなくなっちまうってな…」



物騒な話だ。この町には人攫いでもいるのだろうか。

だとしたら俺も他人事ではないけどな。



「消えるところを見たって奴の話だとよ、なんでも闇に呑み込まれたんだとかって話だ」


「闇?子供じゃあるめぇし、人間が闇に消えるってなんだよ」


「まぁ大方、錯乱した何処ぞの馬鹿な奴の戯言だろうが」


そこまで聴いて俺は掲示板に向き直る。

闇か、まぁありえない話じゃない。実際に俺の『闇魔法』は同じような芸当が可能だからな。

しかしおそらくは子供の家出とか、冒険に出た冒険者が帰ってこないのが曲解して伝わっているとか。

まぁそんなところだろう。

…だよな?


俺は魔力草採取の依頼を見つけ、受付に受注しに行く。

気になる話ではあったがあまり関係はない。人攫いなら今の俺なら返り討ちにできる自信があるし、後者なら……

余計な心配か、さっさと大樹に行こう。今日も訓練だ。


その後、いつものように訓練を済ませ依頼分と自分の分の採取をして町へ戻る。

今日も充実した一日だった。訓練は順調だし、空いた時間に採取もしているので、ポーションと魔力ポーションの貯えもかなりできた。両方最低100個はある。

これで簡単に死ぬようなこともないだろうしな。


ギルドに立ち寄り依頼分の納品をして金貨1枚を受け取る。日給約1万円、ほぼ草刈り職人みたいだな。

そのままギルドで食事を済ませ宿屋に帰る。

庭で水浴びをして床に就く、毎日このルーティンだ。

今日も1日よく動いたな… さっさと寝ちまおう。

たいして時間もかけないうちに俺は眠りについた。





………………………………!!!!!!!!


…うん?

真夜中。なにか妙な音が聞こえた気がして目を覚ました。

今のは悲鳴か?聞き間違いじゃなければ悲鳴のような叫び声に聞こえた。

当然部屋には誰も居ない。外で喧嘩でもしてるのか。

妙な胸騒ぎがした、俺は急いで宿屋を出る。


外に飛び出し辺りを見回してみるが静まり返っている。

町民のいざこざや喧嘩ならまだ声が聞こえる筈だ、しかも真夜中。

音や声は響く、それが聞こえないということは…

考えながら宿屋周辺を探す。

すると裏路地になにかが散らばっているのを見つけた。


これは……

剣や防具、そして道具や金が詰まった鞄が落ちていた。

明らかに落し物という感じじゃない、何者かに襲われて捨ておいた…もしくはここで人間が消えた…そんな感じだ。


前者なら、襲った人物が略奪品を捨ておく筈は無い。

後者なら…この場所で人間が消失したということになる。


昼間にギルドで聞いた話と状況が酷似している。

だが痕跡は残っている。そっくりそのまま

これはおそらくこれ幸いとばかりに盗まれているんだろうな。この世界に法は無いっぽいし、噂は真実になる。


しかしそうなると本当に人間が消えているということになってしまう。認めたくはないがおそらく間違いない。

なにかの自然現象?なわけない、だとしたら冒険者の間で話題にはならないだろう。この世界でも解明されていない事象、それか…俺のような『闇魔法』の使い手が夜な夜な人間を攫っているとか。

可能性はなくはないが、その信憑性は薄い。


何故ならこの『闇魔法』

大抵の人間は使いこなせずに終わっているという。

可能性として考えられはするが、あまりに現実味がない。


なら人攫い?だが……う〜ん……

色々考えてみたが結局結論は出ない。とりあえず散らばっている武器や道具を回収しておく。

見つけてしまった以上、このままにしておくのも嫌だし誰かに盗まれる可能性もある。


全てアイテムボックスに収納し、路地をもう少し調べてみようと奥へ踏み出した。

次の瞬間俺の体が地面に沈み出した。

「え」


底なし沼のように地面に体が沈み出した。

なんだ!?俺は『影魔法』は使っていないぞ!?

体が地面にどんどん沈んでいく、マズイ!!止まらない!

足から腰へ、どんどん沈んでいく!ヤバいヤバいヤバい!

咄嗟に影に潜ろうとするが魔法が発動できない。なんでだ!?

焦りがやがて恐怖に変わり、俺は陸上の魚みたいに激しくもがく。

「誰かぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


死ぬ。死ぬのか?

こんな町中で。こんなわけも分からない状況になって。

嫌だ。死にたくない。必死に頑張ってきたのに。努力して少しは強くなれたのに。

既に口元まで沈み、最早声もあげられない。

腕が地面を掴めない。這い上がることができない。何故。


誰か……

俺は最後まで腕を伸ばし助けを求めた。

だが誰にも気づかれることなく、やがて完全に沈んでいった。


数秒後、そこは再びなんの変哲もない地面に戻っていた。

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