第十二話 影男〈シャドウマン〉
翌朝、昨日よりも遅めの時間に起床した。
流石に疲れが残っているな。噛まれたり切られたりで血を流しすぎたせいかまだ少しだるいな。
顔を洗い、宿で朝食を摂る。
昨日は必要経費とはいえ、だいぶ散財してしまった。
金貨10枚が残り1枚だ。次も昨日のようなラッキーパンチが続くとは思えない。できる限り財布の紐はゆるめないようにしていきたい。
ならば今日も討伐依頼ーと一瞬考えたが、今日はやることがある。
そう、昨日習得した魔法の訓練だ。
先のゴブリンやホーンラビットとの戦いで分かったことがある。俺には圧倒的に手数が足りない。
今ある攻撃手段は『復讐』での肉弾戦、『火魔法』×『復讐』での爆炎…だがこちらはリスクが大きすぎる。
あとは剣や棍棒等での近接だが相手が魔法を使うことが多く、あまり向いていない。
ならばと考えたのが魔法だ。
『火魔法』ですらあれだけの威力になった。
『水魔法』や『影魔法』といった新たな魔法も覚えた。
昨日はなんとなくの訓練だったから今日はやり方を変えてやってみる。
宿屋を後にしギルドへ向かう。
そこで町の近くで受けられる適当な依頼を探す。
Eランクの薬草採取依頼。これが手頃だな。
魔法の訓練の為だけに1日過ごすのも勿体ないし、簡単な依頼はこなしておく。
【鑑定】があれば薬草などは比較的簡単に見つかる。
報酬は薬草×50で銀貨1枚、まあ最悪アイテムボックスの薬草を納品すればいい。
ギルドを後にし町の城門へ。
守衛に冒険者カードを提示し昨日同様大草原に向かう。
さてと、まずは人目に付きにくい場所へ移動だ。
世の冒険者達はどんな場所で訓練しているかは知らないが、あまり城門の近くでやっていると目立つからな。
なにより恥ずかしい。
確か昨日は南へと依頼に行ったんだったな。
なら、探索もかねて西か東へ向かおう。お?
東の方角に大きな大樹があるな、あそこでいいだろう。
大体城門から歩いて5分。遠目には分からないだろう。
よし。この場所を「東の大樹」と名付けよう。
今後はこの場所で訓練することにする。
さてさて、早速魔法訓練を始めよう。
まずは……『火魔法』からだ。
改めておさらいだが、この魔法は発火現象を起こす魔法。
昨日の移動中に既に試しているが、現状は小さい火を出現させるだけのマッチ代わりの魔法という感じだ。
だが昨日の兎狩りの後、『復讐』のレベルが上がった時に追加された新しい効果。
発動時にMPを10消費した場合、効果を更に倍にする。
という表示。
『復讐』はスキル。『火魔法』は魔法。
魔法とスキルで違いがあるのかはわからないが、俺が注目したのは「MPを消費した場合」という部分。
『復讐』で効果を倍にできるなら、MPを消費して発動する魔法でも、発動後に魔力を更に注ぎ込めば魔法の強化やある程度の操作が可能になるんじゃないかと考えたわけだ。
物は試しだ、とりあえずやってみる。
まずは『火魔法』を発動、やはり小さい。
よし、ここからだ。発動した魔法に更に魔力を込める。
と言ってもイメージだ、今までは念じたり使うと言う意識さえあれば発動していた。
魔力という概念が未だよくわからないので、発動した魔法に向けて意識を集中させて…気を送り込むようなイメージを作る。
なんか…身体が熱い感じがする?これはアレだな。
怪我した時や鼻血なんかが出た時に自分の血液の流れや熱さを感じる感覚。
血流の流れ。イメージはこれだ。
俺は血液の循環を魔力に見立てて火魔法に注ぎ込む。
すると、身体から何かが失われていく感覚とともに、火魔法が少しづつ大きくなっていく。
できた…できたぞ!そのまま魔力を注ぎ続ける。
そのまま5秒程集中して魔力を注いだ結果、小さな火は巨大な火球へと膨れ上がった。
おおおおおお!!!凄い、凄いぞ!!!!
あのゴブリンが放った火球より遥かに大きなものだ。
これを魔物に当てることができればかなりのダメージが期待できるかもしれない。
その後色々試してみたが、どうやら魔法は魔力のコントロールである程度自由に操作できるということがわかった。
火球を回転させるイメージをしたら火球が回り、更には大きくした炎を、薄く長く伸ばすイメージ。
それを眼前に形成すれば…炎の壁ができた。
名付けて『炎壁』〈フレイムウォール〉
これは凄いぞ。魔力のイメージ次第でどんな形にも変えられる。かなり応用が効く。
興奮しつつ『水魔法』も試してみる。
発動してみると宙に小さな水の塊が出現した。
こちらも何度か発動する。ふむ、なるほど。
何度か試したが、魔法は意識を向けた場所に現れるらしい。少なくとも『火魔法』と『水魔法』はそのようだ。
火と同じで、魔力を注がなければ短時間で地面に落下する。魔力を注いでいる間は維持できるな。
塊ではなく流れるイメージをしてみたら、何も無い場所から蛇口を捻ったかのように水が流れ出てきた。
触ってみると…冷た…くはない。常温水って感じだ。
魔力量を増やすと流れる水も増える。
そして一番大事な事、口をつけ飲んでみる。不味くは無い。むしろ美味いな。
おそらく俺の魔力から生成された水であるだろうから毒ではないだろう。
…生水って腹壊すんだっけ?
その後、同じやり方で球状に形成した水を巨大化させる。名付けて
『水球』〈ウォーターボール〉
さらに火魔法と同じやり方を使い
『水壁』〈ウォーターウォール〉
も作り出すことに成功した。
本当に凄い。魔法、マジでなんでもできるな。
応用すればどんな事態にも対処が可能になるだろう。
今後は欠かさず訓練することにしよう。
次に『回復魔法』だな。
この魔法は至って単純なものだった。
発動したら身体が薄く発光したのだ。すると、昨日刺されてまだ少し痛みの残る右肩の痛みがすっかり消えた。
なるほど、文字通り回復魔法だ。
もう一度、今度は手のひらに意識を集中して発動。
結果手のひらだけが薄く発光する。手が少し楽になったな。
回復だけでなく疲労軽減の効果もあるらしい。
有能だ。
…あれ、今回復魔法使ったはずなのになんか朦朧とする。
さては魔力切れか、火魔法を覚えた時と同じだ。
アイテムボックスから魔力草を幾つか取り出し食べる。
あ、またそのまま食べてしまった。調合しろよ俺。
おっと、こういう時に試したくてアレ買ったんだった。
俺は魔力回復の指輪を取り出し左手にはめる。
…うん。あんまり実感がわかないな。
これ魔力回復しているのか?一応鑑定で調べてみる。
【魔力回復の指輪】
魔力を回復させる指輪。魔力の回復量が倍になる。
魔法適正を持たない者には効果がない。
らしいが。
念の為ステータスも確認してみると、現在のMPは50。
あ、動いた。52になったな。
数十秒待つと54になった。
また数十秒、56だ。
指輪を外した状態で確認してみる。数十秒毎に1、数値が上がっている。
大体わかった。
俺の魔力は約2.30秒毎に1回復する。
指輪を装備した状態なら2づつ回復する。これは回復速度としては早いのか遅いのか。
まぁ、細かいことはいいか。
今のMP上限は確か190だったはず。なら仮に魔法を連発しても全快迄はすぐだ。
今のように短時間で何十回も使わない限りMPは大丈夫そうだ。
色々検証は必要だがいまはいいだろう。
それより一回休憩だ。
干し肉と水筒を取り出しひと休みする。
念の為水魔法で出した水に詰め替えておいた。てか干し肉も飽きたな。次依頼に行く時は日持ちしそうな食べ物も探しておこう。
休憩をとり、魔力もだいぶ回復した。
よし、いよいよ最後の『影魔法』を試してみよう。
まずは影魔法を発動!
………。
……………。
……………………。
あれ?魔法が発動しない、どうしてだ。
んー、使う意識はちゃんとあるんだけどな。
もう一度影魔法を発動!!
……。
…………。
…………………。
駄目だ。やっぱり使えない。何か条件があるのか?
影魔法ってくらいだから影が関係しているのかもしれない。
最初のイメージをもう一度試してみる。
影魔法…なら、影を動かす…伸ばすイメージか?
もう一度影魔法を発動!!!
……。
…………。
…………………。
お?
俺の影が動いている!微妙にだが動いている!
明らかに俺自身とは違う動きをしている。
よし、魔力を込めてもっと手足を動かすような感じでイメージを膨らませる。
影を自分の手足だと思って集中する。
すると、
俺の影から真っ黒な手が生えてきた。「うわぁっ!!!」
年甲斐もなく驚いてしまった。自分のイメージなのに。
おお… 自分の意識で自由に動かせる。
ちょっと気持ち悪いな。真っ黒な手だと。
試しに目の前の大樹に影の手を伸ばしてみる。
触れる、実体があるのか?影の手なのにちゃんと木に触れている感触がある。どういう原理だ?
大樹から離れて影を伸ばしてみる。めちゃくちゃ伸びる。
もっと離れてみる、どれくらい伸ばせるのか実験だ。
1.2.3.4.5……10。
およそ10メートル、目測だが影は10メートルまで伸ばすことができた。
なかなかいい魔法だ。これなら俺が危惧していた近接戦闘も、10メートル圏内だが安全にできる。実体があるなら影に剣をもたせて戦うことも可能ということ。
戦闘面において被弾する確率はかなり下がる。こいつはいい。
その後、色々試行錯誤を重ねて多数の活用法を見つけた。
まずは『影操作』
これは先程行ったように、自分の影を手足のように動かすことが出来る。発動さえしてしまえば、あとは自由に動かせるので、極端な話、座った状態で影だけ動かして魔物と戦うことが可能になった。
次に『影移動』
自分の影を別の影にくっつけることで、くっつけた影に移動することができた。早い話、対峙している相手の背後に瞬間移動ができる。いきなり影に身体が沈んで驚いた、気づいたら影の先に居たからな。
だがこれは欠点として魔力の消費が凄まじい。自分以外の影に入る影響からか、MPを確認したらなんと100も減っていた。
滅多に使えそうにない。
さらに『影潜み』
『影移動』の際に気づいた特性を利用する。
影の中に身体が沈んで気づいたが、どうやら影の中にいる間は現実の影響を受けないらしい。影の中は寒くも暑くもないし、風などの自然の影響がなかった、咄嗟に敵の目の前から姿が消せる。かなり有用だ。
だがこれも影の中に入る影響からか、潜んでいる間は魔力を消費し続ける。これも緊急事態の時以外あまり使えない。
試してみないとわからないが、人間相手に使えば相手の影に入ったまま、移動する。なんてこともできるかもしれない。機会があったらやってみようと思う。
最後に『影男』〈シャドウマン〉
これが凄かった。
手を自在に動かせるならと体や足もイメージしてみたら…
俺の体から影が切り離されて影の人間が生まれた。
言い換えるなら影の分身、影分身ってとこだ。
ただ、影であるからか全身真っ黒。少々気味が悪い。
だが『影男』の真骨頂は別にある。
そのままだと立ち尽くすだけの真っ黒な人形だが、俺が頭の中で意識して指示するとその通りに動いたのだ。
歩け、走れ、拾えなど簡単な命令は勿論。
剣を持たせて俺が投げる木片を叩き切れと命令したら俺と似たような動きで見事にやってみせた。かなり複雑な指示でも可能なようだ。
これで単純に、人出と戦闘力が2倍になった。凄い魔法だ。
引っ込めたい時は意識すれば影に戻った。
耐久力は…流石に自分の影を痛めつけるのはなんか嫌だったのでやめておいた。
だがこれも『影移動』と同じでMPが100減っていた。
多用は出来ないってことだ。
気づいたらそろそろ夕方になろうという時間だった。
だが今日1日でかなりの成果を得ることができた。
これだけ魔法が使えれば、そんじょそこらの魔物には負ける気がしない。もうあまり痛い思いをしなくてもすむかもしれない。
自然と顔が綻び笑みがこぼれる。
昨日までとは明らかに違う強さを得ることができた。この力を上手くつかってやりくりしていけば、危険な目に合わずに日本に帰れる日もそう遠くないかもしれないな。
おっと、また夜になったら魔物に出くわすかもしれない。
暗くなる前に薬草を採取して帰ろう。
俺は鑑定で薬草を摘みながら愉悦に浸るのだった。




