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第一話 転生、初めての痛み

突然だが、貴方は人生で痛みを感じなかったことがあるだろうか?否、あるわけがない。

生まれてから今日これまで誰しも何かしらの痛みを味わっている筈だ。

小石に躓いて どこかに身体をぶつけて 親に叱られて タンスの角に小指なんかぶつけた日は地獄の苦痛を味わった筈だ。つまるところ何が言いたいか?



「あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

右肩に強烈な痛みが走る。傷口が熱い。

何度繰り返しても慣れない、慣れたくない。

しかし泣きごとは後だ、思考を切り替えろ。こんな怪我いつもの事だ。

眼前には、俺の肩に粗末なナイフを突き立て愉快そうに笑う一匹のゴブリン。

無事な左手でそいつにむけて拳を放つ。全力の拳骨が顔面に炸裂する。

「『復讐』」

同時に俺はスキルを発動する。別に詠唱も発言も要らないのだが気分の問題だ。スポーツや喧嘩で気合い入れて叫ぶようなものだ。

俺に殴られたゴブリンは鼻血を撒き散らしながら吹っ飛ぶ。悶絶しながらそのまま転げ回っている。人に刃物突き立てておいて殴られた程度で大した痛がりようだ。

右肩のナイフを引き抜き、馬乗りになって奴に突き立てる。何度も、何度も、何度も、何度も 。

抵抗がすざましく、引っ掻かれたり背中を蹴られたりするが関係ない。むしろこの状況では俺のカンフル剤にしかならない。


「ハァッハァッハァッ……」

何回刺したかはわからないが、気づいたらゴブリンは息絶えていた。やはり魔物はゴブリンであろうと手強い。

当然か。奴らは人ではないのだから、魔物とはそういうものだとこちらに来てから嫌という程実感した筈だ。

もし俺が、漫画やアニメの主人公の様な凄まじい力を持っていたのならもっと…… いや、よそう。

俺にはもう別の力があるのだ。



最悪のスキル 『復讐』<リベンジャー>が




事は3日前に遡る。

日本でフリーターとして生きていた俺、佐藤裕二はある日いきなり異世界に転生された。自宅でダラダラしていたら突如身体が白い光に包まれて透け出したのだ。

最初は慌てた。誰かのイタズラ?ドッキリ?

だが、有名人でもない俺にこんなことして何になる。

あれこれ考えている間に身体が徐々に感覚を失い、そのまま俺の意識は潰えた


目が覚めるとだだっ広い草原にいた。

「ここが天国ってやつか?」

死んだにしては現実感がない。吹き付けてくる風は肌を撫でて心地よい。足元に感じる草や感触もリアルだ。

とすると、どうやら俺は死んだ訳ではないらしい。確証はないが。

となると考えられるのはやはり手の込んだイタズラ?

俺を眠らせて誘拐し、こんな草原に放置する。イタズラにしちゃあ手の混みように笑うしかない。

色々と考えてはみたが、結局どれも推測の域を出ない。

身体は五体満足だし、やはり死んでいる訳ではなさそうだ。おそらくだが。

「となると、ここは何処なんだ?日本……だよな?」

可能性はなくはないが、外国という可能性もある。

動き出したいが、まずは現状を把握した方が良いだろう。

まず持ち物。

自分の部屋にいたはずなのに靴は履いている。見慣れない靴だ。服は…もちろん着ている。いつもの部屋着。

それと…スマートフォン、飴玉、しわくちゃのレシート。

スマホの電源は入るが…電波は入らない。やはり海外なのか、それとも余程の僻地なのか。

着の身着のままって感じだな。

次に周辺を見回してみるが……

やはり一面草原。人や動物の気配もない…

お、かなり先だが森が見える。とりあえずあそこまで行ってみよう。俺は歩き出すことにした。ここが現実なら何かしらあるだろう。砂漠や無人島って訳じゃない。すぐに困難な状況になったりはしないだろうが、まずは動かなければ。なにしろ食べ物は飴玉1個、水もないんだからな。


20分も歩くと森の入口付近に到着した。

「森っていうか、樹海だなこれは」

樹木が繁茂し、とても人が歩けるような感じの場所じゃない。が、所々の低木の小枝は折られ、足下の下草は喰われて短くなっている。つまり獣がいる。

「動物はいるんだな」

だか人が滅多に立ち入る場所ではないようだ。

どうする、引き返すか。

そう思った矢先に目の前の茂みから何かが蠢くような音がした。

マズイ、熊とか猪なんかだったら洒落にならないぞ。

警戒していると、緑色の小さい子供のような生き物が一匹現れた。

「なんだコイツ…」

言ってはみたが、明らかに見たことがある生き物だ。

そこに居たのは空想上でしか有り得ない生き物……


ゴブリンだ。

いる筈がない。だってゴブリンってゲームとかおとぎ話にでてくる怪物だろ。なんでこんなのが

「うぉっ!!」

面食らってる間にゴブリンが俺に襲いかかってくる。

奴が振り下ろした棍棒らしき物をすんでで躱す。

なんだよこれなんなんだよこれ!わからない。何がどうなってんだよ!

俺は駆け出した。一刻も早くこの怪物から逃げようと、来た道を必死に戻る。なんだここ!日本じゃないのか?いや、例え外国だとしてもあんなのが存在するのか?それとも既に俺は死んでいてここはあの世…

「ぐっ…?がぁぁぁぁぁ!!」

痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!

突然の凄まじい痛みに思わず叫び、勢い余ってそのまま横転した。

なんだ、何が起こった。痛みの元凶を探すと右足の足首に矢のような物が突き刺さっている。服が赤く染まり血が流れ出ている。遠目には先程のゴブリンが弓の様な物を持って笑っている姿も見える。

奴が放ったのか。漫画やアニメならゴブリンって武具の扱いは下手なんじゃないのかよ!しかし、頭の中は射られたことより別のことでいっぱいだった。

気が狂いそうな程の激痛で今にも押しつぶされそうだ。

矢が突き刺さっていればそりゃあ痛いだろう。当然だ。

だが、普通じゃない。過去に車に撥ねられたことがあるが、そんなのは比にならない程の痛み。

苦痛に身悶えていると目の前にウィンドウ画面の様な物が表示された。


ユニークスキル

『壊死』<ネクロシス>

効果 自身の被ダメージが倍になる。


なんだコレは…スキル…?どういうことだ。痛む身体で考える。壊死。ネクロシス。ダメージが倍。表示されている文字にはそんな記述がある。いきなり現れた変な画面にスキルとやらの表示がある、その効果は俺の受けるダメージが倍になる。そして身体に感じる痛みは本物だ。倍?倍だって?

「じょ…冗談じゃない!!!!」

俺は足を庇いながら逃げ出した。何処かもわからない場所にいきなり放置され足を撃ち抜かれ尋常ではない苦痛を味わっている。挙句痛みが倍になるスキル?訳が分からない

俺が何をした。なんでこんな目に合わなきゃならない。


「があっ!!」

足を負傷し跛行状態の俺が走れるはずもなく、再び横転する。一刻も早くここから逃げたい。逃げたい。逃げたい!

瞬間、頭部に鈍い音が響き、またしても凄まじい苦痛に襲われる。先程のゴブリンに背後から棍棒で頭を殴られたのだ。

最早悲鳴は上がらない。度を超えた痛みに白目を向く。

が、意識は途切れず次の瞬間再び衝撃と激痛が襲ってくる。ゴブリンは俺の頭・背中・足あらゆる箇所を何度も殴打してくる。頭を庇い、気が狂いそうな痛みに必死に耐える。このままだとおそらくどこかでショック死してしまう。


死にたくない、死にたくない、死にたくない!!


俺は必死でゴブリンを押しのけ向き直る。

目の前の怪物は俺の命を奪おうとしている。もしかしたら遊ばれているだけかもしれない。しかし、よくわからないスキルとやらによると俺の苦痛は普通の非ではない。

やらなきゃ、殺られる。

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

策も何も無い。目の前のゴブリンに突っ込んでいく。俺には格闘技の経験はない。ただ拳を振りかざし我武者羅に突っ込む、次殴られたらもう立ち上がる力は多分ない。だから全力で、ただ殴る!!

俺の拳がゴブリンの顔面に命中し、そのまま奴は倒れ込んだ。今まで逃げまわって殴られっぱなしだった相手から、急に反撃されるとは思ってもいなかったのだろう。奴は信じられないといった表情をしていた。

奴が落とした棍棒を拾い上げ、すかさず追い討ちをかける。


何度も 何度も 何度も 何度も 何度も

半狂乱になりながら棍棒をゴブリンの頭に振り下ろす。

「死んでくれ!死んでくれ!死んでくれ!死んでくれ!死んでくれ!死んでくれ!死んでくれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


気がつくとゴブリンは動かなくなっていた。

息も絶え絶えに、棍棒が手から滑り落ち膝から崩れ落ちた。

「殺した…俺が殺したのか」

まだ手に感触がある。嫌な感触だ、虫を殺すのなんかとは訳が違う。最悪の気分だ。

「痛っって……」

全身が痛い。あれだけ殴られれば当然だが、何故かゴブリンを殴った腕も痛い。

「被ダメージって自分が殴った時の衝撃なんかも倍になるのかよ……」

本当に最悪だ。命懸けの殺し合いをしたのもそうだが、死にものぐるいで生き延びたのに全身ボロボロだ。この変なスキルとやらのせいで。ゴブリンって簡単に勝てる相手じゃないのかよ。なんなんだよ本当に…



【Lvが上がりました】

【Lv1→Lv2】


突然無機質な声が脳内に響く。

「うわッ!!なんだ!?レベル?」

目の前に先程と同じようなウィンドウ画面の様な表示が出現した。なんだこれは。……ステータス画面?


【名前】 佐藤裕二

【Lv】 2

【年齢】 28

【HP】 110

【MP】 110

【攻撃】 20

【防御】 10

【知力】 20

【素早さ】 20

【スキル】 鑑定 アイテムボックス

【ユニークスキル】『壊死』<ネクロシス>


まるでゲームのようだ。RPG系のゲームでこんな画面をよく見るが、現実で見ると少し感動するな。


【HP・MPが回復しました】

【ステータス値が上昇しました】

【ユニークスキル『壊死』】

【ユニークスキル『復讐』<リベンジャー>へと進化しました】


更に無機質な声が響く。

全身の痛みが引いていく。Lvが上がってHPが回復したってことか?助かった…

ステータス値も上がったのか?見るとHPとMPは110、攻撃・知力・素早さは20と全体的に高い気がする。おそらく初期値が100.10あたりの数値だったのだろう。そうなると防御力が上がっていない気がするが…たまたまか上がりにくいのか、来ている服が私服だからか?もしかしたら装備品等に依存するのかもしれない。

そしてユニークスキル?先程表示された『壊死』というスキルが『復讐』に進化したとある。

「復讐?壊死とはまただいぶ様が変わったな」

効果とかは表示されないのか?画面をタッチしてみると拡大され、説明文の様な表示が映し出される。


ユニークスキル

『復讐』<リベンジャー>

効果 自身の被ダメージが倍になる。ダメージを受けた場合 次の自分の攻撃 行動 効果を倍にする。


……。

最悪の効果は変わらないようだ。ただ、進化した事で新たな能力が追加されている。ダメージを受けた場合 次の自分の攻撃 行動 効果を倍にする。か。なるほど、『復讐』ね。

やられた分は倍で返せるってわけだ。さっきの様な命懸けの戦いはしたくないが、上手く使えれば色々な事が出来るかもしれない。ここが何処かわからない以上、今後はこのよく分からないユニークスキルとやらに頼らなければならないからな。


「いきなりこんなところに放り出されてこれからどうしようか…」

ともかく人を探さなくては。

まずはここを早急に離れて、人のいる場所を目指そう。

俺は立ち上がり、歩き出す。明日も生きていられるように

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