プロローグ
鬱屈になるほどに茂った森林を歩く。時折、左手に持ったナタで足に絡み付く雑草を払う。
『ピコン』
システムから、付近でモンスターがポップしたと通知が入る。視界の端に映る小さい円状のグラフを見ると、七時の方向に赤いドットが見えた。
「シャアッ!」
飛び掛かってくるのを感じたので、振り向き様にナタを大振りで振り切る。カァンッと快音が辺りに響く。クリティカル。俺はこんな状況だというのに思わず口の端がにやりと上がる。ちなみにクリティカル音は実際に鳴っているわけでなく、俺の脳内に直接鳴るらしい。パーティを組んでいればその仲間にも聞こえるが、今の俺には関係がない。
感覚でモンスターを斬ったので、ようやく相手の全容を視界に収める。二メートルほどあるバッタのようなモンスター。その左後ろ足は根本から千切れ、紫色の血飛沫があがる。
また、ノーマルだ。バッタはCランクなので決して弱いわけではないが、経験値やドロップアイテムは旨くない。それでも倒さないよりかは幾分かましだ。
「シャアアァッッ!!」
羽を開いて大きく震わせる威嚇行動。この次には大振りの突進がくる。奴の体力ゲージは残り八割といったところなので、その攻撃の後の隙を突く。上手くいけば半分まで削れるだろう。
何度も見た攻撃パターン。奇襲から威嚇、そして突進。そのあとは爪で三連攻撃から距離を取って糸を吐く。瀕死になっても逃げ出すことはないし、ポップの場所が変わることもないし、攻撃パターンも一つも変わることがない。
俺は、異世界に転生した。
そこは、どこまでも、この世界の全て余すこと無く、プログラムされた世界だった。