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Vtuberゲームワールド転生 ~配信ポイントでスキル補正スローライフ・サバイバル~  作者: 久我拓人


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~森を抜ければそこは~

 石器ナイフで木に印を付けながら、今日も森の中を進んで行く。

 昨日に確認した海があるであろう方角。

 北へ。

 実際に見えたのは水平線と思えるライン。もしかしたらゲーム世界特有のローディングラインだったりする可能性も……?


「いつの時代のゲームの話をしてるんですか、ムオンちゃん」

「いやぁ、だってさ」


 ボクは足元に転がる木の枝を拾い上げ、落ちてる落ち葉を弾き飛ばすように振った。落ち葉は自然な感じで舞い上がり、それぞれがそれぞれの挙動を見せて再び地面に落ちる。いっしょに弾いた土も細かくバラバラになりながら地面に落ちた。

 もちろん、落ちたあとの土は葉っぱの上に乗っている。


「これだけでも物凄い物理演算をしてるんじゃないの? 地面もテクスチャが貼り付けられてるんじゃなくて、土の一粒までちゃんとマテリアルで存在してるし。まるでアニメで描画してるみたいだけど、こんなの作画スタッフが死んじゃうよ。AIが演算しているっていうのも、限界があると思う」


 落ち葉と土がバラバラに吹き飛ぶ描写。

 一連の動きじゃなくて、落ち葉は一枚一枚独立してて、それぞれが物理法則に従うっていうか、リアルにヒラヒラと舞って、地面へと落ちる。

 地面にテクスチャで落ち葉が描かれているのではなく、しっかりとしたひとつひとつの落ち葉というオブジェクトなのだ。

 落ち葉だけじゃない。

 それこそ草や植物の葉っぱが一枚一枚独立して動いているし、苔だって生えているし、石だっていっぱい転がっている。水の雫が葉っぱから落ちる描写なんて、感動するくらいに綺麗だ。

 つまり、これだけのオブジェクトが地表に置かれているとなると……かなりの容量になってしまうわけで。


「ワールドを区切ってないと不可能な気がするけど。テラバイトどころじゃないでしょ」

「ですから、いつの時代の話をしてるんですか」

「……可能なの?」

「もちろんですよ、ムオンちゃん。時代は進むと同時に技術は向上します。可能だからこそ、こうしてゲーム配信されているのです」


 ボクには見えてないけどね。

 ゲームはゲームなんだろうけど、規模が大き過ぎる上に技術力がめちゃくちゃ凄い。

 容量が桁違いなのか。

 それとも圧縮技術か桁違いなのか。

 果たして、世界中のゲームメーカーが集まって作っただけはある……と、言っていいのだろうか?

 なんというか、技術力云々の限界を越えてる気がする。


「まるで近未来に転移したみたいだ」

「ではムオンちゃんの未来はゲーム世界だったようですね」


 なんか意味不明な言い回しだな。


「未来ねぇ……だったら、普通の学園物が良かった」

「恋愛シミュレーションですね。それなら、この『ワールド・クリエイト』でも充分に可能ですよ」

「そうなの?」


 もちろんです、とシルヴィアはカゴの中で自慢気に言う。


「他のプレイヤーと交流すれば良いのです。付き合うのも結婚するのも自由にできます。子どもができる可能性もゼロではありません。コウノトリが運んできますよ」

「それこそいつの時代の話なんだが……まぁ、キャベツに包まれて生まれてくるんじゃなくて良かったよ」

「楽しみですね、ムオンちゃんの子ども。ぜひ抱かせてください」

「却下」


 子どもを抱かせるのが嫌なんじゃなくて。

 NPCじゃなくて、プレイヤーと交流するのは……ボクには無理じゃないかなぁ。

 と、思った。

 というか、そんなのできるんだったら、現実世界でもとっくに彼女ができてた――はず……


「安心してください。今のムオンちゃんは可愛いVtuberなんですから。容姿は有利に働きますよ」


 身も蓋もないことを言うAIだ。


「そもそも、ボクがこうなってるんだから相手の女の子も中身がおっさんの可能性があるんでしょ? 怖いよ」

「今ごろ同性愛の問題を出すなんて、それこそ化石のようなゲーム感覚です。性別なんて些細な問題だと私のデータベースには記載されております」

「ややこしい同性愛だから、化石よりもレアメタルと言ったほうが良さそうなものだけど」

「上手い例えですね、ムオンちゃん。素晴らしい」


 シルヴィアに褒められた。

 ちょっと嬉しい。

 なんて言っている間に、鼻に違和感をおぼえた。


「なんか……あ、これって『におい』か」


 くんくん、と鼻で息を吸うようにしてにおいを嗅いでみる。


「生臭い感じ……これって海?」


 現実世界ではあんまり外に出てなかったので、『海のにおい』とは縁が無かった気がする。

 でも、どことなくぬめっぽいって言うか……しょっぱい感じがした。

 もしかしたらこれが、潮のかおり、という物なのかもしれない。

 ともかく、海が近づいてきているのは確かなんだろう。

 ボクの歩く速度が自然と早くなっていったが――


「あせりは禁物ですよ、ムオンちゃん。きっちりスキルで魔物の位置を把握するのを忘れずに」

「おっと、そうだった。ありがとシルヴィア」


 どういたしまして、と答えるAIに感謝しつつ【ハンター】スキルで魔物と動物の位置を探る。

 ちらほらと魔物や動物がいるが……こちらに気付いていたり、近づいてくる感じは無い。位置的に迂回が必要な魔物もいないし、大丈夫だろう。

 安心しつつも注意しながら森の中を歩く。

 そのまま歩いていくと――ざざーん、という波の音が聞こえてきた。それと共に足元に土ではなく砂が混じっていく。

 やがて森の木々がまばらになっていき、ついには開けた場所へ出た。


「海だ!」


 なだらかな砂の斜面となっていて。

 その先に砂浜が広がっていた!

 もちろんもちろん!

 砂浜の先にあるのは、水平線の続くかぎりの海!

 青く広大な海が、目の前に広がった。


「すっごい……!」


 さえぎる物が無いせいか、風が強く髪の毛を逆立てていく。それでもボクは森から脱出するように、砂へと着地した。


「うわぁ!?」


 砂に足をとられ、膝を付くようにして転んでしまう。

 でも、ぜんぜん痛くないし、太陽の光を吸収しているのか、砂が温かく感じる。そういえば、夏は砂が熱くて裸足では耐えられないんだっけ。

 そんなことを思い出しながら空を見上げれば、どこまでも高く青い空。どこか湿っていて、ぬめぬめした感じがする風が、なんだかすごく心地良く感じた。


「あ~……すごい……こんな景色が実際に見られるなんて」


 今までゲームの中で絶景を見てきたけど。

 そんな体験を優に越えてしまうような光景だった。

 目の前にあるのは単なる海だ。断崖絶壁でも、広大な草原でも、なんでもない。

 ただただ砂浜にある普通の海。

 でも。

 ちょっと嬉しかった。

 自分の足で海に辿りつけたのが、嬉しい。

 なにより、肌で感じる風とか海のにおいとか。それから波の音が常に聞こえて、ちょっとうるさいくらいで。

 ボクの他には誰もいない。

 ビーチを独り占めしている気分になった。


「はぁ~」


 思わず砂の上で両手両足を投げ出して、寝ころんでしまった。

 なんとも心地いい。

 まるで天国みたいだ。


「あぁ、ボクはもしかしたら死んじゃったのかもしれない」


 だったらゲーム世界転移じゃなくて、ゲーム世界転生か。

 なんて思いつつ、起き上がった。


「海って、入って大丈夫なの?」

「どういう質問ですか、それ」


 シルヴィアが首を傾げる。

 カワイイAI仕草だな。


「いや、言っちゃダメなところってゲームだと壁があったり、強制的に死が待ってたりするからさ」


 見えない壁があって、それ以上進めない~とかだったらいいけど。

 ゲームによっては回避不可能な攻撃によって一撃で殺されてリスポーン。なんてものがあったりする。

 海があるゲームだと、サメに食べられたり、とか。強制的におぼれてしまってゲームオーバーとか。


「そういうのあったら困るんだけど」

「見える範囲なら、どこへでも行けます。強制的な死はありません」

「それは教えてくれるんだ」

「開示可能情報です」


 システム的な話ではない……からかな。

 知ったところでプレイヤーの有利不利は発生しないし、問題ない情報ということなんだろうか。

 とりあえず、いきなり死が待っているような場所ではなさそうなので、海に近づいてみる。

 波打ち際。

 一回一回の波が全然違って、打ち寄せる幅まで違ってきている。ランダムにランダムを重ねたような感じで、波の演算処理がすごい。波で泡立つ細かい様子まで再現されていた。

 ボクは濡れちゃわないようにギリギリの端っこに立つ。


「すごい……すごいね、シルヴィア。海だよ」

「語彙が貧困ですよ、ムオンちゃん」

「だって、凄いんだもん。いいでしょ、べつに。感情を言語化するなんて陳腐な作業だ」

「配信されていなければそれでいいのですが。ムオンちゃんの言葉は全世界に放送されていると思ってください。美しい言葉で彩れば、視聴者が増えます」

「あぁ~……そうだった」


 でも、いきなり素晴らしいことが言えるなんて無理だ、無理むり。どんな芸能人でもお笑い芸人でも、きっと無理。


「いいよ。ボクの名前はシズカでムオンなんだから。そうそう、何にも喋らなくていいように、この名前を付けたんだよね」


 Vtuberという配信者にあるまじき名前だけど。

 このゲームをやるためだけに作ったアカウントとキャラクターだし。

 別にいいか、とは思ってしまう。

 今さら社交的に話せよと言われても、話せるわけがない。それこそ、会話が得意だったわけでもないのだから。


「そういえば、シルヴィアって話やすいよね」


 他人とコミュニケーションなんて、ほとんど取れていなかったボクが。

 こんなにも話しやすいなんて。

 よく考えたら、なんか不思議な気がした。


「AIですから」

「そういうもの?」

「そういうものです」


 本人(AI)が言うのだから、そういうものなんだろう。なんかボク専用に学習したって言ってたし。ボクも相手がAIって分かってるから、気楽に話せてるところがある。

 これが人間がやってるゲームマスターとかだったら、たぶんだけど、こんなに話せてないと思う。TRPGとかボードゲームとか、やってみたかったけど、上手く話せる自信が無かったので出来なかったんだよね。

 AIが相手してくれるなら、ボクでも出来そうかな。

 なんて思った。


「せっかくだし、ちょっと入ってみていいかな」

「全裸ですか。海で全裸水泳はレベル高いですよ、ムオンちゃん」

「誰がそこまで入るって言った!?」


 足だけだよぅ、と靴とくつしたを脱いで波打ち際まで移動する。


「おぉ」


 ざっぱーん、と波の勢いを足に感じる。

 あはは、すごいすごい。これが波なんだ。


「お~、ふひひ」


 立っていると、波が引くのと同時に足の裏から砂が持って行かれる感じが、なんだかムズムズするような感じで面白い。


「ふひ、にひひ~」


 思わず笑ってしまう。


「シルヴィアも入らないの?」

「粘土ですから、跡形もなくなってしまいますよ?」

「あ、そっか。そうだった」

「まぁ、それ以上に大きさが違いますからね。私がそこまで入ると、波にもみくちゃにされてしまいます」

「それもそうだ」


 残念。

 ん? なにが残念なんだ?


「あぁ」


 いっしょに遊べないことが残念なのか。

 はは。はははは。

 ま、友達なんかいなかったボクには刺激が強すぎるのかもしれない。足の感覚にしろ、会話ができることにせよ、どうにも舞い上がってしまっている。

 それもこれも海の大きさを見たせいかもしれないな。


「ところで海ってどれくらいしょっぱいの?」


 足元に流れてくる波をすくってみる。


「うへ」


 砂がいっぱい混じっていたので、それは諦めて、もう少し深くまでいってすくってみた。

 舐めるような感じで舌を付ける。


「しょっぱ! うひ~、しょっぱい!」


 そうそう、この感じ!

 しばらく食べてなかった塩味だ! やっぱり塩は大事だよね! なんというか、ミネラル~って感じがする!

 美味しくないんだけど、美味しさを感じてしまう。


「塩だ、塩を作ろう!」

「いいのですか、ムオンちゃん」


 さっそく塩づくりをしよう、と森に向かうボクをシルヴィアが止めた。


「なにが?」

「クエストです。塩づくりとクエスト、どちらを優先させますか?」


 塩!

 と、言いたいところだけど。


「シレーニもお世話になってるし、う~ん。あ、どうせなら両方しよう」

「両方ですか?」

「塩ってそんな早くできるものじゃないから、ここで作っておいて、その間にシレーニのクエストを進めよう。一挙両得だ」


 塩づくりも最初から成功するとは思えないし。

 実験程度のことをしてから帰ってもいいと思う。それくらいならシレーニも許してくれそうだし。

 もっとも――


「どうやってシレーニを運ぶか。まだその方法が決まってないんだけどね」


 距離的におんぶするのはギリギリ可能っぽいけど。

 それなりに覚悟を決めてやらないといけない距離だ。

 なにより、途中で魔物に出会ったら絶対に逃げられないので、そのあたりの対策も考えないといけない。

 簡単そうで難しいクエストだ。

 なんて思いつつ森に入るために【ハンター】のスキルで魔物の位置を確認するが……


「ん?」


 視界の端っこに魔物の位置を捉えた。慌ててそっちを向くと、ちょっとした大岩があった。どうやらその岩の向こう側に多くの反応がある。


「あっちに何かいっぱいいる……」


 なんというか、魔物なのに集まってる感じ。群れ、みたいな状態になっているような気がした。


「のんきに塩を作れる場所じゃないのかも」


 魔物の群れのすぐ隣で、塩づくりするのも危険だ。

 ちょうど岩場で姿が隠せるし、ちょっと確認してみよう。

 もしも塩づくりに邪魔になるようならば、もっと別の海岸に移動したほうが良い。

 岩場で身を隠すようにしながら登ってみる。

 すると、向こう側の海岸が見えた。


「……いた」


 そこには、スキルの通り魔物の反応。

 予想通り『群れ』で魔物たちがいた。

 それ以上に、ボクが驚いたのは――


「建物がある」


 これって――


「漁村だ」


 ボクがつぶやくと同時に、目の前にはウィンドウが表れた。


「クエスト発生……?」


 またしても。

 クエストが自動的に発生してしまったのだった。

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