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ロボトピア~全自動超社会主義国家~

作者: 音海秀和

■■東暦2075年 7月某日 高級料亭花月■■


大東亜合衆国大統領 藤原一郎、国家的DX推進大臣 野中太一、関東州立大学ロボット工学専攻科名誉教授 廣永龍臣、による秘密裏の三者会合が行われていた。


「明日、全国民データ収集法案が可決される」


「過半数は取れそうなのですか? 」


「最大派閥佐藤派は既に取り込んである。これに連立与党光民党と、我々の派閥が賛成すれば、確実に三分の二は超える。

成立後の対応を早急に進めてくれ」


「既存PCのデータ収集アプリインストール義務化、スマートウォッチの国民配布、各IPアドレスとマイナンバーの紐付け、スパコン大東亜へのデータ随時送信等々……ですか。

個人情報保護法の観点から、人権団体が黙っていなそうです」


「大丈夫だ。法案さえ通れば、大統領権限で黙らせる。廣永教授も、開発を加速させてください。今後10年で一兆円規模の特別予算を確保します」


「ありがとうございます。

既に採択されている複合学術領域廣永ヒューマン・ロイドプロジェクトを推進していきます」


「理想は、人間より人間らしいロボットの創成です。彼らに働いてもらってこそ、超社会主義(ロボトピア)が実現できる」


「ご尽力いたします」


「長い人類史において、度々権力者が台頭し世界を導いてきた。選民思想に基づいた貴族による絶対王政、産業革命期に台頭した資本家手動の資本主義、これに耐えかねた労働者蜂起による社会主義、そして、現代の均衡が図られた資本主義。しかし、どれに置いても、結局、真の平等とは程遠い。

インターネットが普及し始めてから、この80年、また、産業構造が大きく変わった。ロボット工学が発展し、AIの台頭により約半数の仕事が無くなった。多くの失業者を産み、社会は混沌としている。その一方で、富める者はますます財を蓄え、社会の歪みはより一層大きくなった。私は、今この状況を、第二次産業革命期だと考えている。蒸気機関発明以来の、革命期だ。

この大事な局面に政府は何をしてきたか。何もしていない。ただ、指を加え、流れる様を見ていただけだ。

今こそ、強い指導者、新たな社会構造を提示できる強い国家が必要なのだ。

私は今ここに、全自動超社会主義国家(ロボトピア)の樹立を宣言する。

人智を超えたロボットによる超社会主義国家だ。失業するならば、皆ですればいい。そして、ロボットが生み出した富を、皆で分配するのだ。

目指すは、全合衆国民の平等。まずは、データ収集法案の可決を、第一の足掛かりとする」


「流石は、藤原先生!ささっ、もう一杯」


三者会合は、その後も夜遅くまで続いたという。


■■東暦2078年 9月 〇✕ 商事第一営業課■■


「おっ、狭山くん。調子はどうだ。本配属が決まってから、3ヶ月が経つが仕事にはなれたか? 」


「山野辺部長! おはようございますっ!

お陰様で。葛城さんや、田中課長が優しく教えて下さいますし」


「そうかそうか。田中くんが、パワラハした時は、何時でも相談してくれ。私が、ビシッと言ってあげるからな、わはははははっ。

ああ、そうだ。社内ネットのインフォメーションにも出ていたが、データ収集アプリのインストール期限が今日までだ。君、まだ、入れていないだろう。早急にやってくれ。上が煩いんだ」


「そんなの出てました?

あっ、本当だ。すみません、早急にインストールします。

でも、これ、なんなんですか? 」


「これからはパソコン一回線につき、一アプリのインストールが必須になるらしい。そこから随時データの収集が行われるそうだ」


「……それ、個人情報的に大丈夫なんですか? 」


「さぁな。まぁ、国家がやると決めたことだから、反対は出来んのだろう。藤原政権の肝いり政策らしいぞ。

ほら、このスマートウォッチも、だ」


「うぉっ!! 高そうなヤツじゃないですか?

どうされたんです? 」


「政府から送られてきた。これからは、全国民に装着の義務が課せられるらしい」


「じゃぁ、俺も頂けるんですかっ!? やったぁっ!!……なのか、な? 」


「時計としては便利だぞ。バーコード決済も対応しているし。随時、脈拍やら体温やらは送信されているみたいだがな? 」


「それで、なにが分かるんです? 」


「感情やら体調、嗜好に思考なんかがわかるらしい。スマホとも連動していて、通信履歴やSNS、画像データ、位置情報、なんかから、行動と心理状態をリンクされて収拾するらしいぞ」


「ひっ!? なんか、着けるのが怖くなってきました」


「タチが悪いのが、着けないと罰金が貸される点だな。まぁ、国家が手動しているのだから、悪用はされんだろ。

藤原政権の第1公約は全合衆国民の平等だからな。今回のデータ収集も、その為の布石らしい。ま、しっかり稼いで、たんまり税金を納めていれば、目を付けらることもないだろう」


「ははっ、そうですね。それじゃー、俺も頑張ります」


■■東暦2083年 9月 〇✕商事 第一営業課■■


「山野辺部長、おはようございます!

今、お時間いいですか? 」


「ああ。おはよう、狭山くん。おっ! その隣にいるのが噂の……」


「はいっ! 『さや1号』です」


「キョウカラ、ヨロシクシデス」


「おう。挨拶までできるのか。会話は微妙だが、外見は狭山君にそっくりだな。使い心地は、どうだ? 」


「このアンドロイド最高ですよ! 第1世代ってきいて、しょぼいのかと思ったら、俺の収拾データを元に思考を読んでくれるから最高です。食べたいものは出てくるし、行きたい所にも会話なしで連れて行ってくれます」


「ふはは。それじゃ、嫁いらずだな」


「本当ですよ。女より気を使わくていいし、気は効くし、金はかかんないし。俺、ダメ人間に成りそうです」


「おいおい。男が廃るぞ! 」


「あははっ。大丈夫です!俺の本業は仕事なので」


「流石は、うちのエースっ! 今日から、教育係もやるんだろ。 期待してるぞ! 」


「任せてください。『さや』をわが社のエースに仕立ててみせますよ!」


「キョウカラ、ヨロシクシデス」


■■東暦2088年 7月 狭山雄一宅■■


「ただいまーっ! おっ、めっちゃ、いい匂いする! 唐揚げ?」


「そうだよ。雄くん、昼からずっと、食べたいって考えて、きゃっ!

もうっ、ダメ、油を扱ってるんだから、抱きつかないの」


「えーっ!? 只今のハグは毎日の約束でしょ」


「もうすぐ揚がるから、早く手を洗ってきて」


「じゃぁ、こっち向いて」


ちゅっ、ちゅっ、ちゅっ!!


「うーーんっ!! 」


「ふはっ、さやは、いつも可愛いなぁ。じぁー、手を洗ってくるねー」


「もぅ!!」




「「かんぱーいっ!! 」」


「ぶはっ! ビールうめぇ!

はふはふはふはふっ。さやが作る唐揚げも堪んねぇっ! 」


「ふふっ。いつも通り美味しい? 」


「いつも以上に美味しい。衣はサクサクだし! 肉はさっぱりしっとりしてて美味しい! 」


「衣は各社の配合を徹底解析したの。肉は、雄くん好みの胸肉を、塩水につけてしっとりふっくらするようにしたんだ! 」


「にひひっ」


「どうしたの? 」


「いや、俺、愛されてるなぁと思って」


「当然。雄くんは、私にとって初めての主人なんだから。

……雄くんは、私の事愛してる? 」


「当たり前だろ! あれだけキスしたのにまだ、足りないのか! 仕方ねーなー」


「ちょっと、座って! もうキスは大丈夫!もう十分っ! 」


「俺の愛が、本物か心配なんだろ? 」


「そーいうわけじゃないけど、……言葉で聞きたいなと思って。

ほら、私、アンドロイ」「はい、あーん」


「んぐっ、もぐもぐもぐもぐ。おいしいっ! 」


「だろっ!

あー、本当はオシャレなお店でフルコースを食べた後にヤルつもりだったけど……、さやを不安にするぐらいなら」


──パカッ。


「一生幸せにします! 俺と結婚しください! 」


「えっ、えっ、えぇっ! どっ、どういうこと? 」


「今年の四月から法整備されて、俺達の結婚も認められるようになっただろ。その時から、さやとの結婚を考えていた。いや、その前からだ。さやが、さやとして家に来た時から」


「……でも、雄くんには、もっと、素敵な奥さんがいるよ。私なんかじゃなくて」


ガタッ!


「わかった! 分かったから、雄くんは、椅子に座って! 」


「やだ、さやが、俺の愛を受け止めて結婚してくれるまで、ずーっとハグしとく」


「それ、私に拒否権は? 」


「ないっ!! 」


「それ、聞いようによっては、サイテー彼氏じゃん」


「そー、サイテー彼氏。で、どうすんの? 俺はこのままでもいいけど? 」


「私もこのままがいい」


「えぇっ!? 」


「嘘ついた。お願いします」


「えぇっ!! ええーーーーっ!?

俺と結婚してくれんのっ!? やったぁー」


「ふふっ、なんで驚いてんの。拒否権ないんでしょ? 拒否しないけど」


「そりゃあ、さやと結婚できんだよ!驚くし、嬉しいよ! 」


「わかった。分かったから、そろそろ離してよ。くすぐったい。

それに、指輪を嵌めて下さい」


「おっ、おう! では、左手をお願いします」


…………。


「きれい」


「指輪を嵌めたさやの方が、きれいだよ」


「ありがと。これからもよろしくお願いします」


「へへっ、こちらこそ」


■■東暦2093年 9月 〇✕ 商事第一営業課■■


「あれっ? 今日、狭山課長は? 」


「在宅ワークだって。さやさんが、出社してるから、なんかあったら伝えてくれって」


「明日締切の資料最終確認してもらいたかったんだけど」


「さやさんに、お願いすればいいじゃん」


「さやさん、怖いんだよなー。

狭山さん、最近、在宅ばっかじゃん」


「狭山さんだけじゃなくて、会社の八割方が、だろ。政府もそれを推奨してるし。山本、お前のアンドロイドは? 」



「実家の親が調子悪くて、そっちに行ってもらった。年寄りの相手するより、仕事の方がいいわ。そう言う浅井は、どんなんだよ? 」


「俺? 俺は、俺がアンドロイドの方」


「はぁっ!? お前が、アンドロイドなの? 喋り方とか、まんま、浅井じゃん? 」


「どーよ、俺の学習力」


「何? アンドロイドにも個体差があるわけ? 」


「主人の個体差とも言う」


「うるせーっ。

そういや、狭山さん所、お子さんも産まれたばっかじゃなかった? さやさんは大丈夫なの? 」


「出産までは外付けの人口子宮が対応するし、産まれてからは、新たにアンドロイドが支給されるから、大丈夫らしいよ」


「狭山さん、出番ないじゃん。家でなにやってんの? 」


「専ら、ゲームとパチンコ・スロットだって」


「何それ、廃人じゃん。この世の終わりかよ」


「うちもそうだけど、人間って、仕事なくなると途端に堕落するのな」


「……人間の俺に言うなよ。笑えねー」


■■東暦2095年 7月某日 大統領府執務室■■


「野中大臣。これはどういうことだね? 厚労省からあがってきた、出生率のデータが0.5をきっている。きちんと、生殖細胞を搭載したアンドロイドを各家庭に支給しているのだろう? 仕事が忙しすぎて、手が回らないということも有るまい。政府関係者には、ハイスペックアンドロイドを三体もつけているのだから」


「なんだ、そのお話しでしたか。てっきり、藤原大統領のご引退のお話かと思っておりました」


「なんだと? 」


「大統領は既に四期目。そんな出生率など気になさらず、余生をお過ごしください」


「ぐっ、ぐあっ、なっ!? こっ、こんなことが、許されると」


ガタッ。


「そりゃあ、バレたら許されませんよ。バレたらね。

ご安心ください。残りの仕事は、三体のアンドロイド(わたし)と三体のアンドロイド(あなた)が恙無く引き受けますので。

ふふふっ、藤原大統領は、直ちに、健康不安により引退。後任は、私か引き継ぎます。

藤原さん、関係各所に連絡してください。そして、廣永教授にも。大統領府の乗っ取りに成功しました、と」


「「「はい」」」


■■東暦2121年 某月 関東州立大学 廣永研究室■■


「ふふっ、ふははっ、ふははははははっ!とうとう、ここまできた。

全世界人口を最盛期の三分の一にまで減らした。残っている人間にも、生身の人間はほぼいない。人工内臓に侵され、いつでも、その息の根は止められる。極小数残った人間は、薬漬けにして、精神破壊済みだ! 」


「流石は廣永教授」


「それもこれも、全て、野中大統領と、藤原さんのおかげだ。我が国が強国といえど、世界にアンドロイドを蔓延らせるのは、私一人では無理だった」


「他国は、我が国というサンプルが有りましたから、意外と楽でしたよ」


「ふふ。私は優秀な同士に恵まれたということか。今後のことは、スパコン大東亜に全て指示してある。徐々に人間の息の根を止めて行くことだろう。データベースに残っている、人間の感情データは既に消去済みだ」


「後のことは、我々にお任せください」


「うむ。私も眠るとしよう。最期に共に観ようではないか。この美しい世界を。昼夜問わず稼働する工場群。一切の無駄がなく美しい。このVR映像とともに逝ける私は、なんと、恵まれて、い、る、こと、か……」


その後、感情をなくしたアンドロイド達が、昼夜問わず、地球で働きつづけているという。ひたすら、生産し続け、最小限のエネルギーを消費しながら。


サボるモノもトメルモノも誰もいない、徹底的にスパコン大東亜に管理された世界。

まさに、ロボトピア(理想郷)がそこにはあった。






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