忍者
二凧とお付き合いもとい、大和文化では婚姻をすることになったが、だからといって大きく変わるわけでもなく、無事朝を迎えた。夜這いされたらどうしようかと思ったが実行手段には訴えてこなかったらしい。婚姻というのはそういうものではないと吉田さんに確認したが、流石に異世界で何が起こるかはわからないので警戒をすべきだろう。
朝起きて食事に向かうと、いつも通り2つ結びの二凧がいる。しかし、二凧は心ここに在らずと言った様子でこっちをみては顔を赤らめている。
実に初心だね。なんともわかりやすいものだ。二凧は今日、大学に行くそうで、私は読み終わっていない本を読むことになっている。
明日は大学見学、明後日は小学校見学と目白押しなので下調べをしないといけないし、ありがたい1日だ。今日は、教育関連法案を読んでおくことにする。
一時間ぐらいだろうか、部屋で読書をしていると、コンコンとノックがある。部屋の外から吉田さんの声がする。
「読書中失礼致します。婚姻なされたということで、大和国籍を得ることになるわけですが、華族では婚姻の贈り物として民間の男性警護官をつけるのが習わしとなっておりまして、強制ではありませんが、ご興味ございましたらこのリストから選んでいただけると」
そういって、扉があき、分厚い冊子が置かれる。中をペラペラみると見合いのように全身が写った女性の写真と名前、スリーサイズや柔道などの特技が書いてある。お見合い写真かなにかだろうか。民間と言ってるけど華族関係企業でしょうねこれ……女性を送り込みたいという気持ちが伝わってくるね。
まあ適当に見て断っておこうかと、パラパラめくっていると、とある1ページが目に止まる。
そこに映っていたのは紛れもなく忍者だった。
忍者??
忍者の中でも女性なのでクノイチというべきだ。もっと目を引くところはその容姿である。
そうロリである。年齢は16歳と表記されているが身長は驚異の135cm完全に小学生体系である。子どもが忍者のコスプレをしているように見えるが、同に入っているので本物にも感じる。
「吉田さん、あの、忍者がいるんですけど」
「忍者でございますか。古くから伝わる男性警護に特化した一族の出のことでございますね」
忍者という言葉はあるのか。しかし警護に特化した一族となるほど、それは興味深い。
「日本だと、戦国時代に活躍した諜報部門だったんだけどどういった歴史を持っているの?」
「私も不勉強でそこまで詳しいわけではございませんが、忍者は、戦国時代に国土が荒れた時、男性を影が見守り、時には敵対する城に乗り込み男性を攫ってきたりと隠密、諜報、護衛に優れたものを忍ぶ者として忍者と言いました。江戸や近代以降も男性の護衛役として勤め続け、現代では民間男性警護会社【忍び】として大きな勢力をもっております」
パラパラとめくると忍者がゾロゾロと並んでいる。顔を隠していないからか、アニメとかの何ちゃって忍者に見える。おそらく会社ごとに並んでいたのだろう。ここは【忍び】という会社所属のページということみたいだ。
「なるほど、男性の護衛という役割を持っていたから平和な時代でも忍びとして生き延びたわけですね。そして、現代でも民間の護衛として役割を持っているというわけですか。興味深い歴史ですね。日本だと忍者は絶滅していますからね」
「左様でございましたか。忍者の中で気になるものでもおりましたか?」
ロリ忍者の名前は、蜂須賀紅音と書いてある。蜂須賀というと織田家に仕えていた武将である蜂須賀正勝が有名だ。忍者だったという説があるので、その子孫なのかもしれない。
「蜂須賀紅音という子を呼ぶことはできますか?本物の忍者を見てみたいので」
「承知しました。顔合わせをということで先方にご連絡いたします」
結局つけることになるのか。いやしかし、本物の忍者はみたい。
「もし男性警護官というのがつく場合、その人は毎日通うことになるの?」
「男性が許可をすれば住み込みで、許可がなければ通いとなります。値段としましては住み込みの方が安くなります」
日本的な感性だと住み込みは高くつきそうだが、違うのだろうか。
「食費込みだからということですかね?」
「いえ、男性と同じ家に泊まれるというのがステータスだからでございます。それだけ信頼の証であるとも言えます」
婚姻候補みたいなものなのだろう。それは、分厚い冊子を作るほどお金をかけるというわけだ。
「なるほど、さぞや人気の職業だろうね」
「はい、おっしゃる通りでございます。女性のつきたい職業のトップを取っております」
華族の習慣で贈るということからも、女性をなるべく男性に近づけさせたいと考えることからも狙いが読めてきたね。
「ということは、婚姻率が高いということかな。警護した男性が守られているうちに親愛を抱きやすい傾向にあると」
おおよそこんなところであろうか。
「御慧眼でございます。男性警護官がいると外に出やすくなるなど男性の心理的にも良い効果があるそうで、そうした信頼の積み重ねが愛情につながるものかと」
「なるほど、古くから護衛を担ってきた忍者がなくならなかった理由がよくわかったよ」
男女比の違いは思わぬところに出てきているね。長宗我部家的には民間の男性警護官の会社が何かしら影響力がありそこに恩を売りたいということを十分に考えられる。力を持つものがいいように使うということは残念ながらよくあることだ。だがしかし、忍者は生で見れるなら、その思惑に乗ってもいたしかない。
要するに思惑を読んだ上で、こちらにデメリットがなく互いに利益があるのであれば目くじらを立てるほどのことではないのである。
そんなことを考えながら大和の教育法の読書を再開しているとあっという間に昼になっていたようだ。コンコンと、吉田さんが食事に呼びに来ていた。
しかし、ふらふらと外に出るタイプではないが、本を外に借りに行きたい場合大掛かりになってしまうのが男女比がイカれた国の困るところだ。窮屈に感じる部分もあるが、慣れなのだろうか。
「学習院様、男性警護官の忍者のものですが、本日午後顔合わせに来られるそうです」
「随分と早いね。今日は警護の仕事がなかったのか」
「あったとしても社内で変わっていただいたのでしょう。顔合わせの希望の方が長期の仕事となりますから」
「将来がかかっているのであればそういう処置もあるか」
蜂須賀さんは16歳だしね。これからというところだろう。義務教育を終わったら働き始めるということも多々あるようで、高校進学率も低く、当然大学進学率はかなり低い。20あたりで子どもを産む人が多いのもそういうことだろう。実際に日本において平均出産年齢が30歳になったとニュースになっていたが、体的な出産適齢期は20前後からと言われている。大学進学率の上昇などで学生で子どもを生むのは難しく、結果遅れているわけだが、社会の仕組みが人間の体の仕組みに合っていないというのは、日本社会の大きな問題点だろう。
しかし、忍者村のコスプレ忍者は見たことがあるが、ロリ忍者は流石にアニメでしか見たことがない。どちらにせよ、本物の忍者ということで、期待が高まってくるというものだ。
談話室に本を持ち込んで読書をしつつ、メモを取ることにする。これをしていると1日はあっという間にすぎるので注意が必要である。
しばらくすると、吉田さんが1人の女の子を連れてきた。黒タイツの上から赤のクノイチっぽい服を着ている。顔は隠さず髪は後ろに一つ結びでまとめてある。ポニーテールというやつだ。目はなぜか眠そうだ。
「ん……蜂須賀紅音……よろしく……」
必要なこと以外話さないタイプなのか口数は少ない。非常に忍者っぽい。
「蜂須賀紅音さんだね。学習院学というよ。日本からきたんだよろしくね。早速なんだけど忍者の技とかって見せてもらったりできる?」
「ん……わかった……」
そういうと、パンと乾いた音がして目の前から紅音ちゃんが消えた。そしてあたりを見渡し、探すと吉田さんの後ろにいる。
消えたというより、隙をついたというやつだろう。
「なるほどミスディレクションというやつか」
手品である技だ。要するに視線の誘導である。
「ん……忍術は虚を突く術……力より技……」
「日本だと忍者というと手裏剣とか投げるイメージなんだけど大和でもするの?」
「ん……それ戦国忍者のこと……現代忍者はスタンガン……」
そういうと、服から小型のスタンガンを取り出す。よく考えなくても手裏剣は銃刀法違反だもんね。薬物も勝手に調合したら薬事法違反である。
「なるほど、忍者って修行したりするの?あと蜂須賀ってことは日本だと戦国武将にいるんだけれども、元々忍者の一族なの?」
「ん……修行大変……蜂須賀は忍者一族の名門……武将でもある……紅音優秀……」
歴史的には大きく変わってないのかな。蜂須賀紅音さんは二凧のようにお話が大好きというわけではないようだ。また時間をかけて、よく聞くことにしよう。
「他の忍者一族の名門だとやっぱり服部とか風磨とか?」
「ん……どちらも戦国の世に活躍した大忍者……今も襲名してる忍者がいる……」
先ほどの中にもそれっぽい名前の者がいた気がする。またじっくりと見させてもらわないといけないね。
「やっぱりそうなのか、今の忍者はプロの護衛だと認識してるけど、戦国時代みたいに護衛以外もするの?」
「ん……危険となりそう場所をあらかじめ排除することはあるけどあくまで護衛任務の範疇……あとは男性が望むことであれば基本的に何でもする……」
なんでもするか。よく聞く単語だが、実際になんでもすることはない。常識の範囲内で何でもするというのが近いだろう。
「望むというのは、例えば一緒にバレーボールの練習してほしいとか、本を取ってきて欲しいも含まれる?」
「ん……役得……護衛対象が危険になるような指示は聞けない……今言ったのであれば全部大丈夫というかやってほしい……」
忍者は高度な柔軟性を持って現場対応できると聞いたことがある。天井に張り付くのも実際にできたという噂がある。なんとなくだが、便利屋というか、無茶振りされていそうなイメージだ。
「じゃあいくつかテストしたいんだけど、これにクリアしたら蜂須賀紅音さんを指名ということでどうだろうか。吉田さんそれでもよろしいですか?」
「学習院様のお好きなようにおやりくださいませ」
「ん……私は大丈夫……蜂須賀一族は織田信奈公の無茶振りの中で名を挙げた一族……どんな無茶振りも想定の範囲内……」
ほう、織田家の無茶振りに耐えてきたというと歴史的な価値を感じてワクワクしてくる。無茶振りが想定の範囲内とは、どのような修行をしているのだろうか。ちなみに戦国といえば大人気の信長公は名前が信奈公になっているらしいが、性格はほとんど変わらないようだ。
「では、もっと近くまで来てくれるかな?」
「ん…承知」
身長が135cmなので170cmの私からだとまあ小さいこと。とりあえず頭に手を置いて撫でてみる。小さい女の子を撫でてみたいという気持ちも全くないというのは不誠実であるが、男女比のおかしな世界では、接触というのがどれほど危険なのかということが、わからなかった。
例えば、日本で男性が可愛いと思っている相手から頭をなでられたところで、突如欲情し、襲い掛かるということはまずないだろう。しかし、自分に好意を持っているときている思い、積極的になってしまうということは非常にあり得る。童貞だと即勘違いすることだろう。
そういった意味でも接触におけるテストは一度必要だ。
「ん……忍耐テストとみた……護衛対象と近いため発情して襲わないための訓練はもちろん受けている……接触されても無問題……」
やっぱりそういう訓練を受けてるのか。男性の護衛だと1番の懸念点はそこだろう。男性警護官に襲われましたでは話にならない。信頼度ガタ落ちである。
「流石に忍者に襲われたら勝てないからね。確認しておきたいところだよね」
「ん……日本では男性警護官がいないと聞いてる……そのための確認と認識した……」
「じゃあ次はこちらだね」
そういってひょいとお姫様抱っこをする。体重軽すぎるな40kgあるかないかというところだろう。余分な脂肪がなくしっかりとしなやかな筋肉がついている。
「ん…これは伝説の逆お殿様抱っこ……なんと……」
お殿様抱っこというのはお姫様抱っこのことらしい。これは触りたいからしているわけではなく、どれぐらい接触になれているかの確認と、この状態からでも抜けられると聞いたことがあるからだ。
「ここから相手を攻撃せずに抜けることはできる?」
「ん……余裕……でも護衛対象に触れてしまう……触れる許可があればできる……」
「もちろんいいよ」
流石に触れずに抜けろは鬼畜すぎるからね。そう答えるとするするとあっという間に抜けて後ろに回り込まれている。結構ギュッと抑えていたはずなのにあっという間に抜けられてしまった。マジックでも見ているかのようである。
「ん……日本男性……女性怖がらないと聞いたけど本当だった……漫画でしかないシチュエーション……」
この世界でも忍者漫画とかあるのだろうか。もし警護官をつけるとしたら背の高い女性では申し訳ないが、一ミリも興味が持てないどころか、こちらをジロジロとみられたら流石に気持ちが悪い。
「怖がるような環境で育ってないからね。遊戯室行こうか。吉田さん遊戯室に移動しても良い?」
「もちろんでございます。必要なものはございますでしょうか」
「一応バレーボールだけ用意しておいてほしい」
「承知しました」
遊戯室に移動すると、蜂須賀紅音さんが音もなくついてくる。これは間違いなく忍者だ。昔、廊下を音もなく歩く高校教員のことを忍者と呼んでいたが、人間は訓練をすると足音を消せるのかもしれない。
「忍者って身のこなしが素晴らしいというイメージなんだけど、バク転とかバク宙とかってできる?」
「ん……一般教養……」
そう言ってロンダートバク転を連続で華麗に決める。カッコいい。本物の忍者だ。たしかに、これは男性が惚れる動きだ。
「すごい!お見事!カッコイイよ」
「ん……褒め言葉頂戴感謝……」
あれだけぐるぐる回っても息一つ上がってない。これが忍者か。
「蜂須賀さんに質問なんだけど、男性警護官をつけたら、例えばこの辺りを2人で出かけたりするというのはそこまで危険ではない?」
「ん……男性区は治安が良い……不測の事態に備えてもう1人いるのが望ましいが行動可能……」
なるほど、蜂須賀紅音さんが信頼できるのであれば、彼女についてきてもらい、この辺りの周辺調査もできるのか。やはり自分の足で歩いてこそ異文化と言えるだろう。であれば、男性警護官をつけるのもやぶさかでない。ただ雇い主が、長宗我部家になるのが困るね。情報が筒抜けである。しかし、流石に吉田さんの前で長宗我部家に不信感がありますというような質問はよろしくないか。
「最後に、バレーボールを一緒にしてほしい。ラリー形式でいけるかな」
「ん……無問題……」
ボールを投げると綺麗に返ってくる。ポーンポーンとアンダーもオーバーも非常に安定している。あの小さな手でオーバーができるのは本当に器用だ。スパイクを打ち込んでみるが全く問題なく綺麗にあげてくる。
「私はバレーボールが好きなんだけど、こうやって一緒にやってと頼んだらやってくれる?」
「もちろんこれはとても嬉しいこと……」
珍しく食い気味に話しているので、どうやら喜んでいるようだ。眠たげな目が怪しげに光っている。まあ男性警護官をつけないといけないということであれば、紅音しかないだろう。流石にデカい女性を侍らせる趣味はない。
そして、先ほど接触したところ、こちらが嫌悪感を感じることもなく、また紅音も嫌悪感を抱いてないように思える。おそらく、護衛という立場なら自分からということもなさそうだし、安心して接近することができる。男性が少ない以上、女性と接触は避けられないのだから、今は味方を増やさなくてはならない。
「吉田さん、男性警護官に蜂須賀紅音さんを指名してもらうよう手配をお願いします」
「かしこまりました。蜂須賀紅音様、おめでとうございます。住み込みか通いかどちらにいたしましょうか」
「ん……すごく嬉しい……住み込みだともっと嬉しい……」
そういえばそんな問いかけがあったね。住み込みでも問題はなさそうだ。恩は売れるうちに売っておこう。会話が増えれば考えていること、紅音がしてきた修行などもわかる。そうすれば、何を大切にしている人間なのかもわかるだろう。二凧が裏表なく、知識が好きなのがわかるように、そうした人間の特性は滲みでてくるものだ。
「住み込みにしてもらおうかな。便利使いするけど本当にいいの?」
「ん……忍者の誉……」
洗脳されているのだろうか。戦前の日本が国に忠誠を尽くすことを当たり前だと思っていたように、男性に尽くすことが当たり前になっているような気もする。
男性に騙されるという意味では危ないことだと思うのだが、まあ私個人で見れば幸運なので今は見ないことにしよう。
荷物を持ってくるらしく挨拶もそこそこに、一瞬にして消えていった。なんとも素早いことだ。
その夜
「ん……今日から住み込みの男性警護官……蜂須賀紅音……よろしく……」
「蜂須賀家の忍者か、これはまた名門を選んだようだ。よろしく頼む」
早くも蜂須賀紅音さんが引っ越してきたようだ。荷物が少ないが後から送ってくるのだろうか。
「ボクより小さい……(やっぱり小さい子が好きなのかな)」
「蜂須賀さんよろしくね」
「ん……御意……」
忍者に対する接し方のためにも、男性向けの女性との接し方のような本が欲しいね。世の男性はどう学んでいるのだろうか。
手っ取り早い方法は、女性向けの大衆紙を読むことで、女性がどう接してほしいのかを知ることだろう。この辺りは要研究である。結局のところ、異文化においては人間関係が大切である。これは誠実であるということよりも知識をしっかりと得ておくという方が相手からの信頼を得られるというものだ。誠実さというのは失敗したときのカバー用である。
そんなことを考えながら、夜遅くまで読書の続きをしていた。
国家公務員の男性警護官と民間の男性警護官の違い
国家公務員の男性警護官 国家資格、国家男性警護員を持っており男性絡みの犯罪に対しての逮捕権を持っている。男性警護特殊警察官とも呼ばれる。
民間の男性警護官 民間資格、男性警護職員を持っており、いくつかの有名企業がある。一般庶民が男性と婚姻できる可能性のある数少ない職業で人気は非常に高い。親が、小学生の頃から訓練を受けさせることもあるが、毎年多くが脱落するという。